水曜日, 6月 11, 2025
ホームコラム「君死にたまふことなかれ」《ひょうたんの眼》60

「君死にたまふことなかれ」《ひょうたんの眼》60

【コラム・高橋恵一】戦後78年の8月が過ぎようとしている。広島、長崎、8月15日の戦没者慰霊、先の大戦の悲惨さ、愚かさがメディアで取り上げられ、戦争体験者からは、二度と戦争はしてはいけないと重い言葉が繰り返される。一方で、ロシアのウクライナ侵略が長引き、それにかこつけて、日本を取り巻く安全保障環境の深刻さが喧伝(けんでん)され、岸田首相はG7において、軍事費をGDPの2%(つまり世界第4位の軍事費大国)にすると宣言してしまった。

自分勝手な理由をかかげて、いきなりウクライナを侵略したプーチンのロシア軍の行動は、破壊力の拡大した兵器による殺し合いが繰り返され、学校も病院も住宅も商業施設も橋も道路も駅舎も破壊されている。民間人の生活の場が襲われ、略奪、婦女暴行、虐殺が当然のように行われている。

ロシアの行為は、満州事変や日中戦争、太平洋戦争での旧日本軍の行為に重なって仕方がない。戦後78年の報道では、関東軍など日本陸軍の甘い見通しの下、中国に対する前線を拡大し、現地軍先行のため、武器弾薬や食糧の補給も不足している状況下で、集落を襲い、戦闘員でない住民に対しても、略奪、婦女暴行、虐殺が行われ、恐ろしい南京大虐殺にまで至ってしまった。

日本軍の人命軽視、人権無視は、敵兵、敵国民だけでなく、自国の兵士、自国民も対象となり、日本軍の行為は、ナチスドイツとともに、近代人類史上最悪の軍事行為だったと言えるだろう。今、ロシアのプーチンが指揮している。

戦争の罪悪はここに極まる

日本は、「玉砕」「散華」などの理不尽な死を美化するような言葉を使い、日本人兵士や在留邦人までも切り捨てたのだ。悪名高い戦陣訓「生きて虜囚の辱めを受けず」で縛り、全滅させたのだ。サイパンも、硫黄島も、沖縄も、艦砲射撃が始まる前に降伏し、島民と兵士の安全を確保すべきだったのだ。自分が自決した後も、最後の一兵まで抵抗しろなどと指示して、米兵まで含めて、犠牲者を増やした司令官は、英雄とは程遠い、罪人だ。

日本の歴史の中では、敗軍の将は、自分の命と引き換えに、残兵と住民の命を保障させたものだ。まして、守備兵が住民をシェルターから追い出し、集団自決を迫ったりするなど考えられない。

「君死にたまふことなかれ」。旅順攻撃に出征中の弟に語る、与謝野晶子の詩だが、武器をとって敵を殺すことも否定している。戦争体験者の証言の中に、極めて少ないのだが、自分が無抵抗の捕虜を処刑したり、スパイの嫌疑で民間人を殺害したことを後悔する証言もある。ほとんど、上官の強制による殺害だが、80年以上トラウマを抱えたままで、多くの元兵士は家族にも言えず、いわゆる「墓場まで持って行く」のだろう。

同じような体験話は、元米兵にもあり、深く重い心の傷である。戦争の罪悪は、ここに極まるのだと思う。先の大戦で身も心も傷ついた日本人が、次の時間の生き方として、77年前にたどり着いた結論は、日本国憲法である。際限ない防衛力の強化よりも、実現可能な目標だと思う。(地図好きの土浦人)        

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

左足の骨折から4カ月《ハチドリ暮らし》50

【コラム・山口京子】左足の骨折から4カ月が経ちました。治ってきたものの、体力、気力、筋肉の低下に驚いています。歩ける距離が短くなりました。歩き方はゆっくりというか、オタオタというか。以前は重たいと感じなかった掛け布団が重く感じられます。疲れやすくもなりました。これらはフレイル(虚弱)の症状ではないかと不安になっています。 だんだんと老いるのか、病気やケガをきっかけに急に老いが進むのか。年をとるほど健康状態の個人差が開くのが分かります。普段の暮らしを持続させるため、意識的に体のことを考えないといけないと…。体力や筋肉を取り戻すには、まずは歩くこと、食事をしっかりとることでしょうか。 昨年は65歳以上の高齢者が3625万人になったそうです。要介護認定を受けた人が約700万人。長生きすればするほど、介護が必要になる人が増えます。その原因は、認知症、脳血管疾患、骨折・転倒、高齢衰弱、関節疾患などです。 一番多い認知症ですが、昨年、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行され、新しい認知症観が提起されました。「認知症になっても、一人ひとりが個人としてできることややりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間などとつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けることができる」ことを掲げています。 そして7つの基本理念のもとに、認知症本人の意思を尊重することを地域や家族に求めています。認知症と診断されても症状は多様ですし、軽度から重度まで幅広く、一人ひとりに寄り添った対応が大事になるでしょう。 親や連れ合いの認知機能が衰えた場合、間違ったことを言ったとしても否定しない、急かさない、話を合わせ、できるだけ落ち着いてもらう。そして、できることは続けてもらう。それが本人も家族も穏やかに暮らせるヒントかなと…。 平均寿命、平均余命、死亡ピーク 自分は何歳まで生きるのかしら?と思ったとき、厚生労働省が出している2023年簡易生命表の概況を見ました。 平均寿命(ゼロ歳の赤ちゃんがこれから生きるであろう寿命)は男性が81歳、女性が87歳です。平均余命は、例えば70歳の人なら、男性はあと15年、女性はあと19年生きるそうだと。80歳であれば、男性はあと8年、女性はあと11年生きるそうです。死亡ピーク年齢は男性が88歳、女性が92歳となっています。 まだまだ山あり谷ありのことでしょう。大事なのはこれからの人生をどうしていくかという心構えでしょうか。(消費生活アドバイザー)

茨城町の「秋葉犬」《続・平熱日記》181

【コラム・斉藤裕之】久しぶりに愛犬パクの育った茨城町の古道具屋を、野暮用で山口から来ていた弟と訪ねてみることにした。実はここの御主人は一昨年、はるばる山口までトラックでやって来たことがある。以前何度か、この欄にも登場した粭島(すくもじま)の古屋に不要な家具があるという話をしたところ、ちょうど広島に引き取るものがあるから山口まで行くというのだ。その時に弟が現地で世話をしたこともあって、弟とはそれ以来、緩くつながっている仲。 しかし残念なことに、弟はよんどころない用事が出来て急きょ山口に帰ることになって、仕方なく私ひとりで訪ねることとなった。 車の荷台には不要な椅子を三脚と古い電灯を積んだ。捨てるには忍びないオンボロだけど、お店に置いていただければどなたかが引き取ってくれるだろう。看板もないお店は木々に囲まれたお社の様な雰囲気の場所にある。無造作に青く塗られた扉を開けると、犬たちがほえ始めた。 ここの御主人は仕事の傍ら保護犬のお世話もしていて、パクもここで私と出会った。私はご主人に山口のワサビ漬けを渡し、弟が来られなくなった旨を伝えるとご主人は残念がっていた。それから、犬たちとも会ってくれというので店の奥に行くと、そこにはパクと一緒に暮らしていた3頭と、新入りの犬が1頭いた。 「そういえばテレビで野良犬のニュースをやっていて、偶然にもこの茨城町と私の故郷である周南市の野良犬問題がいつも出るんですよね…」と私。「茨城町に秋葉というところがあって、そこに野良犬の群れがいるんですよ。この新入りもそこの野良犬で…」とご主人。「ところが、その犬たちが性格もよくてほえないし、人気が出ちゃって、秋葉にいるから『秋葉犬』というように呼ばれ始めて、今やちょっとしたブランドになっているんです…」 うちのパクは高貴な犬? 犬を飼っていると言うと、「何犬?」と聞かれる。「種類なんかないよ。犬だよ犬!」と言うと「雑種?」と聞かれるから、意地になって「だから犬だって」と答えてしまう。そもそも、生物学的には全ての犬は同じ種というではないか。普段、野良犬の姿を見かけることはなくなった。それはいいことだと思う。ただペットショップで犬を買うというのもなんかちょっと…。 先日、奈良県桜井市で卑弥呼と暮らしていた?という犬の復元模型が公開された。骨が出土した遺跡の名を取って「纏向(まきむく)犬」と言うそうだ。その纏向犬、色こそ違え、大きさ、形は我が家のパクにそっくりではないか(友人のマヨねえさんはパクのことを気品があるだの高貴な気がするだのと言っていた)。「まあ何犬だろうといいんだけどね」。パクはそう言いたげに今日も犬らしく我が家の一風景となっている。(画家)

免許失効したまま公用車など運転 つくば市職員 今度は7カ月間

つくば市は9日、市教育局の職員が昨年10月末から約7カ月間にわたって、自分の運転免許証が失効したまま、公用車や自家用車を運転していたことが分かったと発表した。 今月6日、本人が自分の運転免許証を確認し、昨年10月26日で失効していることに気付き、所属長に報告したという。 職員は今後、免許センターで早急に運転免許証の更新手続きを行うとしている。再発防止策として市は全職員に対し、運転免許証の有効期限の確認を徹底するよう通知し再発防止に努めるとしている。 同市では今年1月にも別の市職員が、運転免許証を失効した状態で約1カ月間、自家用車を運転していたことが発覚した。その際市は、全職員に対し運転免許証の有効期限を確認するよう注意喚起し再発防止に努めるとしていた(1月24日付)。

今こそ日本の食と農を守ろうー東京で緊急総会《邑から日本を見る》183

【先﨑千尋】今から100年以上も前の1918(大正7)年に起きたホンモノ(?)の米騒動。米不足と日本軍のシベリア出兵に伴う投機で米価が高騰し、富山県魚津町での騒動が全国に波及し、一部では地主や米穀商への打ち壊しなどが行われ、軍隊も出動、死者も出た。 では「令和の米騒動」はどうか。騒動と言うけれど、どこでも騒動は起きていない。小泉農相の一声で始まった価格破壊の備蓄米放出で、5キロ2000円の米を買うのに朝早くから行列。買えた人は喜び、買えなかった人は落胆する様子がテレビで放映されている。喜んだり悲しんだりするのではなく、怒るべきではないのか。国民はなぜ怒らないのか。 「米作り農家は、時給10円では生活できない」と、3月に東京など全国14か所で「令和の百姓一揆」が繰り広げられたが(コラム181)、その後も米価は下がらず、日米関税交渉で農産物の輸入拡大が焦点になってきている。これは大変だと、百姓一揆実行委員会と日本の種子(たね)を守る会、農協有志連合の呼びかけで、6月4日に東京の参議院議員会館で緊急集会が開かれ、全国から100人が集まった。 生産者の声を聴いて! 集会では、常陸農協の秋山豊組合長ら9人が、現地からの報告や消費者からの提言を行った。秋山組合長は「米不足だというのに、現在でも農家は35%の減反を強いられている。そのことを消費者は知らないでいる。米の価格が急騰したのは異常気象により政府の需給見通しが狂ったからなのにもかかわらず、それを政府は認めず、転作を緩めなかったからだ。 政府が備蓄米を放出しても、7月から9月までの絶対量は57万トンも足りない。米作り農家が生産を維持できる適正価格は、玄米60キロ当たりで2万4000円、消費者価格では5キロ3420円(いずれも税抜き)。消費者価格をそれよりも下げるには政府の対応が必要になる」と、現状とこれからの見通しを述べた。 静岡県の米農家 藤松泰通さんは「周りでは耕作放棄地が増えている。また、大規模農家や米の業者の倒産、廃業も続いている。肥料などの生産資材や石油、種子などは大半が輸入に頼っており、それが入らなくなったら日本の農業はアウトだ。食料も海外依存。止められたらどうするのか。それでいいのか」と、怒りをあらわにしていた。 新潟県の石塚美津夫さんは「かつては水路や農道の整備は集落ぐるみで行っていたが、ムラ社会が崩壊し、それができなくなっている。政府はスマート農業や大型の圃場整備を進めているが、その補助金はメーカーや土木業者に行くだけではないか」と訴えた。 その他、「消費者もマスコミも価格だけに目が向き、生産者の顔や声が見えない、聞こえない。輸入米を増やす話があるが、農薬漬けで恐ろしい。食べ物は水や空気と同じで、商品ではない。米の問題は農政ではなく、生産者、国民に対する社会保障政策と考えるべき。EUやアメリカなどのように生産者への所得補償政策を進めなければ、農業生産は維持できない。5000億円の予算があればできる」などの声が出された。 最後に、令和の百姓一揆実行委員会代表の菅野芳秀さんが「百姓一揆の行動はこれからも連続して続ける。有史以来の危機なので、命がけで行動しよう。国会議員も一緒にやろう」と呼び掛けた。(前瓜連町長)