【コラム・田口哲郎】
前略
パリオリンピックでの日本人選手の活躍に胸が躍りますね。
さて、今回のオリンピックは開会式が特に話題になりました。開会式会場をセーヌ川とその河岸にするということからして、期待感がありました。セーヌ川というのは舞台になるほどのコンテンツを持っているんですね。
確かにパリの名所の多くはセーヌ川の周りにあります。パリの街の中心を南北に分けるように流れていて、中洲がシテ島といって、パリ最古の都市部です。東京に当てはめると、山手線の内側の中央線がセーヌ川になると思います。
東京もお堀がありますが、隅田川が流れていたら、歴史や景観はずいぶん変わっていたでしょうね。河岸の右と左で街の特徴が違っているというのも有名ですね。左岸にはソルボンヌ大学があったカルチェ・ラタンがあり、庶民的な学生街。右岸にはルーブル美術館や高級ブティックなどがあり、ブルジョワの雰囲気といった具合です。
開会式演出も、フランスの歴史
人びとを驚かせたのは、開会式の舞台だけではありませんでした。演出もフランスらしかったのではないでしょうか。物議をかもしたのは、フランス革命の監獄として有名なコンシェルジュリーの窓から生首を持ったマリー・アントワネットが姿を見せたシーン。
そして、古代ギリシャの酒の神、ディオニュソスに扮(ふん)した青い中年男性がキリスト教の最後の晩餐(ばんさん)を模したと思われるテーブルに寝そべり、さらに晩餐のテーブルにはずらりとドラァグクイーンという女装した男性が並んでいる場面。
オリンピックの開会式としてどうなのか、品性、あらゆる価値観を持つ人たちへの配慮が焦点として問題となり、組織委員会は公式ページからこうしたシーンの動画を削除したそうです。
今回の演出は公式なオリンピック運営組織の許可があって催行されたことに違いありません。シーンの賛否はともかくとして、なぜこれらのシーンが表現されたのかを考える必要がある気がします。
ご存知のように、フランスは革命があって王政から共和政に劇的に移行しました。フランスは現在共和国で第五共和政です。ヴェルサイユ華やかだったのはルイ14世の時代で王政でした。第五が示しているように、革命後、王政が復活したり、皇帝ナポレオンが君臨した帝政があったりと、複雑な政治変化の末に現在の共和政に至っています。
仏共和国はあの「自由、博愛、平等」の精神を礎にしています。現在のフランスは一概には言えませんが、カトリック教会や貴族制に代表される伝統的な体制を批判して成立したのです。歴史的経緯を踏まえると、あの過激とも思える演出も、さもありなんと思えなくもないです。どう感じるかは人それぞれですが。ごきげんよう。
草々
(散歩好きの文明批評家)