牛久市にある少年院「茨城農芸学院」(樋口光平院長)内で、ワイン向けブドウのメルロー種が栽培されている。同院に入所する15人の少年が26日、ブドウを収穫した。日本初の本格的なワイン醸造所「牛久シャトー」が、牛久市、茨城農芸学院と2020年から始めたプロジェクトで、入所者の更生と職業指導を兼ねている。収穫には牛久市の沼田和利市長、牛久シャトーの川口孝太郎社長らが参加し、若者たちと汗を流した。
ワインは、茨城農芸学院のハウスと牛久シャトーのブドウ畑で栽培されているメルロー種とブラッククーン種を原料に、牛久シャトーのワイナリーで醸造し、牛久シャトーが発売している。
26日、ハウス内で作業にあたった17歳の少年は、ブドウをうまくはさみで切り落せたことに喜びを感じたとし「暑かったが、楽しかった。自分たちが作ったものがたくさんの人に届くといい」と充実した表情を浮かべた。
作業を終えた19歳の少年は「自分たちが作ってきたものがワインとして人の手に届くと思うとやりがいを感じるし、最後まで愛を込めて作ってきて良かった」と話し、「ここにくる前はお金が絶対だと思っていた。作業を通じて人とのつながり、信頼が本当に大切だと学んだ。今の夢は、今日収穫したブドウのように、さまざまな人を幸せにすること。まだお酒は飲めないが、いつか、家族や友達と一緒にワインを飲んで、思いを共有したい」と話した。
沼田市長は「皆さんに教えてもらいながら収穫した。市の産品としてPRできる。栽培を通して今後の人生の糧にしてもらいたい」と話し、牛久シャトーの川口社長は「丁寧な作業で良いものができているし、皆さんが達成感を感じているように見えた。このワインは皆さんのブドウでできている。皆さんが社会の一員として作業できていると実感してほしい」と語った。
農芸学院職業指導主任の中橋文弥さん(48)は「ブドウ3房でボトル1本のワインができるので、子どもたちにとって、作業が仕事につながると実感しやすく、やる気につながる」とし、「製品化して消費者に届けるところまで取り組むことで、少年院の作業の一つだった農作業が、職業としての農業として理解できる」と話す。また「作業は同じことの繰り返しで面白みはないかもしれないが、繰り返すことでブドウの実に色が付くなど作物の成長を実感し、意味を確認できる。手を掛けた分だけ作物は応えてくれるし、学びが多い。彼らがワインを一緒に飲めるような仲間や、自分の過去を受け入れてくれるような人たちに囲まれるようになると良い」と思いを語った。
この日1日でメルロー種340株から約1.5トンが収穫できた。今後は職員による選果を経て、9月頃に収穫が見込まれる24株のブラッククイーン種とともに、牛久シャトーの醸造所で製品化される。来年5月には赤ワイン「牛久葡萄酒 Merlot(メルロー)2024」として牛久シャトーの店頭やオンライン通販で販売される予定だ。価格は1本(720ミリリットル)4000円(税込)。昨年収穫されたブドウで作った「牛久葡萄酒 Merlot2023」が現在販売中だ。
茨城農芸学院は13万平方メートルの敷地に、17、8歳を中心とした15歳から20歳未満の少年約80人が入所している。主な入所理由は、窃盗、特殊詐欺、暴行、傷害、薬物犯罪など。コミュニケーションに稚拙さがあるなど人との関係を苦手にする者も多いと担当者は話す。11カ月の入所期間の中で、それぞれの矯正教育の進度に合わせて、段階に応じた教育目標や内容が設定される。今回の収穫作業に臨んだ15人は、最も段階が進んだ1級に属する。(柴田大輔)