深刻なバス運転手不足により関東鉄道(本社・土浦市)は今月20日のダイヤ改正に合わせて、つくば、土浦などでバスの減便を実施した(11月24日付)。「2024年問題」といわれるバス運転手などの時間外労働の規制によりつくば市では来年4月からコミュニティーバス「つくバス」の減便が予定されている(11月8日付)。現場で何が起こっているのか、公共交通はどうなるのか。バス事業者、利用者、行政の現場を5回にわたって取材した。
5年半で68人減「苦渋の選択」
県南地域などで路線バスを運行し、市町村からコミュニティーバスの運行を受託している関東鉄道 自動車部の白鳥賢部長(49)は今月20日から実施した減便について「(減便前のダイヤで)運行するにはバス運転手が600人必要だがすでに60人不足し、休日出勤や時間延長でまかなっている。来年4月からの基準を守ると、さらに20人足りなくなる。このままでは立ち行かない。秋以降、観光需要が増えることもあり、前倒しで12月に減便することにした。苦渋の選択だった」と理解を求める。
ここ10年間の同社のバス運転手は、2015年から18年まで600人前後で推移。18年3月時点の601人を境に減少に転じ、20年3月は567人、22年3月は551人、今年10月末時点で533人と減少が続いている。
白鳥部長は「入社して25年経つが、業界として人が足りたことはない。ここ数年は深刻化している。入社する人が減っているのに、退職する人は変わらず一定の人数いる」と説明する。当社のバス運転手の平均年齢は現在52歳。バス業界では平均年齢が50歳を超えると高齢化が進んでいるという指標になっており、「若い世代の入社が減り、運転手が高齢化している」という。
新型コロナの影響もある。同社は路線バスやコミュニティーバスなどのほか、高速バスを運行している。路線バスの赤字は自治体などからの補助金のほか、高速バスの収益で補てんし維持していた。会社全体の営業収益の6、7割を占めるのがバス事業で、そのうちの4割を高速バスが占める。
20年4月に新型コロナの緊急事態宣言が出された。高速バスの乗客はコロナ禍前の6、7割まで落ち込み、運行本数を通常の5割まで減便した。コロナ前の19年度、約71億円を計上したバス部門の営業収益は、20年度は約45億円までダウンした。「コロナ禍で収益の柱を失った。コロナ禍の間に退職した運転手もいる」と白鳥部長。コロナ禍により20年は収益が底を打ったが、今年はコロナ前の19年と比較して8割ほど回復している。「お客さんも戻ってきた」と語る。
積極採用、次世代の実験も
深刻な運転手不足に対し、同社は数年前から運転手の採用活動に力を入れる。バス運転手になるために必要な大型2種免許の取得費用を会社が負担するなどしてPRする。白鳥部長は「ここ数カ月、募集広告の宣伝効果が出て前年度に比べて採用ができている」というが、ほとんどが40代か50代で、長年バス運転手をやりたいと思っていた人が入社していて、20、30代の入社は年に数人。高卒者も年に1人か多い年で2人という状況だと明かす。
次世代の公共交通として期待される「MaaS(マース)」と呼ばれる新たな移動サービスにも挑戦。情報通信技術を使って複数の移動手段を最適に組み合わせる実証実験を2021年から地元土浦市と連携して実施しており、スマホなどで予約を受け付けAI(人工知能)を活用して効率的に運行するAIバスや、住宅地で時速20キロ未満の電気自動車を走らせ路線バスや鉄道など複数の公共交通と最適につなぐ取り組みなども積極的に行っている。ただし、AIバスや自動運転バスなどの「実用化はまだ先」だとし、現時点では、解決策にはなっていない。
すみわけ、再編し「最適化したい」
では今後どうすればよいのか。白鳥部長は「運転手がいない、お客さんがいないからと(便数を)どんどん減らすと、減らした直後は収支に効果が出るが、全体としてお客さんが減少し会社の将来はない。地域の足を確保することもままならなくなって負のスパイラルに陥る。これは意味がない」と認識する。
その上で、運転手不足に対する今後の対策としては「交通の最適化が求められる」とし、「例えば、現在つくバスの北部シャトルと当社の路線バスが競合している。限られた人数しかいない運転手を2人使うのはもったいない。民間の路線バス、自治体のコミュニティーバス、デマンドタクシー、企業の貸し切りバスなどが連携し、各地域で一回、公共交通を整理してすみ分けし、運転手を無駄なく使うなどの再編をしないと維持できない。1社ではできないので関係者に声掛けして検討していきたい」と話す。
「今回の減便は運転手不足に起因する減便なので、運転手が確保できれば便を復活することを視野に入れている。そういう努力はしていきたい」という。
続く
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