木曜日, 5月 2, 2024
ホームつくば障害者の工賃アップ目指し不要パソコンを回収 つくばの就労支援施設

障害者の工賃アップ目指し不要パソコンを回収 つくばの就労支援施設

「さくら学園」

障害者の工賃をアップさせたいと、つくば市島名の障害者就労支援施設「さくら学園」(NPO明豊会運営、飯島喜代志代表)が、不要になったパソコンの回収と希少金属などのリサイクルに取り組んでいる。

パソコンの情報漏えい対策として、企業や学校などに出向き、記憶媒体装置のHDD(ハードディスクドライブ)を依頼者の目の前でパソコンから抜き取り、工具で傷付けて物理的に破壊してから回収するのが特徴だ。昨年夏、県内の障害者施設として初めてスタートした。

22、23日の2日間、市内の県立つくば特別支援学校に、障害者とスタッフ延べ7人が出張し、廃棄予定の150台のパソコンからHDDを取り出した。ゴーグルと手袋を着用した障害者が、100本の精密ドライバーセットの中から、ねじの太さや形に合ったドライバーを選んで、パソコンのねじをはずしながら解体していく。HDDを取り出すと、作業を見守る同校教員の目の前で、工具で傷付け情報を物理的に破壊する。

情報漏えい対策として、取り出し、傷を付けたHDD=同

HDDを破壊した後はさくら学園に持ち帰り、パソコンを鉄、アルミ、基板、プラスチックなど40種類ほどの部品に分解して分別する。1台のパソコンを解体するのに20種類ほどのドライバーを使いこなし、早い人で1台当たり30分、平均1時間程度で解体することができるという。現在、同学園を利用する35人の障害者のうち、7人がパソコンの解体作業に従事している。

介護福祉士で同学園サービス管理責任者の戸村雅一さん(68)によると「これまで従事した全員がパソコン解体作業を継続することができており、仕事として達成感があると思う」と話す。23日、同特別支援学校でHDDの取り出し作業をした同園を利用する砂長祐季さん(20)は「ねじが固いので大変」と話し、沖山大稀さん(19)は「ねじ回しが楽しい」と話していた。

平均工賃を2倍に

分別した部品は、資源として販売する。特に半導体が載った基板は金や銀など希少金属を含むことから高く販売でき、障害者の工賃アップにつながる。一方プラスチックなど同学園が費用を支払って処分する部品もあるが、95%は再資源化できるという。

同園では現在、障害者に対し、全国平均とほぼ同額の月平均1万6000円ほどの工賃を支払っているが、パソコン回収・解体作業により、従事した本人だけでなく、全体の工賃を2年後に現在の2倍の月平均3万円に上げることを目標にしている。

パソコンの処分を依頼したつくば特別支援学校の上野俊輔教諭(41)は「去年の夏に話があり、HDDの情報漏えい対策をどうするか検討していたところ、年末にさくら学園の方が来校し、処分を依頼することを決めた。さくら学園は卒業生が利用しており、卒業生の仕事が増え、工賃アップにつながれば」と話す。

さくら学園のスタッフに時折質問しながらパソコンを解体する沖山大稀さん(左端)。1カ月前からパソコン解体作業に取り組み始めたばかり=同

全国の事業所とネットワーク

きっかけは1年半ほど前、障害者施設の仕事量を増やす取り組みをしている茨城県共同受発注センター(水戸市)の担当者から、工賃をアップできる仕事として紹介を受けたこと。すでにパソコン回収作業に取り組んでいた神奈川県平塚市の障害者施設に戸村さんらが見学に行き勉強、さらに全国の障害者施設とネットワークを組んでパソコンの回収と再資源化に取り組んでいる「日本基板ネットワーク」(新潟市)の指導を受けた。

同ネットワークの取り組みは昨年3月、首相が本部長を務めるSDGs推進本部主催の「第6回ジャパンSDGsアワード」で、廃棄物を減らして環境負荷を低減し障害者の賃金向上と自立に寄与しているとして、特別賞を受賞した。現在も3カ月に1度、同ネットワークの指導を受けながら作業のさらなる安全性向上と効率アップに取り組む。

回収するのはパソコンのほか、携帯電話やゲーム機など。企業や団体のほか、個人からも回収し、寄付を受ける形で有価物として無料で引き取る。解体、分別後は、鉄、アルミ、銅は廃棄物回収業者に販売し、希少金属を含む基板などは新潟市の日本基板ネットワークに送り、兵庫県内の溶鉱炉で溶かし、金や銀を取り出す。

戸村さんは「利用者の平均工賃を上げるのが一番の目標」とし「利用者が他の事業所を訪れて作業する機会はあまりないので、出張解体を通して地域の人とつながることもできる」と意義を強調する。さらに「レアメタルは都市鉱山とも言われるが、限られた資源をリサイクルするということもやっていかなくてはらないことだと思う」とし、「県内に一緒にやれる事業所の仲間を増やしたい」と呼び掛ける。現在、パソコン回収に取り組んでいる福祉事業所はさくら学園を含めまだ2カ所のみという。(鈴木宏子)

◆回収するのは、パソコンと、ルーターやケーブルなどの周辺機器、携帯電話、ゲーム機など。コピー機、プリンター、故障した液晶モニターは不可。つくば市内の場合、10台以上は引き取りに行き、土浦市など周辺市町村は20台以上は引き取りに行く。個人の場合、さくら学園に直接持ち込むか、宅配便などで送付すれば引き取り可能。持ち込みや宅配便などの場合、破壊したHDDを写真撮影し解体証明書などと共に後日メールで送付する。さくら学園はつくば市島名2304。詳しくは電話029-875-3517またはメールinfo@sakura-gakuen.orgへ。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

4 コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

4 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

最近知った「うれしい変化」《医療通訳のつぶやき》8

【コラム・松永悠】最近SNSで偶然、ある投稿を目にしました。投稿者がどこかのアウトレットで買い物をしていると、3人の中国人男性客が、持参したお酒とおつまみを取り出してプチ宴会を始めたそうです。 どうやら買い物中の奥様を待っている感じで、しばらくすると戻ってきた奥さんと合流しました。「ゴミをそのままにするだろうなぁ」と思っていたら、3人がバッグからゴミ袋を取り出して、全部片付けただけでなく、さらにウェットティッシュでテーブルを拭いて、きれいにしてから帰っていったそうです。 「これまで自分の中では中国人観光客=マナーの悪い人と決めつけていた」と投稿が続き、また「どの国にもマナーの良い人、悪い人がいると改めて思った」とも。偶然目にしたこの投稿を読んで、素直にうれしく思いました。 「マネーありマナーなし」は昔の話 医療通訳の仕事柄、日本在住中国人、治療目的で来日する中国人と一緒にいる時間が長いです。私からすると、マナーに関しては年々よくなっています。今でもはっきり覚えているエピソードがあります。10年くらい前に担当した人間ドックのクライアントが院内のゴミ箱の中に直接痰(たん)を吐き出したのです。あまりに突然のことで阻止できず、私も病院の方も仰天しました。 このクライアントは田舎から出てきたお婆(ばあ)さんです。話を聞くと、娘さんがビジネスに成功した方で、親孝行の一環としてお母さんを日本に連れてきて、観光と人間ドックをプレゼントしたそうです。恐らく「ちゃんとゴミ箱の中に吐いたでしょ、何がダメなの?」くらいの感覚です。 他にも、平気で予約時間に大幅に遅刻するとか、病院内で電話するとか、いわゆる「マネーありマナーなし」の人がいました。 しかし状況がどんどん変わってきています。今では丁寧にごあいさつしたり、常に病院に迷惑をかけないように心がけたり、感謝を繰り返したりと、病院も医師も私もみんなにとってありがたいクライアントがほとんどです。 いびきを気にして個室を希望 今年に入ってからあるクライアントを担当するようになりました。心臓病を患っていて、さまざまな検査を経て今週入院して来週開胸手術を受けることになります。かなり大掛かりの手術で、入院も1カ月かかると言われています。 外国でこんな大きい手術を受けるなんて、心配や不安がいっぱいだと思います。しかしこの患者さんは全くそれを出さず、いつも「先生のご判断を信頼していますし、しっかり治療してくれると信じていますので、ご迷惑になるようなことはしません。できることは何でも協力します」とおっしゃいます。 検査入院した時も、自分のいびきが他の患者にとって迷惑になるかもしれないので、個室希望と自ら申し出て、それを聞いた看護師さんたちが大変感動しました。 医師・患者である前に、みんなそれぞれ一人ひとりの人間です。温かみのある言葉でコミュニケーションを取れば、国が違っても心が通じると信じています。そんなお手伝いをするのは医療通訳なのです。素敵(すてき)な仕事だと思いませんか。(医療通訳) <参考> 医療通訳の相談は松永rencongkuan@icloud.comまで。

誰もが安心して暮らせる社会の実現を つくばでメーデー集会 

メーデーの1日、TXつくば駅前の中央公園で、第95回つくば中央メーデー集会(同実行委員会主催)が開かれた。つくば市をはじめ県南、県西地域の研究機関、民間企業、自治体の労働組合など14団体、148人が集まり、「働くものたちの権利を守り、労働環境の改善、市民生活の向上、安心して暮らせる街づくり」を目指すとのメーデー宣言を採択した。 降雨のため予定より1時間縮小しての開催となった。集会後には50人余りがつくば駅周辺をパレードし、賃上げの実現や介護職員の待遇改善などを訴えた。 雨足が激しくなる中、予定より15分繰り上げて9時15分に集会が始まった。冒頭で、主催団体のつくば中央メーデー実行委員会の前田啓委員長(39)がメーデー宣言を読み上げた。 宣言では、物価高騰などを背景に労働者の実質賃金の低迷が続くとし、増加する税金や社会保障費の負担、拡大する格差と貧困を前に、安定した雇用環境の実現、労働者への大幅賃上げを求めた。また、先進国最下位である日本のジェンダーギャップ指数や増加する性暴力(DV)被害を背景にジェンダー平等の実現、能登や台湾での地震とコロナ禍を踏まえて、命と暮らしを守るための体制強化や関係者の処遇改善のほか、研究者の待遇改善を求めることが盛り込まれた。 さらに、原発に依存しない持続可能なエネルギーや社会の実現、東海第2原発の再稼働反対、憲法と民主主義を守り全ての人々の自由と命と暮らしが守られる平和な世界の実現を目指すとし、「働く者の団結で希望の持てる社会を次世代に繋ぐ」と決意が述べられた。 参加団体からは、低下し続ける実質賃金に対する物価高騰に見合った適切な生活保障の確立や、悪化する労働条件の改善と人員の適正配置、不均衡化する研究費の公平な再分配などが求められた。 雨の中をパレード 集会後は約30分にわたりパレードした。筑西市から参加した新井慶治さん(24)は「職場の先輩に誘われて初めて参加した。メーデーの意味について知るきっかけにもなったし、これから職場の環境をより良いものにしていきたい」と思いを語った。 パレードの先頭で掛け声を上げた憲法9条の会つくば共同代表の石上俊雄さん(65)は「強い雨の中だったが、やってよかった。若い方の参加もあった。『何をやっても社会は変わらない』と思いがちだが、あきらめてはいけない。厳しい時代だが、市民が声を上げることがより重要になる」と語った。(柴田大輔)

つくば市の過剰な管理職数の問題を考える《投稿》

現市政下で職員数と人件費が急増 【投稿・酒井泉】自治体の給与・定員管理などについては、総務省が示した統一の様式で公表されています。つくば市の場合は2013(平成25年)から22年(令和4年)までの数字が公表されています。以下、前市長時代と現市長下の職員数と人件費のデータを比較してみました。 ▽市原市長時代(2013年→17年)・人口: 1万1071人増(+5%)・歳出額: 128億4千万円増(+19%)・職員数: 11人減(-1%)・人件費: 2億6千万円増(+2%) ▽五十嵐市長になってから(2017年→22年)・人口: 1万9414人増(+8%)・歳出額: 192億8千万円増(+24%)・職員数: 206人増(+13%)・人件費:+30億3千万円増(+20%) 市原市政下では、人口と歳出額が増えても職員数と人件費は増えていません。ところが五十嵐市政下では、人口増を上回る割合で職員数と人件費が増えています。 ちなみに、24年度予算では、人件費は22年に比べ26億円増え(+14%)、人件費の総額は212億円に達しています。この数字は、市民1人当たり8.3万円になります。16年は7.1万円ですから、五十嵐市政下で17%も増えたことになります。 係長級以上が一般行政職員の半分 22年の一般行政職員数は926人です。その内訳は、部長14人、次長29人、課長88人、課長補佐124人、係長級236人、一般職員435人―となっています。つまり、係長級以上の役職は491人になり、一般行政職員の53%も占めています。半数以上が係長以上ということですから、民間企業で働いている市民はその多さに驚くでしょう。 組織の単位は何人ぐらいが最適か? 1人の人間が一般的に管理できる人数は、様々な研究から、おおむね5~8人、最大でも10人程度と言われています。2人以下の議論では偏った結論になりやすく、仕事のチームが10人を超えると急激にパフォーマンスが下がるという研究もあります(J.リチャード・ハックマン)。 近年、アマゾンの最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏は、「チームの最適な人数は2枚のピザを分け合える程度の5~8人である」という『2枚のピザ理論』を提唱しているそうです。 こういった研究結果から、多くの会社や組織では5人前後を最小の単位の「係」とし、その上に「課」や「部」などの上部組織を配置するピラミッド型の人事組織を採用しています。 つくば市の管理職は「望ましい組織」の2倍 組織単位を最低の5人とした場合、4人の係員に1人の係長、4人の係長に1人の課長、4人の課長に1人の部長となり、1つの部の総数は85人になります。そこで、「1つの部の人数を85人。部長1、課長4、係長16、係員64」を望ましい組織と考えて、人員構成の健全度を測る物差しにします。 これで組織作りをすると、22年のつくば市の一般行政職員数は926人なので、85人の部を11部設定したとすると、望ましい管理職構成は、部長11、課長44、係長176、一般職員695になり、管理職総数は231となります。 これに対し、同年の管理職数は、部長と次長が43人(物差しの3.9倍)、課長と課長補佐が212人(同4.8倍)、係長級が236人(同1.3倍)ですから、係長より上の管理職総数は491人(同2.1倍)となります。つくば市の管理職数は明らかに過剰です。 市民とのコミュニケーションが不足 つくば市の場合、係長の下に一般職員が2人くらいしかおらず、市役所内の情報の共有と相談・協力体制が十分ではありません。このため、市の職員は市民と情報を共有して議論することができません。 「人事規律」を無視して職員を処遇するために管理職を増やすと、組織が細分化されたタテ割りの身分制となり、市民と市役所の間のコミュニケーション(民主主義の基本)が機能しなくなります。これは深刻な問題です。(元高エネルギー加速器研究機構准教授、元福井大学教授、つくば市在住)

問題解決と評価《続・気軽にSOS》149

【コラム・浅井和幸】日々、問題の解決や改善を繰り返していると、人とのやり取りの中で「まどろっこしいなぁ」と感じることが多々あります。心理相談の時は相手のペースに合わせるのであまり感じないのですが、事業や生活での従業員や家族とのやり取りでは「しょっちゅう」という感じです。 そこで、「話が進まないこの違和感はどこに原因があるのだろうか?」という疑問が湧いてきます。それをつかめれば、コミュニケーションを改善でき、話を前に進めやすく、物事の改善がスピーディーにできますから。 133「人のせいするという生き方」(5月20日掲載)にも書いたように、人には「自分は悪くない。他の人や状況が悪いのだ」という考えがあります。これは、物事を改善するには悪いところを無くす必要がある、だから悪い状況や悪い人が変わればよい、悪いことをしていない自分は何も変えない―という考えにつながります。 変えることは悪いやつだと認めることになり、善人である自分は変える必要がない、と確信しているからです。 ほめる、たたえる、感動する、感謝する より良くしていくという考えは、悪いことを良くするだけでなく、良い今よりもさらに良くするということも含まれます。この考えを持つことがかなり難しいということが一つの気付きでした。そして、そこには過去と今の評価を気にする、悪い評価を避けたいという心理が改善を妨げているということがあります。 未来を変えるには、今からの言動を変えていく必要があります。そして、どのように変えるかは、現状をより正確に把握する方がより効率がよいのです。ですが、人は質問攻めをされると、悪い評価を得るとか怒られるという不安に駆られるものです。人からだけでなく、自問自答を繰り返すと、気分が悪くなる人は多いのではないでしょうか。 ドラマの警察の取り調べのように質問を繰り返すと、回答しにくい状況になっていきます。なので、質問に対する回答があったら、ほめる、たたえる、感動する、感謝する言葉を相槌(あいづち)に混ぜ、「あなたを悪く評価していませんよ。高く評価しているよ」という気持ちを伝えることが大切なのです。 こちらからの質問に、「じゃあ、どうすればよかったんですか?」「私が悪いというのですか?」「何回も答えているじゃないですか」というような回答が出てきたら要注意です。現状把握をしたいだけで、責めているわけではないのに、そのような回答をもらいやすい人は、改善に対する考えが前のめりすぎる「せっかちなタイプ」かもしれません。(精神保健福祉士)