障害との出会いの場に
つくば市役所(つくば市研究学園)の正面玄関を入ってすぐのスペースに、福祉事業所の商品を扱う店舗「融点」が27日オープンした。店舗の設計・プロデュースは、障害のある作家の展示会開催や作品を取り入れた商品を開発するヘラルボニー(岩手県盛岡市、松田崇弥・松田文登社長)が担当した。運営するのは市内で活動する15事業所による任意団体「つくば市『福祉のお店』を運営する会」(高野智史会長)。
福祉の店はこれまで期間限定のイベントとして年に数回、市役所で開催していた。常設店舗を設置した理由は、継続的な売り上げをつくることで、店舗で働く障害者の賃金向上を目指すと共に、市役所を訪れる市民と障害がある人たちの接点をつくるためだとする。
店舗には、運営する会に参加する各事業所でつくる農作物や卵、飲料、パン、バッグなどの雑貨、約100点が並ぶ。美術展示ギャラリーを意識した店内には、それぞれの商品に込められた作り手の思いがキャプションとして添えられている。
店舗運営にかかる経費は運営する会が負担する。店舗には各事業所の職員と、事業所を利用する障害当事者数名が立ち、販売された商品の代金から、人件費と手数料を引いた金額が各事業所に支払われる仕組みだ。場所は市が無償で貸し出す。
運営する会の代表で、市内で障害者の就労支援B型事業「ごきげんファーム」などを運営するNPOユアフィールドつくば副代表理事の高野智史さん(37)は「つくば市の自立支援協議会に参加する福祉事業者の中から『事業所で作る商品をもっと広げたい』と話が上がったことがきっかけになり、立ち上がった企画。それぞれの事業所が作る製品の魅力と質を向上させていくためにも、事業所同士で連携、切磋琢磨し、地域に愛されるお店にしていけるよう協力していきたい」と語った。
店舗を設計・プロデュースしたヘラルボニーの松田崇弥社長は「障害のある自身の兄の存在が事業のきっかけになった」と話す。つくば市との出会いのきっかけを、つくばで障害者のアート活動に取り組む自然生クラブとアート契約を結んだことだとし、「今回が行政との初めての仕事の機会になった。つくばは先進都市でいろいろなところにチャレンジしている街という印象。市長からは『縛られずに自由にやって欲しい』と言われ、ありがたい機会になった」と話す。また「これまでしてきたギャラリーなどでの仕事が生かされた店舗設計。それぞれの商品の作品性の高さを感じてもらいたい」とし、「店名の『融点』という言葉が示すように(作り手である障害のある人たちの)温度を感じてもらい、この場を訪れる人たちの気持ちが変化し、たくさんの市民に愛されるお店になってほしい」と語った。ヘラルボニーに対する委託費はホームページの作成を含め約1500万円という。
オープン式典であいさつに立った五十嵐立青市長は「『溶け合う』ことがコンセプト。買い物にくる人がここで働く(障害のある)人と対話をして、福祉に持っていた思い、考え方が解けていく場所になれば」と話した。
店舗に並ぶ卵を提供する「ごきげんファーム」養鶏担当の齋藤蓮さん(23)は「事業所のみんなと心を込めて作った卵。お店ができて自分もうれしい。みんなでおいしく食べてほしい」と思いを込めた。(柴田大輔)