農研機構など 再資源化システムで特許取得
増えるフードロスの一方で先細る食料資源ー。持続的な食品サイクルが地球規模で危機にひんする中、体長数センチの小さな昆虫の存在がクローズアップされている。一般に「ミズアブ」と呼ばれるアメリカミズアブは、余った農産物や廃棄食材のリサイクル処理に有用な昆虫とされる。ミズアブの幼虫を動物性たんぱく質として回収する研究に取り組んでいた農研機構(つくば市)などのグループが24日、研究成果を発表した。
記者発表したのは、農研機構昆虫利用技術研究領域の小林徹也グループ長補佐(48)、同機構から東京大学大学院に移り応用昆虫学を研究している霜田政美教授(57)ら。ミズアブには、食品廃棄物の処理の際発生する悪臭を抑える機能が隠されていることを発見、再資源化システムで特許を取得した。循環型産業の「昆虫工場」を日本国内につくる上での可能性を示唆した。
ミズアブは北中米が原産で、世界各地に分布生息域を広げる。日本にも1950年ごろに侵入し自然繁殖するようになった。アブの仲間だが人を刺すことはなく、特に害虫扱いはされていない。この幼虫に生ごみなどを分解させると、残さはたい肥となり、体長20-28ミリぐらいに育った幼虫はタンパク源として飼料に用いられる。家畜化昆虫の技術で、ミズアブ繁殖の「昆虫工場」は東南アジアなどに広がりつつあるが、日本では廃棄物処理業者などが試行的に始めた段階にとどまる。
研究グループは、食品残さの中で育てたミズアブの幼虫をたんぱく質資源として回収した上で、魚粉代替に用いる「出口戦略」を立てた。魚粉価格は高騰しており、養殖経営を圧迫している。ことし1月現在キロ当たり232円で、2001年比で5倍強になっているというデータもある。その飼料のたんぱく質を、食品廃棄物を原料とするミズアブから得ようとするわけだ。「バイオ燃料で食料のトウモロコシを取り合いしたような事態は避けられる」と霜田教授。
ミズアブのたんぱく質含有量は約42%。卵からかえった幼虫が蛹(さなぎ)になる直前まで約20日間、育てる。約100キロの食品残さで、約15キロのたんぱく質が回収できるという。
食品廃棄物を餌にミズアブを飼育すると、独特の悪臭が消えていることに気づいた研究グループは、ミズアブを入れないで放置する場合と比較してみた。すると悪臭の主原因である二硫化メチルや三硫化メチルなどが激減した。数値としては検出限界以下だった。
メタゲノム解析を行ったところ、ミズアブ飼育により残さの細菌の種類が変化し、全体の多様性は減少することが分かった。ミズアブ幼虫の腸内細菌に由来する細菌が、悪臭の要因となる物質の代謝・分解に関わる酵素を有するため、悪臭が抑制されたと考えられた。乳酸菌の一種であるラクトバチラス属が有意に増えていたという。
一般に生ごみなどのコンポストでは、臭いがしなくなる完熟たい肥には数カ月かかるが、20日程度で済むなら産業化に大きな前進。さらに昆虫のふんや腸内細菌などが混ざった飼育残さを処理前の食品残さに混合すれば消臭剤としても利用できる。この再資源化システムで昨年、特許を取得した。悪臭のしない「昆虫工場」なら、食品廃棄物が大量発生する市街地近傍での立地にも可能性が開ける。
小林グループ長補佐は「ラクトバチラス属といっても数多くの種があって、研究としては消臭作用を持ったものを同定するのがこれからの課題になる。その種を大量培養できるかなどで、産業化の展望も開けてくると思う」と語っている。(相澤冬樹)