月曜日, 5月 19, 2025
ホームつくば大正建築の米蔵に価値を見出す【つくば 古民家利活用】下

大正建築の米蔵に価値を見出す【つくば 古民家利活用】下

つくば市栗原の古民家、郷悠司さん(30)の下邑家住宅でワイン試飲会が終わる頃、母屋と正対する米蔵にトラックが乗りつけられた。建築業者が手際よく杉材の床板168枚の搬入を始める。

老朽化した米蔵の床板を張り替えるワークショップだ。NPOつくば建築研究会(坊垣和明代表)が、古民家の長屋門に宿泊機能を付加しようという「もん泊プロジェクト」(20年9月9日付)の派生イベントとして企画した。

搬入された床材

江戸時代から農家を営んできた下邑家は、栗原の別住所から現在地に移り住み、地主となり、小作人も増えていった。質屋も始めるようになり、米蔵は、収穫されたコメの保管場所として大正時代に建てられた。

郷悠司さんの両親、則夫さんと晴美さんによると、米蔵は1921(大正10)年の建築で、2階建て、148平方メートル。「昔は白壁だったそうだが、戦時中、爆撃の目標とならないよう炭で黒く上塗りされたのが今の姿」。郷家では正確なところはわからないとしながらも、戦後の一時期、GHQが食糧倉庫として接収したという逸話があり、実際に英文を刻んだ木製のプレートが残されている。

ひさしを支える梁(はり)が一本の木で継ぎ目のないところが建築として自慢になるそうだが「床板は古くなり重量物を置くことが危険になった。内壁も、特に東日本大震災の地震で痛みが進んだ」。

「古い屋敷を維持するのは、なにかと手間がかかる。私の代では意識しなかったことだが、これを次代に継承させることを考えると、躊躇(ちゅうちょ)する」

則夫さん、晴美さんは、このような悩みをつくば建築研究会に話してきた。このことから同研究会は、長屋門の宿泊機能づくりと同様に、古民家や古建築の維持保存についても「もん泊プロジェクト」に取り入れた。

利活用のためにまず健全保存

米蔵の床はこれまで、土台の補強や修理を施し、新しい床板を打つところまで進んでいる。ワークショップは、米蔵を広く紹介しながら、実際に床板の張付けを体験してもらうという内容だ。

現場では、サポートで参加している建築業者のスタッフが床材を寸法に合わせて裁断し、参加者を指導しながら打ち付けていく。日常では体験する機会のない作業だ。建築業者は上郷地区で伝統的建築物を主体とした仕事を請け負う建明(望月聡志社長)。古民家のリノベーション、改修、古材を活用した新築に関してはエキスパートで、研究会の活動に関心を寄せている。

この日を含めて3度の体験会を計画。年内に板張りを済ませ、来年2月18日に開催する市民シンポジウムでお披露目する考えだ。

(左から)建明の望月社長と、つくば建築研究会の坊垣理事長

研究会の永井正毅副理事長は「本年から市内の古い街並みを訪ね歩く『みちあるき』を行事化しているが、会員外の一般の方々の参加が増えてきた。今回の米蔵修繕にも会員外から2人の参加者があった。古民家や古建築に興味を持っていただけるという感触を感じられるようになっている。これは言い換えれば、地域と人々をつなげるという、研究会がやりたかったことや、やっていかねばならない課題だと思っている」と語る。

道草が縁を生む

ひとつ問題がある。郷さん宅が所在する栗原地区は都市計画上、市街化調整区域にあたり、米蔵修繕後の利活用には制約がかかる。例えばこの空間でカフェなどの運営は難しいため具体的な運営内容は決まっていない。郷家が矢面に立ち、研究会は様々な形でこれを支えることになる。

「市街化調整区域の都市計画変更は市に働き掛けるほかないが、市に納得いただけるように、まずは形をつくることに精進したい」と悠司さん。母屋でのイベント同様、悠司さんは実績を積み上げることを重視している。さらに栗原地区の将来をけん引できるような利活用方法を考えている。

下邑家の米蔵

ところで、ワイン試飲会の参加者は郷悠司さんを「7代目」と呼んだが、彼はまだ下邑家の世襲はしていない。現在の6代目は彼の伯父にあたる人物が家督を継いでいる。「SNS上でつながった全国の皆さんの応援も活動の原動力になっている。皆さんからいただいた力をきちんと形にできるように頑張りたい。いろいろなことが整った暁には、つくば市や国内の古建築保存に向けて活動していきたい」と悠司さん。

つくば建築研究会の坊垣和明理事長は「もん泊そのものにはまだ多くのハードルがあり、短期間で実現するのは難しい。しかし時間の経過とともに建築は痛んでいく。江戸期や明治、大正の建物が現存するつくば市は、貴重な古建築の集積地。これまでの調査研究では、市内に所在する長屋門だけでも200を超える。全国的にも珍しい都市と農村の融合地。もん泊プロジェクトは目下、”道草”をしているが、道草こそ、こうした出会いや保存のきっかけを発見できると考えている」と述べる。(鴨志田隆之)

終わり

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

学校給食に異物混入 つくば市の中学校

つくば市は19日、市内の中学校で16日に出された学校給食に異物が混入していたと発表した。教員が食べた鶏肉のトマト煮にホチキスの針が混入していた。 市教育局健康教育課によると、16日午後0時50分ごろ、市立中学校の職員室で、教員が鶏肉のトマト煮を食べた際、口の中に違和感を感じ、異物を吐き出したところ、長さ1センチくらいのホチキスの針一つが混入していた。教員にけがなどはないという。発見時、生徒のほとんどが給食を食べ終わっていた。 鶏肉のトマト煮は同日、つくばほがらか給食センター谷田部で調理され、幼稚園4園、小学校6校、中学校3校の3317人に提供された。異物が混入していた給食は職員室で配膳されたものだという。同校や他校などから、ほかに異物混入の報告はない。 発見後、同校のほか、給食センター、食材納入業者それぞれ、異物混入の経緯などを調査したが、現時点で混入経路は不明。 同給食センターは16日、保護者にお詫びの通知を出した。

群馬に5連敗 茨城アストロプラネッツ

プロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツは18日、土浦市川口のJ:COMスタジアム土浦で群馬ダイヤモンドペガサスと戦い、1-4で敗れた。今季初の土浦開催となった。茨城の通算成績は5勝10敗で東地区3位。今季の群馬戦の戦績は0勝5敗となった。 【ルートインBCリーグ2025公式戦】(5月18日、J:COMスタジアム土浦)茨城アストロプラネッツ-群馬ダイヤモンドペガサス群馬 000001210 4茨城 001000000 1 試合は3回に茨城が先制。先頭の9番・原田京雅と続く1番・山本仁が右前へ連続安打、2番・高田龍の送りバントで1死一・二塁とすると、3番・原海聖が右翼へ犠牲フライを放ち1点を奪った。「ノースリーだったが四球を狙わず振っていけと指示し、しっかりと外野まで運んでくれた」と巽真吾監督。「打ったのはちょっと浮いたチェンジアップ。相手投手は入れてくると思い、甘い球を見逃さずとフルスイングすることを意識した」と原。 投手は金韓根が先発し、5回83球を投げて無失点。立ち上がりは低めの球を見極められ走者を出したが、途中から組み立てを変え、高めのボールからストライクになる変化球でカウントをかせぎ、後半はテンポの良い投球でフライアウトに打ち取った。5回表には内野安打と四球で1死一・二塁のピンチを作るが、相手の送りバントを自ら処理し三塁封殺に成功。「捕手は一塁を指示したが自分の判断で三塁に投げた。ここで走者を残すと単打でも1点を許すことになる。絶対に三塁を踏ませたくなかった」との振り返り。 6回以降は4人の投手が1イニングずつ投げたが、2番手の三浦遼大は替わりばなの初球で本塁打を浴び、3人目の川端啓新は四球と送りバントの一塁悪送球で無死一・二塁とされ、単打と内野ゴロで2点を失った。4人目の斉藤淳斗は3安打に野手のファンブルが重なり1失点。5人目の太田大和は1安打2四球で1死満塁のピンチを迎えたものの、6-4-3の併殺で切り抜けた。 攻撃でも茨城は小さなミスが目立った。1回は山本が四球から足を生かして一死三塁の好機をつくり、原の右飛にタッチアップを狙ったが、ポテンヒットになったことで本塁突入に失敗。5回には四球で出塁した山本が牽制球から挟殺に遭い、次打者の高田龍が右前打を放ったため、ここで山本が生きていればと惜しまれる結果になった。 9回には6番・草場悠が四球を選び、8番・三池裕翔が中前打と盗塁で2死二・三塁、一発が出れば同点という見せ場を作った。打席に立った原田はバットを折るアクシデントもありながらフルカウントまで粘ったが、最後は遊飛に倒れ、「ボールを見極めることはできたが、投手の気迫に負けて外野へ運ぶことができなかった」との無念の敗戦となった。 「群馬戦はここ数試合接戦が続いているが、四球と失策が重なるとか、チャンスであと1本が出ないなど、いずれも勝てそうなゲームを少しの差で負けている。投手と野手がかみ合う試合をつくり、チームが一体感を持って勝利を目指したい」と巽監督はリベンジを誓う。(池田充雄)

難民支える自治体ネットワークに加入 つくば市 全国19番目

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が進める国際キャンペーン「難民を支える自治体ネットワーク」に18日、つくば市が加入した。自治体が難民への連帯と貢献を表明することを通して難民支援の輪を広げていく取り組みで、国内では東京都、広島市、札幌市などに続いて19番目、北関東の自治体では初の加入となる。世界では59カ国309自治体目。 同日、つくば駅前のつくばセンター広場などで開かれた科学と国際交流のイベント「つくばフェスティバル2025」会場で同ネットワークの加入署名式が催され、五十嵐立青つくば市長と桒原(くわはら)妙子UNHCR駐日首席副代表代行が同ネットワークの賛同表明文に署名した。 五十嵐市長は「世界に難民は1億2000万人いる。日本の人口と同じ。(難民の)状況は厳しくなっている。ウクライナ、ガザ、世界各地で大変なことが起きていて、奪われてはいけない命が奪われている。つくばにも避難してこられたり移ってこられた方がいる。だからこそ我々自治体は、連帯し国際社会の一員として支えていく責務がある。我々に何ができるか、まずは知ること。その先に何ができるか、皆さんと共に歩みを進めたい」と話した。「分断が進んでいる社会で、自治体としてメッセージを出していこうという意思表示」だという。 桒原代表代行は「つくば市が北関東で初めて参加してくださることは本当に心強い。つくば市はSDGs(国連の持続可能な開発目標)など地球規模の課題に積極的に取り組んでいる全国でも先進的な自治体。つくば市ならではの柔軟で創造的な取り組みを通じて、難民支援の輪が地域から自分ごととして広がっていくことに期待したい」と述べた。 2023年10月、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官が、ウクライナから避難してきた学生や留学生などと意見交換するため筑波大学やつくば市役所を訪れたことがきっかけになった(23年10月20日付)。つくば市がSDGsに積極的に取り組んでいたり、不平等や格差是正に取り組むOECDの先進的市長(チャンピオンメイヤー)に選ばれていることなどから、UNHCR駐日事務所が同市に自治体ネットワークへの加入を呼び掛けた。 加入にあたって同市は「いろいろな機会をとらえてまず知っていただくことが一歩」(五十嵐市長)だとして、17、18日の2日間つくば駅周辺で開かれたつくばフェスティバルで、UNHCRの難民支援の仕事などを紹介するブーズを出展した。市中央図書館では1日から30日まで、UNHCR駐日事務所の協力で平和、共生、多様性などに関する同館所蔵図書を紹介する「難民のものがたり展」を開催している。 つくば市では現在、147の国と地域出身の外国人1万4251人が暮らしている。そのうち難民や戦争などからの避難者が何人いるかは不明。 他の加入自治体の取り組みとしては、UNHCR駐日事務所と連携して、難民問題を知るための独自イベントの開催や学校などでの出張授業、難民支援のための寄付の呼び掛け、大学の奨学金制度の導入や企業の雇用支援、母国を離れ難民キャンプなどで生活している難民を第三国が受け入れる「第三国定住」などを通じた難民の受け入れなどが行われているという。(鈴木宏子)

落成式に石破首相 産総研に社会実装向け計算技術拠点 つくば

量子技術による新産業創出の中核 「量子」と「古典」のコンピューティング技術を相互に利用し、高度な融合計算技術の確立を目指す社会実装拠点が産業技術総合研究所(産総研)に出来上がった。つくば市梅園のつくば中央事業所内に設置された量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT=ジークアット)本部棟で、18日に石破茂首相、武藤容治経済産業相らと学界、産業界の関係者を集めて落成式が催された。 620億円かけ整備 産総研によるG-QuATの設立は2023年7月で、今年3月までに2つの研究棟が建設された。鉄筋コンクリート造地上4階建てのA棟5616平方メートルと同2階建てB棟2060平方メートルからなる本部棟と、地上2階建て2243平方メートルのQubed(キューベッド)棟の2つ。本部棟には、古典・量子ハイブリット計算環境としてGPUスパコンと超伝導量子コンピューター、量子デバイス評価として希釈冷凍機と量子ビット制御装置などを整備した。Qubed棟には中性原子量子コンピューター「QuEra」が設置された。 建物と関連設備の投資規模は620億円。これは国から産総研への運営費交付金1年分に匹敵する規模で、研究開発拠点を超えて社会実装に踏み出すという意欲の表れとなった。量子技術による新産業創出には国も熱心で、G-QuATはその中核となる位置づけ。産総研発足の2001年以降、現職の首相を迎えるのは今回が初めてという。 初の「商用」超伝導量子コンピューター 米国エヌビディア(NVIDIA)社のH100を2020基搭載したGPUスパコン「ABCI-Q」は最新のAI技術を用いながら「古典」型というのが面白く、富士通製の「量子」コンピューターと超高速インターフェースで結んで、古典・量子融合型計算環境を構築する。 量子コンピューター自体、「重ね合わせ」という100年前に成立した量子力学の考え方を基礎にしている。一般的な(古典)コンピューターが電流のオンとオフで0と1の状態をつくって計算するのに対し、量子コンピューターは0か1か確定していない「重ね合わせ」の状態をつくり出して計算する。並列処理によって膨大なパターンの情報をひとまとめにして計算できる。 富士通が持ち込んだ64量子ビットの超伝導量子コンピューターは、わが国では初めての「商用」タイプとなる。G-QuATは最先端設備を開放しての産業支援を掲げており、企業共同研究など特定の事業に利用制限されないのを特徴としている。産総研がサポートにつく形で、富士通など企業主体での事業化を促す。超伝導量子コンピューターは現在最も開発が進んでいるされるが、絶対温度零度(マイナス273℃)近くの極低温環境が求められており、実現のための希釈冷凍機など次世代機の開発も同時に進める。 用途としては材料、金融、創薬などの分野で実用的な量子アプリケーションを開拓中で、量子コンピューターを活用する場合システムがどのように使われるか利用者目線から記述するユースケースを開発したり、高品質な部素材の評価・標準化、量子ビットの大規模集積化などに取り組む。本部棟には国内外の企業や大学などの多様な利用者が集う結節点としてのインキュベーションスペースも整備している。 落成式で石破茂首相は「量子力学100年=メモ=という節目の年に、世界最高水準の計算環境ができたのは意義深い。高度な研究設備が備わっており中小企業の皆さんにも共同研究に取り組んでいただけるよう、国としても強力に支援していきたい。つくばには、地方から世界にはばたく、そして地方から日本を変える拠点となることを期待したい」とあいさつした。(相澤冬樹) ※メモ【量子力学100年】1920年代、ド・ブロイ、ハイゼンベルク、シュレーディンガー、ディラックなどが現在の量子力学の礎となる成果を続々と発表した。ボーアによって「コペンハーゲン解釈」が成立したのが1926年。ユネスコは2025年に、量子力学100年を記念する取り組みを行うことを決議した。