【コラム・坂本栄】4年前の今ごろ、つくば市長2期目に入ったばかりの五十嵐氏は、選挙中に五十嵐市政を批判するミニ紙を発行した元市議を名誉毀損で提訴した。今回の選挙でも五十嵐市政を酷評するチラシが配られ、五十嵐氏はそれらに反論するチラシを出した。今回は紙上の反論で済ませ、批判チラシの正誤を司法の場で争わないのだろうか?
11月定例会見の際に聞いたところ、「(今回は提訴)しない。(チラシで)反論は済ませている」とのことだった。前回は裁判沙汰にしたものの、勝ち目がないと思ったのか、1年2カ月後に提訴を取り下げている。4年前の失敗に懲りたのかも知れないが、本音は論争を続けたくないようだ。
数字と定義を巧みに操作
市長選の終盤に出された五十嵐陣営のチラシでは、①市役所の人件費増、②洞峰公園の管理費、③五十嵐氏の政治資金、④市役所の管理職比率、⑤水道料金の値上げ、⑥市長支援者への便宜供与、⑦市の財政状況、⑧県立高の不足問題―について、批判チラシに反論した。市議に選出された酒井泉氏が執拗に追求している①と④の要点は、以下のように整理できる。
<人件費>
▼酒井氏:この8年間(2017年~2024年)で市役所の人件費は30.8%も増え、これは市の人口増加率を上回っている。
▼五十嵐氏:算定方式の変更により人件費は増えたものの、最近の7年間(2016年~2022年)では20.8%増にとどまっている。
<管理職>
▼酒井氏:係長以上の管理職が市職員の53%も占め、現場の職員が不足している。これでは迅速な市民対応ができない。
▼五十嵐氏:課長補佐以上の管理職は26%に抑えられている。土浦市の場合、係長以上は36.6%になっている。
それぞれの数字を比べて面白いのは、五十嵐氏は酒井氏の指摘に正面から反論せず、議論の前提を巧みにずらしていることだ。人件費問題では比較する年次を変え、伸び率を低めに操作している。管理職問題では、管理職の定義を「課長補佐以上」にすり替え、下位の係長級を除外している。こういった逃げの反論では、たとえ訴訟に持ち込んでも勝てないだろう。
ケチケチ・ボロボロ計画
②の洞峰公園管理費問題は、議会会派・自民党政清クラブの市政報告(号外)を意識した反論と思われるが、ここでも正面から答えていない。
▼政清クラブ:市営化された洞峰公園の維持管理費は20年で40億円かかるが、このほかに(体育館など建築物の)長寿命化改修工事に50億円が必要になる。
▼五十嵐氏:プラス50億円は一部市議が計算した独自の数字であり、市の試算では年間3500万円(建て替えが30年先とすれば計10億円強)にとどまる。
洞峰公園市営化に伴う財政負担がどのくらいになるか、議会で論争があった。市は市営化に伴う新規支出を少なく見せようと、体育館などが老朽化しても修理~修理で済ませ、器機類などを新規更新しない「ケチケチ・ボロボロ」計画を立てた。これに対し有力市議は、他市営施設の長寿命化計画を参考にして、計50億円という改修費用を算出した。
20~30年先、公園内の建物を快適に使えるようにするには長寿命化が必須であり、市が予算化した年3500万円では体育館などの使い勝手が悪くなる。五十嵐氏の反論は、20~30年先の利用者に思いをはせない無責任な予算の立て方といえる。
論争は新しい議会の場で
人件費の割合、市職員の構成、公園の管理費、いずれも市政の大事な問題であり、新議会は選挙戦での論争を引き継ぐ必要があるだろう。新しく市議に選ばれた酒井氏、トップ当選した塚本洋二氏(政清クラブ)らの鋭い追求を楽しみにしている。(経済ジャーナリスト)
<参考> 名誉毀損騒動については「…その顛末を検証する」(2022年2月7日掲載)をご覧ください。