政府が3月1日に閣議決定し、国会に提出した地方自治法改正案への懸念が広がる中、龍ケ崎市の宇野武さん(44)が、3月から4回に渡り「地方自治法を考える勉強会」を開いている。4月29日には識者を招き講演会を企画する。宇野さんは同市で接客業を営む。問題意識の背景にはコロナ禍で苦労を経験し、地方自治を身近な問題と捉えられるようになったことがある。
講演会は、龍ケ崎、取手を中心に主婦、会社員、市議ら約15人による市民グループ「地方自治法を知って繋がろう会」が中心になって開催する。宇野さんは「地方自治法改正は生活と直結し、子ども達の将来とも地続きの問題。大人が責任を持って自分で考えることが大切」だとし、「すべての自治体職員、地方議員、住民が当事者になりうるので、つくば、土浦の人たちにも呼び掛けて広めていきたい」と語る。
同法改正案は、「対等協力」の関係とされた国と地方公共団体の関係を一変させるといわれる。改正案では、感染症によるパンデミックや大規模災害などの非常時に、個別の法律に規定がなくても国が地方自治体に必要な指示を出せる「指示権」が盛り込まれる。日本弁護士連合会は「指示権」を認める要件の曖昧さを指摘し政府による乱用を懸念する声明を出している。また市町村税の賦課徴収、飲食店営業や病院・薬局の開設許可、都市計画の策定など、本来自治体に任される自治事務への国の不当な介入を誘発するおそれが高いと指摘する。全国知事会も「国と地方の対等な関係が損なわれるおそれ」から指示権の拡充について「行使は最小限に」と要望した。
批判的目線に悩みながら店を開け続けた
宇野さんは家族と陶板浴施設「竹屋陶板浴」(同市栄町)を営む。時間をかけて身体を温める陶板浴には常連も多くいる。宇野さんがこの問題を身近に感じる背景には、店を続けるために苦しんだコロナ禍での思いがあるという。
当時、営業の可否は「自粛」として事業者の判断に任された。一方で、補償も不十分な中で「できればお店を開けないでね、という空気」が強かった。宇野さんは、向けられる批判的な目線に悩みながらも、店を拠り所にするお客さんを思いながら店を開け続けた。
それでも当時は店の開け閉めを事業者自身が判断できた。それが今回の法改正では事業者の意思とは無関係に営業停止を強制される可能性があるという。さらに、暮らしを左右しかねない「指示」が出される基準が不明確であり、本来必要のない場面で指示が出される懸念が残る。「私たちは保健所の許可を得て仕事をしている。今回の地方自治法改正案では保健所の運営にも国は口を出せる」と宇野さんは不安を抱く。
「コロナ禍では都市封鎖した国もある。国が強制力を増す代わりに十分な補償を出すということは、短期的に見ればすごくいいように見える。ただ、中央集権が強化され地方自治が抑制されると、中央の人次第になる。誤れば大惨事になるのは歴史が物語る」と、地方自治を停止させ中央政府に権限を集中させたナチス期のドイツなどを例にあげ危機感を語る。日本は地方自治を憲法8章に明記し、憲法審査会は地方自治の意義を「強大な中央政府の権限を抑制する」ものであるとしている。
宇野さんは「私には商売があるので、コロナ禍で補償金がちゃんと出るとなった時の気持ちの揺れ動きは、正直、自分の中にもあった。しかし、子どものことを考えると目先のことで大切なものを譲るのは違うと思う」とし「地方自治法改正は、ダイレクトに生活に影響してくると考えている」と語る。
知って、考えることから始めたい
宇野さんは以前、会社員として、当時暮らしていたつくば市から都内へ通勤していた。「会社にちゃんと行けば給料が出て休みもある。自分のことだけ気にしていた」と当時を振り返る。店を持つ今は「人任せではいられない。自分で考え主体性を持つ必要がある」と自身の変化を感じている。
勉強会を始めたきっかけは、2月に参加した教育に関する講演会だった。登壇したある地方議員から地方自治法改正への問題提起があった。帰宅し自分なりに調べると問題の重要性に気がついた。社会問題に関心の強い妻から「こういうことは、ちゃんとやったほうがいい」と背中を押され、周囲の人たちに呼び掛けた。
「地方自治は、何かあった時に地方が国と対等な立場でバランスを取り安全装置になれるという壮大な仕組みだと気がついた。とんでもなく面白いし、これが改正されるというのは注目する必要がある」。一方で「生活と直結するはずなのにリアリティを持ちにくい」と感じている。「まずはみんなで知って、考えることから始めたい。知ってもらう人が一人でも増えたら」と宇野さんが語りかける。
4月29日には、地方自治法改正の問題を提起する神奈川県小田原市の城戸さわこ市議を招いて、子育てや日々の暮らしから見た課題を話し合う。(柴田大輔)
◆講演会「みんなの街と生活と地方自治のはなし」は、4月29日(月)午後2時から、龍ケ崎市栄町4356の竹屋陶板浴で。参加費1000円。 10代は無料。定員20人。詳細は同イベントページへ。