【コラム・斉藤裕之】南向きの掃き出し窓を開けると、そこには大きめの鉢が2つ。ひとつはレモン、もうひとつはコブミカン。どちらも膝の高さぐらいに剪定(せんてい)してある。レモンの方は何度か実がなったことがある。コブミカンは当時タイ料理が好きだった妻のためにたまたま見つけて買ったものだが、結局、その葉を使ってトムヤンクンを作ることはなかった。
いつまでも暑い日が続いたこともあって、エアコンをつけて閉めっぱなしだった掃き出し窓を久しぶりに開けてビックリ。レモンの葉がきれいに無くなっている。犯人はすぐに見当がついた。隣のコブミカンに目をやると、合計4匹のりっぱなあおむしがいる。すぐにでも、あおむしの強制退去といきたいところだが、数日後に虫好きの孫が来ることを思い出して、そのままあおむしに在留許可を与えることにした。
孫は「はらぺこあおむし」という絵本が大好きで、うちに来ると、大きな声ではらぺこあおむしの歌をよく歌っているのだ。そんな話をある友達にしたら、「うちにも金柑(きんかん)とスダチの木があるんだけど、同じ柑橘系でもあおむしはスダチが好きなのよ。一度スダチに着いたあおむしを金柑に移したことがあるんだけど、またスダチに戻ってきちゃって…」。そういえばうちの場合も、まずはレモンの葉っぱから坊主になっている。ということはレモンの葉を食べつくした時点で、あおむしたちは隣のコブミカンに引っ越していったということ?
ところ変わって、山口の果樹園。主にぶどうと梨を作っていて、ここで働く義妹は8月から9月いっぱいまではほぼ休みはないという。今年は台風の被害もなく天候にも恵まれ順調な収穫期を迎えられたと思いきや、農園にクマが出たらしい。「1頭は罠(わな)にかかったんじゃけど、もう1頭がなかなか捕まらんのよ」
聞けば、既に相当な被害が出ていて、確かにクマにとっても、やれ幸水だのシャインマスカットだのは一度口にしたらリピートしたくなるご馳走に違いない。はらぺこあおむし同様、パディントンやプーさんなど、絵本の中ではクマはとても愛らしいキャラクターとして描かれているが、実際のはらぺこクマさんは放っておくわけにはいかない。
「森のくまさん」という愉快な歌がある。親切にも「お嬢さんお逃げなさい」というクマさん。できればクマさんも人に会いたくないだろうに。かわいそうだが、害獣として駆除の対象になるのも仕方ないのか。
さて後日、やって来た孫はあおむしを見て大喜び。こちらとしては、早くさなぎになってもらわないとコブミカンも坊主になってしまうので気が気ではなかった。ところが翌朝、孫があおむしを見ようと掃き出し窓を開けたところ、あおむしが1匹になっていた。恐らく鳥に食われてしまったのだろう。「はらぺこあおむしははらぺこ鳥さんに食べられちゃった」
ちょうど義妹から梨とブドウが届いたので、東京に帰る孫に持たせた。結局、最後は人間が全部食っちゃうんだなあ。(画家)