【コラム・平野国美】「老いる」という言葉は、本当にネガティブな意味しか持たないのでしょうか?
その日、静岡の街はお祭りでした。夕方、駅へ向かっていたとき、法被姿の2人(写真)が私の前をさっそうと歩いていたのです。背中には「老中」と書かれています。江戸時代の劇で老中という要職を目にしますが、21世紀、市中で生きる老中を目にでき、心が少し躍りました。
町衆にも、こういった役職が存在するのでしょうか? 調べてもわかりませんでした。しかし「老」という漢字には単に年齢だけでなく、経験や地位、社会的な役割などに対する尊敬の意味合いもあります。相撲の世界でも「年寄り」という役職があります。江戸幕府には老中や大老という要職が存在しました。
「おばあちゃん」の役割と効果
前回コラム(7月20日掲載)では、「老後」という時間を持つ動物として、人間、シャチ、ゴンドウクジラを挙げました。これらの動物が生殖不可能になった後(老後)も生きる意味は、集団生活によるものとされています。閉経後のシャチは、狩りの仕方を集団内に伝えてリーダーシップを発揮しているというのです。
シャチの閉経は40~50歳と考えられており、その後は繁殖能力が低下します。しかし、閉経したシャチは経験と知識を生かして群れのリーダーシップを取り、狩りの成功率を高める役割を担っているのです。孫の面倒も見ているとされ、この「おばあちゃん」的役割をするシャチがいなくなると、子供シャチの生存率が低くなるのだそうです。
これらは「おばあさん効果」と言われています。祖母は高齢状態で出産をする危険を回避して自分自身の寿命を延ばし、孫の食事や面倒を見ることで、子孫の生存率を高める役割を担う。女性が老いてからの時期、つまり老後において、家族の生存に貢献していると考えられているのです。老いたシャチは負であるどころか尊いものなのです。
老後という時間を持つとされる人間、シャチ、ゴンドウクジラの3種は、老後においてその経験や知恵を活かし、集団の生存の安定化を図る重要な存在なのです。
「老」の存在感と生かす仕組み
人間社会で言う「おばあちゃんの知恵袋」的な言葉も、このような意味を持っているのかもしれません。町の祭事や争い事では、その解決を高齢者に委ねていました。高齢者も、その役目を果たすという生きがいがあったのかもしれません。昭和のある時期に、我々は、集団の中で「老」を生かす仕組みを放棄してしまったのではないでしょうか?
少子高齢化と言われる時代、「老」が何らかの存在感を示す―そういった高齢者の役割が意外と近くにあるようにも思えるのです。(訪問診療医師)