土曜日, 12月 20, 2025
ホームつくば中村哲医師写真展 13日からつくばで 元JICA職員「遺志継ぎ国際支援の考え広めたい」

中村哲医師写真展 13日からつくばで 元JICA職員「遺志継ぎ国際支援の考え広めたい」

女性の人権考えるトークセッションも

パキスタンやアフガニスタンの人道支援に従事し、2019年に銃撃を受けて亡くなった医師、中村哲さんの活動を紹介する写真展が、13日から16日まで、つくば市高野台、国際協力機構(JICA)筑波センターで開かれる。写真パネル50点を展示し、中村さんの活動を伝えるDVDの映写も行う。15日にはアフガニスタンと日本の女性の人権について考えるトークセッションやアフガニスタンの弦楽器ラバーブの演奏会も開かれる。

主催するのは「中村哲医師を偲び思索と活動に学ぶつくば市民の会」代表で、元JACA職員の渡辺正幸さん(85)。2022年から同展を始め、今年で3回目の開催となる。渡辺さんはパキスタンで人道支援プロジェクトに携わった経験を持つ。中村さんの遺志を継ぎ、パキスタンでの支援活動を継続する国際NGO「ペシャワール会」を支え、つくば市民に国際支援の考えを広めたいと話す。

写真展開催の思いを語る渡辺正幸さん=つくば市内の自宅

羊の寄生虫駆除から

渡辺さんは1995年から5年間、JICA職員としてパンジャーブ州ドーリ村で支援活動を行った。中村哲さんが活動していた場所から600キロほど離れた、アフガニスタンとの国境近くだ。

ドーリ村の人々に最初に対面した時、人々は銃を携えていた。植物の生えない石と岩だけの谷川沿いの村では、羊が現金と同じ価値を持っており、狭い土地で過剰な羊を放牧していた。牧草が無くなると他の部族の牧草地を奪い、部族同士の争いが絶えない状況だった。そこで渡辺さんらプロジェクトチームは羊の消化管に寄生する寄生虫の駆除薬を投薬することから始め、徐々に村人たちの信頼を得た。牧草地を3つに分割し、羊を入れず牧草を育てる場所を設けてローテーションで放牧する技術や、芋やレモンなどの栽培方法も教えた。

ひどい扱いを受けていた女性の支援にも乗り出した。「女性は雑巾と同じ扱い。人権が無く、女性には教育もしない、病気になっても病院に連れて行かない。死んでもいくらでも替えが効くという考え。そこで(中村さんが現地代表を務めていた)ペシャワールからぼろきれをもらってきて洗って雑巾を縫うということを教えた」。女性たちが作った雑巾が売れるようになり、小金を稼げるようになると、男性が女性を見る目も変わってきたのを感じたという。

村長から「支援を継続」を申し出

5年間のプロジェクトが終わるころ、現地の村長ら10人からプロジェクトチームのメンバーに会いたいと申し出があった。申し出に応じ会場に赴くと、渡辺さんらが現地入りした時には銃を携えていた村人が、その時は誰も銃を持っていなかった。ドーリ村の村長自身も「銃を持たずに村境を超えることがあるのは初めてだ」と驚いた。話は「プロジェクトを続け、隣の村にも支援をしてほしい」という内容だった。武力には武力でという行動原理を、信頼関係を築くことで変えられたことは、渡辺さんにとって大きな経験だった。支援の継続は一存では決められず、日本に持ち帰った。しかし1998年にインド、パキスタンが地下核実験を行い、核兵器の保有を宣言したことから、核不拡散の立場を取る日本政府からは新規の支援協力ができなくなってしまった。

パキスタンやアフガニスタンで人道支援活動をしていたときの渡辺さん(左)とドーリ村の村長(中央)=渡辺さん提供

その後、中村哲さんの著作を読み、自分の体験と重なる所が多いと感じた渡辺さん。「撃たれても撃ち返すな。撃ち合いにしたら話ができなくなる」と言い、話し合いで相互信頼関係を築くことを貫いた中村さんに共感し、「力で欲望を満たす、より大きな武力を持つことが敵対する力の抑止になるという歴史がある。それを逆転させる考えを広めたい」と、2年前から中村さんの写真展企画を始めた。

戦争体験が原点に

国際人道支援への関心は、渡辺さん自身の戦争体験が原点にある。渡辺さんは満州生まれで、7歳の時に日本に帰還した。6歳の時に生まれた弟がおり、背に負ってよく世話をしていた。しかし、生まれたばかりの弟は日本に引き揚げた直後に亡くなってしまった。

「1946年8月、満州からの引き揚げ船で広島に到着し、船から降りてDDT(白い粉の殺虫剤)をかけられて払い落し、もう殺される心配はないと安堵(あんど)した時、弟は飢餓で亡くなった」。少年がぐったりとした幼児を背負い、まっすぐ立っている様子を撮影した写真「焼き場に立つ少年」を示し、「この少年は私そのものだ」と話す渡辺さん。「焼き場に立つ少年」は、アメリカの写真家ジョー・オダネル氏が撮影し、長崎原爆資料館に展示されているものだ。同じような悲劇が当時数多くあったと話す。「貧困が戦争につながる。安心して食べられる社会、不自由になっても助け合う仕組みを作り、戦争の恐怖、家族を失う悲しみをもう二度と繰り返してはいけない。そのためには平和を望む人々の声が大きくならなければならない。若い人たちに展示を見てそのことを考えてほしい」と語り、写真展への来場を呼びかける。(田中めぐみ)

◆中村哲医師写真展「アフガニスタンにあと50人の中村哲さんが居れば世界が変わる」は9月13日(金)から16日(月)、つくば市高野台3-6-6、国際協力機構(JICA)筑波センターで開催。開催時間は全日午前10時から午後4時まで。15日(日)午後1時からは、ラバーブ演奏と「女性と人権―アフガニスタンと日本―」のトークセッションが行われる。入場無料。主催は「中村哲医師を偲び思索と活動に学ぶつくば市民の会」。

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