土曜日, 6月 10, 2023
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ヒューマンスケールに合った街 《遊民通信》65

【コラム・田口哲郎】

前略

仙台に住んでいたことがあります。郊外の新興住宅地でのんびり生活していました。当時高校生でしたので、仙台という街がどんな街だとかそんなことはあまり深く考えていませんでした。ただ、住んでいるところから都心にある学校まで市営バスで30分ほどかかり、不便だなあと思っていたことは覚えています。大学入学と同時に上京して、今は茨城県民というわけです。

さて、コロナ前の2019年に仙台に遊びに行ったことがあります。牛タンを食べたり、青葉山に登ったりと楽しかったのです。仙台という街を離れてから見てみると、印象が違いました。住んでいた当時は、刺激のあまりない小さな地方都市くらいにしか思ってなかったのです。

しかし、首都圏という特殊な大都市に少々疲れた目で見ると、仙台は都市と自然が近いので、住人にとって良い街なのだとわかったのです。都心から少し歩けば広瀬川があり、利根川のように川幅が広くなく、曲がりくねって市内を流れて豊かな景色を見せています。けやき並木がコンクリートをやさしく緑に包んでいました。

かつて住んでいた住宅地から都心まで車で移動したのですが、わずか15分でした。そういえば、よく家から藤崎デパートまで車で行っていたことを思い出しました。地図を見てみると、仙台の都市圏は仙台駅を中心に半径15キロに収まります。

つくば駅から牛久駅までがだいたい15キロですので、つくば、牛久、土浦を結んだくらいのところに、仙台は中枢と郊外がだいたい収まることになります。

巨大な首都圏を住みよい街にするには

仙台は郊外から都心の百貨店まで車で20~30分です。茨城県南の場合、いわゆる総合百貨店はないので、百貨店に行くとなると、柏高島屋まで40キロ弱となるでしょうか。こうみると、関東首都圏の巨大さを思い知ることができると思います。巨大都市は人口も多く、土地の広さが必要になりますから、都市機能が分散することになります。そうすると、住人はその分移動をしなければならなくなり、生活に占める移動時間は増えるでしょう。

ヒューマンスケールという人間生活に適した都市の大きさを考えた場合、良し悪しは人それぞれの感じ方によりますが、首都圏と仙台では移動時間のロスには差が出そうです。もちろん、道路の整備状況、鉄道網の有無があり、一概には言えませんが、首都圏と仙台では移動時間に対する感覚は違い、仙台のほうが短いと思います。

コロナ禍で移動のムダを省くリモート通信技術が普及しました。まったく移動しないのも人間としては良くないのですが、何をするにも、それなりの移動時間が必要な首都圏の都市構造は、引き続きリモート通信技術によって見直されるべきだと思います。つくば・土浦を都心とする都市圏ができて、より暮らしやすくなるといいですね。ごきげんよう。

草々

(散歩好きの文明批評家)

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