コロナ禍の2020年、シングルマザー5人が立ち上げた子ども食堂がある。阿見町を中心に食料を無料で配布するフードパントリーや子ども食堂、無料塾などの活動をしているami seed(アミ・シード)だ。代表の清水直美さん(44)ら30~50代の女性10人が中心となって運営する。
2月初め、阿見町のコミュニティセンター、本郷ふれあいセンター(同町本郷)で開かれた無料塾と子ども食堂「おにぎり食堂」に小学生から高校生まで約15人が集まった。毎週木曜日に開催している。子どもたちは机の上にそれぞれの教科書やノートを広げ、集中して鉛筆を走らせている。ボランティアの山田美和さんら2人が講師として子どもたちに勉強を教える中、調理室では清水さんら6人が調理に追われていた。
この日の献立は翌日が節分の日であることに合わせて、恵方巻とさつまいもの肉巻き、さつまいもとりんごのサラダ、あさりとしじみ2種類の味噌汁、牛乳。訪れた子どもたちの分と子どもたちが持ち帰る家族の分、合わせて50食を作り、容器に盛り付けていく。献立は調理師の資格を持つ林久美子さんが考えた。食材はいずれも寄付されたものだ。
しばらくすると勉強が終わった小学生たちが食事の準備を待ちきれず調理室にやってきた。「お腹減った?自分の分を自分で巻いてみる?」。林さんが恵方巻の作り方を教えると、子どもたちは真剣な様子で巻きすに手を添え巻いていく。完成すると笑顔がこぼれた。続いてやってきた中学生たちも自分で作った太巻き1本を、恵方を向いてほおばると「とてもうまいです」と顔をほころばせ、親指を立てて見せた。

近所の人が助けてくれた
ami seedは20年4月、清水さんらが立ち上げた。阿見町には茨城大学農学部と県立医療大学の二つの大学がある。コロナ禍、一人暮らしの大学生や一人親世帯に食料を無料配布する活動から始まった。
清水さんは22歳になる双子の娘を持つ。娘が中学生の時に離婚し、仕事を掛け持ちした。忙しい生活の中、母が余命1年と宣告を受け、清水さんは自宅で最期をみとる選択をした。仕事と介護、子育てに追われる生活を見かね、近所の人たちが料理を作って持ってきて助けてくれた。
この体験を経て「それぞれいろいろな事情があったとしても、とにかくごはんを食べていればなんとかなる」と、食の支援を思い立った。
「おにぎり食堂」は、企業や個人からの寄付や、JAなどから支援を受けて集まった食材で運営している。最近は物価の高騰からか、集まる食材が減ってきたという。乳児用のミルクやおむつ、ベビーチェアやチャイルドシートなどが足りていないことも課題だ。
活動を知った土浦市や取手市などからも相談や問い合わせがあるという。子育ての仕方が分からないと育児ノイローゼになりながらも一人で子育てしている女性、離婚調停中で経済的に困窮している女性、仕事がなく昼夜逆転の生活をしている人。清水さんが寄り添ってきた人たちだ。「骨と皮になっているママもいる。職場でも友だちがつくれず、上司からパワハラを受けていたりもする人もいる」と清水さん。
一人暮らしの大学生は、経済面だけでなく心の問題を抱えていることが多いという。学業の相談を受けたり、自殺の連絡が来て止めたりしたこともあった。痩せていく様子を見て診察を勧め、医療につなげたこともある。
大学生との間でこんなエピソードもあった。ある時、90代の夫婦が寄付金数万円を携えて訪れた。県外出身の一人暮らしの男子大学生はその寄付金による支援で食料をもらうことができ、無事卒業した。社会人になった男性が夫婦に感謝の手紙を書いて送ったところ、子どものいない夫婦は「本当の孫からもらったようでこの手紙が宝物」と清水さんに語った。夫婦と男性を会わせたいと考えた清水さんは、夫婦宅の草取りの手伝いに男性を呼び、3人は対面することができた。
孤立しやすい一人親家庭や大学生、一人暮らし高齢者を、清水さんはいずれの場合も見守りながら、必要であれば本人の同意を得て行政の支援につなげる。しかし、傷ついた経験から行政の介入を拒む人もいるとし、「とにかく(気持ちを)吐き出させて帰らせることが大切」と話す。
今後の目標については「シングルマザーの暮らす家をつくりたい。第三の居場所、公共施設を使わずに活動できる場所をつくりたい」と話した。(田中めぐみ)
続く