【コラム・浅井和幸】高齢になると転倒事故はとても危険です。大けがにつながったり、歩行困難になる障害が残ったりすることもあるでしょう。なので、出来るだけ「転ばないようにね」と声をかけることは間違っていません。
さらに転倒防止のために、転倒リスクがある場所に手すりをつけたり、滑りにくい素材の床材を使ったり、段差をなくしたりと対応します。これらの手法は、転倒しにくい環境づくりとして推奨されます。
転倒リスクは環境だけではありません。高齢者自身の筋力や運動能力、視力などの衰えも転倒リスクとなります。なので、運動をすることも推奨されるのです。
ですが、環境づくりがうまくいくことで転倒しにくくなりますから、運動などして自分を鍛える必要がなくなるという捉え方もできます。そうなると、自分自身の能力である部分での転倒リスクが上がるということが起こるでしょう。バリアフリーが進みすぎると、余計に転倒しやすくなると言われるゆえんです。
転倒防止のために、運動をして自分自身の転倒リスクを下げることになります。そこで、転ばない練習と転ぶ練習が大切で、両者は似て非なるものです。柔道で相手がこちらを倒そうとしてくるところを、一生懸命にバランスをとってこらえるのが倒れない練習で、自ら積極的に倒れて受け身の練習をするのが倒れる練習と言えるでしょう。
そうは言っても高齢化すれば、努力しても筋力や運動能力が相対的に下がっていくので、転ぶ練習をしろとは言いにくいものです。転ぶ練習で骨折したら目も当てられません。それでも、出来る範囲で練習をした方がよいのではないかなと思います。
それが、まだまだ成長段階の未成年から中高年までであれば、積極的に転ぶ練習をした方がよいでしょうね。転ばない練習で得た身体操作は、いざ転んでしまったときには役に立たない技量ですから。
失敗によって得られる貴重な経験
これは、勉強でも、仕事でも、人間関係でも、他の社会生活でもすべてに当てはまります。自己肯定感とか、成功体験とかの経験、練習はとても大切です。ですが、いかに失敗した経験から立ち直れるかの練習もとても大切なものなのです。成功体験ばかりに意識が偏ってしまうと、いざ失敗した時に受け身が取れずに大きな支障が出てしまうことになりかねないのです。
絶対負けられない試合、絶対失敗してはいけないこと、絶対に…、このような場面が生きていてどれぐらいあるものなのでしょうか。絶対ミスをしてはいけないのであれば物事を行わない、絶対負けないと言うことは明らかに弱い相手と戦うか、試合をしない、ひきこもれということになります。
親や支援者が、子どもや被支援者から失敗によって得られる貴重な経験を奪ってはいけません。自分が前に進めなくなったとき、どう相手に接してよいか分からなくなったとき、失敗しない方法ばかりでなく、どこまでなら失敗してもよいだろう、失敗させてもよいだろうかと考えるくせをつけることで、道が見えることもあります。(精神保健福祉士)