火曜日, 9月 17, 2024
ホーム文化200人が名画に酔い 「懐かシネマ」幕下ろす 水海道 宝来館跡地

200人が名画に酔い 「懐かシネマ」幕下ろす 水海道 宝来館跡地

常総市水海道宝町にかつてあった映画館「宝来館」跡地で7日夜、第10回となる野外映画会「懐かシネマ」が開催された(9月4日付)。2014年から続いてきた催しも今回が最終回。主催者の東郷治久さんや羽富都史彰さん、神達岳志常総市長、俳優の山本學さんらのあいさつの後、山田洋次監督・高倉健主演の「幸福の黄色いハンカチ」が上映され、約200人の観客が名画に酔いしれた。

「最後に値する素晴らしい映画だった」と東郷さん。「来場された皆さんから、かえって自分たちの方が元気をいただいた。このパワーを次の世代へ渡さなくては」と羽富さん。

オープニングセレモニーで、神達市長(左端)から花束を受け取る(右から)東郷さん、井桁さん、羽富さん

40年越しのサプライズも

最後にサプライズもあった。1983(昭和58)年の宝来館取り壊しの際、同館に寄せる思いのたけをつづり、新聞折り込みチラシで7000枚を配布した人がいた。ずっと名前を秘し続けてきたその人が、今回ついに明らかになった。

その人とは岩見印刷(水海道橋本町)社長の岩見昌光さん(70)。当時30歳で、「映画館という一つの文化が水海道から消える。そのことに市民の皆さんに思いを馳せてほしかった」との意図だったそうだ。これには東郷さんも「宝来館を閉めることは両親も残念に思っていただけに、あのチラシを見たときは本当に喜んでいた」と、万感の思いがこみ上げていた。

会場周辺は多くの市民らで賑わった

「宝来館は私の原点」

発起人の一人の井桁豊さん(89歳)は「私は水海道生まれ宝来館育ち。絵と映画が好きだから映画看板絵師を続けてこられた。いろいろあったが苦労とは思わなかった」と、宝来館での日々を振り返った。

井桁さんは1939(昭和9)年生まれ。中学卒業と同時に宝来館に勤め、映画看板の修業を始めた。「中学校の先生が『絵がすごくうまい子がいる』と推薦してくれた。宝来館でも描き手を探していたところで、当時好きだったスタルヒン(巨人軍などで活躍したプロ野球投手)の絵を見せて一発合格だった」

当時の上映は3本立てで週替わり、短いときは3日で替わることもあり、絵を入れている余裕がなく、文字ばかりの看板のときも多かった。看板以外の仕事では、近くの町の倉庫などにフィルムと映写機を運び込み、出張上映会を開くこともあったという。

井桁さん

20歳のとき修業のため上京。赤羽東映やオリンピアなどの映画館で住み込みで働く一方、当時映画街として栄えた浅草六区や日比谷の看板を見て回り、腕を磨いた。「四谷にあった映画看板専門の会社でアルバイトもした。背景はほかの人に任せて人物だけを描いた。顔を描ける人は少なかったので、忙しいときは徹夜続きだった」

映画会社からはチラシなどの宣伝材料は来るが、それを基にどう描くかは絵師のセンスの見せどころ。フィルムが白黒であっても看板では頭の中で色を補ってカラーで描く。井桁さんはほかの人が5色で描くところを10色以上も使い、遠くからでも目を引くよう立体的に、躍動感あるタッチで描いた。

東京では15年ほど映画看板を描き続けたが、テレビの普及などもあって仕事が減少。谷田部町(現つくば市)に家を建て、商業看板のほか賞状など筆耕の仕事をなりわいとしながら、シネフォーラムつちうらなどの映画看板も描き続けた。

2014年に「懐かシネマ」の活動を東郷治久さん、羽富都史彰さんと共に始めたのは「宝来館は自分の出発点。その原点の姿を残したい」との思いもあった。土浦やつくばでの個展では、自身の描いた映画のポスター絵や、スター俳優のポートレートなども展示。次回開催は来年4月、つくば山水亭(つくば市小野崎)で予定しているそうだ。(池田充雄)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

里山の暮らしを学ぶ(3)《デザインを考える》12

【コラム・三橋俊雄】今回は「ブリコラージュ(bricolage)」のお話をします。文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースの著書『野生の思考』に登場する「ありあわせの道具や材料を使い自らの手でモノをつくる」というフランス語で、日本では「器用仕事」「日曜大工」などと訳されています。 コラム11(8月21日掲載)で紹介した桶(おけ)職人のTさんは、まさに「ブリコラージュの名人」でした。彼は、生活に必要な道具をつくるとき、まず、その道具の機能的・形態的・構造的イメージと重ね合わせながら、それに使えそうな材料を身の周りの自然から探します。 そこには、自然物あるいは自然物の一部を、つくりたい道具のイメージと重ね合わせる「見立て」の技を通して、そのモノがもつ形状や構造を最大限に生かし、目的にかなう道具をつくり上げていく「ブリコラージュ」の手法を見ることができます。 上の左の写真は、農具置き場としてTさんが田んぼの脇に建てた納屋の写真です。この納屋の庇(ひさし)を支える方杖(ほうづえ)と呼ばれる部位は、雪の重さで曲がった杉の「根曲がり材」を利用したものです。この方杖からは、自然の造形を生かし構造的にも合理的で美しい、ものづくりの知恵を見ることができます。 右の写真は、農作業用の鎌などを研ぐために用いられる砥石(といし)の台です。後方は現在使われているもので、2本の角材を脚として釘(くぎ)で台座に打ちつけたものです。一方、手前は、Tさんが長らく愛用していた砥石の台です。これは、自然木の三つ股の部分を砥石台のイメージそのままに切り取り、わずかな加工を施しただけのものです。 こうした砥石の台座と脚部を一体としてとらえ、それに見合った自然物を探し利用するものづくりの手法は、ブリコラージュの好例と言えるでしょう。 曲がり具合がちょうどよい そのほかにも、Tさんのお宅には、Y字型の「イツキ」の枝を利用した物掛け棒や、奥さんのHさんが杉の下刈りに行ったときに「カッコガエエナー」と思って切り出してきた太さと曲がり具合がぴったりのご主人愛用の杖(つえ)、筵機(むしろばた)の足に使うため納屋の脇に逆V字型にしばらく立てかけてある太めの二股の原木など、枚挙にいとまがありません。 また、コラム10(7月16日掲載)に登場した「背負子(しょいこ)」の両端の「オヤギ」も、Tさんが「曲がり具合がちょうどよい」と山から切り出してきて保存し、必要なときに利用するブリコラージュの技に違いありません。 ひるがえって現代のものづくりは、自然が創り出してきた造形を無視して、加工の手間やエネルギーを浪費しながら、大量生産型、技術優先型のものづくりに邁進(まいしん)しているように思えます。上述のような、里山の暮らしの中から生み出されてきた「ブリコラージュ・デザイン」は、まさに、人と自然が共生していくための一つの「在り方」といえるのではないでしょうか。(ソーシャルデザイナー)

土浦で初 筑波大芸術系卒業制作展 市民作家減少、新たな萌芽に 

筑波大学芸術系の卒業制作作品のうち、特に優れた作品を展示する「筑波大学アート・コレクション展 TURNING POINT(ターニング・ポイント)」が土浦駅前の同市大和町、アルカス土浦1階市民ギャラリーで開かれ、絵画や造形など卒業生の力作16点が展示されている。同大アート・コレクション展の土浦市での開催は初めて。 決意表明の作品 日本画や彫塑(ちょうそ)、書、版画、総合造形など、14の領域を有する筑波大学ならではの多様なジャンルの作品が展示されている。第11回MOE創作絵本グランプリを受賞した絵本作家、塩満幸香さんの油彩画「Sit down, please.」や、多摩美術大学講師の陳芃宇さんの日本画「The End・Be Start」、宇都宮大学准教授の株田昌彦さんの油彩画「排気4000 Ⅰ,Ⅱ」など横幅2~4.5メートルの大作や、映像作家浅井佑子さんの映像作品「make-up」なども見ることができる。 いずれも同大で「芸術賞」と「茗渓賞」として1999年から2018年までに表彰された受賞作だ。「芸術賞」は1997年度、「茗渓会賞」は2006年度に始まった表彰制度で、これまで120点余りの作品が受賞している。受賞作品は毎年大学が買い上げ、「筑波大学アート・コレクション」として収蔵されている。卒業制作は、芸術を志す若者が、自身の今後の方向性を宣言する決意表明の作品でもある。 土浦市の友人と一緒につくば市から訪れた須藤スミ子さんは「これまでヨーロッパやアメリカなど16カ国の美術館を訪れているが、遜色なく、プロ並みの力作ぞろいで迫力があり、驚いた。若い人たちにがんばってほしい」と話し、展示された工芸作品などに見入っていた。 市民美術展、県内一の歴史 土浦市は、市民公募型の美術展「土浦市美術展覧会」が1947年に始まり、県内一の歴史ある美術展として知られるなど、県南の芸術文化の中心地となってきた。しかし少子高齢化が進む近年は、創作活動をする市民作家が減少しているという。若い感性で創り出された作品に触れることで土浦市の芸術文化振興の新たな萌芽のきっかけにしたいと同市が展示を企画した。 企画した同市文化振興課の若田部哲さんによると、ターニング・ポイントというタイトルには、展示された作品が学生の卒業後の方向性を決め、大きな転機となったという意味と、同展が土浦の芸術文化への意識を変える転換点になればという思いが込められているという。「芸術系を目指す若い人たちにぜひ見に来てほしい。土浦の高校生にも見てもらえたら」と来場を呼び掛ける。(田中めぐみ) ◆会期は10月20日(日)まで。開館時間は午前10時~午後6時。月曜日は休館(祝日を除く)。入場無料。土浦市民ギャラリーは、土浦市大和町1-1、土浦市立図書館1階。問い合わせは電話029-846-2950(同ギャラリー)。

つくば市長における退職金問題の研究《吾妻カガミ》191

【コラム・坂本栄】コラム189(8月19日掲載)で「今度は退職金もらうの? つくば市長」と問うたら、要旨「もらうけど、金額は市民に決めてもらう」との答えが五十嵐市長から返ってきた。その仕組みは記事「ネット投票し市民評価で金額決定へ…」(8月26日掲載)に詳しい。 金額を操作できる仕組み ざっと説明すると、ネット投票(採点)で2期目の仕事振りについて市民に点数を付けてもらい、その平均が100点ならば規定額の2040万円を受け取り、市民の評価が50点ならば1020万円で我慢するというスキームだ。評点ゼロの場合は、受け取りを辞退した1期目の退職金と同じ22円(法律上の最少額)になる。 一見すると、仕事振りと退職金額を連動させるスマートな仕組みになっている。しかし、市民だれもが投票できるわけではなく、採点に参加できるのはマイナンバーカード取得を済ませた15歳以上の市民に限られ、しかも市が用意したスマホ上の参入アプリを使いこなせる人だけが対象になる。 つまり、マイナンバー嫌いとネット弱者は市長採点に参加できないから、この仕組みの公平性には疑問符が付く。市長ファンのマイナンバー好きとネット強者を動員して高い得点を演出することが可能だからだ。もちろん、逆動員をかけて低い平均点に誘導することもできる。 採点者無作為抽出を回避 市民採点を導入するのであれば、無作為に抽出した市民3000人ぐらいから何点付けるか聞き、その平均点を出して決めるべきだろう。新聞やテレビが世論調査に使う方法だ。これであれば、回答者がマイナンバー好きとネット強者に偏らず、いま市長が導入しようとしているスキームよりも公平性を担保できる。 たとえ五十嵐氏が考案した仕組みを使うにしても、市ホームページ(HP)上の市政広報(PR)だけを信じてはいけない。市長は「市長公約事業ロードマップ2020~2024」を採点の参考にしてほしいと言っているが、市政を厳しく監視している本サイトの記事も参考にしてもらいたい。 ハムレット並に悩んだ? コラム189では「(1期目の退職金を辞退したのは)おカネにこだわらない市長像を市民の間に広げたかったようだ。政治の世界ではこの種の受け狙いの政治手法をポピュリズム(大衆迎合主義)と呼ぶ」と、五十嵐氏の振る舞いを批判。「退職金はハードな仕事をこなす市長の報酬の一部だから…、堂々と受け取るべきと考える」と述べた。 市長の後援者からも「受け取るべきだ」と言われていたようで、2期目の退職金は受け取った方がいいか、1期目との整合性を保って2期目も受け取らない方がいいか、五十嵐氏は悩んだようだ。ハムレット並の煩悶(はんもん)の末、「もらうけど、金額は市民に決めてもらう」という仕組みをひねり出した。 退職金辞退=ポピュリズム=批判をかわし、秋の市長選挙に(資金面で?)備えたわけだが、ネット採点という市民受けを狙ったカラクリといえる。まだポピュリズム思考から脱していないようだ。(経済ジャーナリスト) <参考> 最近復刊され「つくば市民の声新聞」第7号も採点の参考になります。発行者の許可をもらいリンクを張りました。青字部をクリックすると読めます。

やさしい日本語で外国人にも分かりやすく 防災イベント 28日つくばで

9月商品化の「防災かるた」も登場 やさしい日本語を使ったゲームを通じて外国人に防災意識を高めてもらおうと、つくば市の市民団体「にほんごでおしゃべりプロジェクトチーム」(山口寛子代表)が28日、同市吾妻、つくばセンタービル内の市民活動拠点コリドイオと同センター広場で「やさしいにほんごで にげろ!たすけろ!防災脱出ゲーム」を開く。参加者は、施設各所に置かれた防災がテーマの課題を解きながら、施設からの脱出を目指す。今年で4回目で、昨年は筑波大で開かれ約80人が参加した。 イベントでは、市内在住の防災士で主催団体にも関わる水谷寛子さん(64)が、イラストや文面を自作し、9月に商品化された防災かるた「やさしいにほんごで ぼうさいかるた」(白泉社製作)も使われる。水谷さんは第1回から企画に参加する中で、防災についてどうしたら外国人により分かりやすく伝えられるか考えたのが、かるた製作につながった。「災害の多い日本で安心して暮らすためには、自分の防災力を上げることが大切。かるたはルールが簡単。大人も子どもも楽しみながらできる」と話す。 やさしい日本語で月2回おしゃべり会 主催する同チームは、外国人を対象とするおしゃべり会を2021年から月2回開催し、8月で91回を数えた。ベトナムやスリランカなどつくば在住の外国人や日本人らが参加し、外国人が日々の暮らしで感じる疑問を語り合う。代表の山口さん(40)は「『やさしい日本語』というのがあることを、外国の方だけでなく日本人にも知ってもらえたら、英語ができなくても、いざという時に、必要なことを外国の方に伝えるのに役立つ」と話す。 今年1月の能登半島地震では、避難所に身を寄せた外国人が、言葉がわからないことから「勝手に手をつけたら怒られるのでは」と思い込み、支援物資の食糧や毛布を手にできなかったことが報道された。防災かるたを制作した水谷さんは「決してそこにいた人が冷たかったり、意地悪だったりしたわけでない。混乱の中でも外国人に分かりやすい言葉で伝えられたなら状況が違っていたはず」と言う。 同チームで活動する日本語教師の鬼木尚子さん(56)は「一つの文を短くすることで伝わりやすくなる。『備蓄』といっても難しいので『ようい(用意)』にするなど、難しい日本語や漢語を使わないのが大切」だと言い、発音が日本語読みになってしまった「カタカナ語」も通じにくいと話す。 身を守る方法 楽しみながら知って 山口さんは「過去のイベントには子どもから大人まで、家族連れや1人での参加もあったし、日本人も参加している。防災のことは、災害がないと忘れるし、見直しを怠ってしまいがち。ジャッキを使った救出や模擬消火器体験、本物の消防士とのやりとりなど、普段はなかなかできない体験ができるので、是非、多くの方に参加していただければ」と言い、共催する市国際交流協会の中村貴之さん(52)は、「災害時に必要な情報をどのように外国の方に伝えられるか考えてきた。身を守る方法を楽しみながら知ってもらえたら」と参加を呼び掛ける。 イベントでは、屋外のつくばセンター広場で、つくば中央消防署の協力を得て水を使った模擬消火器を使ったり、施設内では車の車体を持ち上げるジャッキを使って障害物の下敷きになった人形を助け出したりする。その他に、会場にいる消防士に電話を架け、火事、病気、けがの3パターンの状況を日本語で的確に伝えたり、防災バッグの中身を当てたりする。調理室では非常食のアルファ米を実際に調理して試食体験もできる。 各所には、消防士の意見をもとに作った、緊急時の電話の会話例文や、けがや病気の症状を伝える際に必要になる体の部位名などを、外国人にも分かるように配慮した「やさしい日本語」で記した冊子が用意され、参加者は持ち帰ることができる。(柴田大輔) ◆「やさしいにほんごで にげろ!たすけろ!防災脱出ゲーム」は、9月28日(土)午後1時から4時まで、つくばセンタービル内コリドイオとつくばセンター広場で開催される。参加費は無料。事前申込制。申し込みは専用サイトへ。問い合わせはメール(oshaberinihongo@gmail.com)へ。