金曜日, 11月 21, 2025
ホームコラムふるさと納税の顛末記 ④ 《文京町便り》13

ふるさと納税の顛末記 ④ 《文京町便り》13

【コラム・原田博夫】ふるさと納税による市町村民税(個人)控除額は2022年度、全国では540億円超で、前年度より168億円増えている。初年度(2009年度)の19億円と比べると、28倍である。控除額=流出額の多い地方自治体はほとんどが大都市である。高所得者で、インターネットやSNSへのアクセスが日常的で、目端(めはし)の利く大都市住民がこの制度を活用しているようだ。

ところが、この市町村民税(個人)控除額の流出のうち75%は、地方交付税制度で多数派の交付団体ではカバーされる。ただ、少数派の不交付団体は、ふるさと納税の流出額はカバーされない。

そもそも地方交付税制度(普通交付税)では、それぞれの自治体ごとに標準的な財政運営と財政収入を想定して、基準財政需要額と基準財政収入額(標準税率による地方税収の75%)を算出して、前者が後者を上回る分を財源不足とみなし、その不足分が交付額になる。

前者が後者を上回れば交付団体となり、下回る場合は財政的に富裕とみなされ不交付団体となる。交付団体において、ふるさと納税の流出額の75%がカバーされるとは、この仕組みによる。

一方、不交付団体ではこうした補填(ほてん)がきかない。不交付団体は2022年度では、東京都と72市町村(市町村総数は1718)である。東京都(および23特別区)はこの地方交付税制度の創設(1954年度)以来、一貫して不交付団体である。都内の市町村の中にも不交付団体がある。現に2022年度は、全39団体中9団体が不交付団体である。茨城県では、つくば市、神栖市、東海村の3自治体である。

他方、東京23区は、東京都と同様に地方交付税制度では不交付団体である。ところが、市町村民税(個人)控除額のランキングでは、全国20位までに東京都23区のうち8区が入っている。特別区長会ではかねてから、ふるさと納税制度の問題点を指摘し、廃止も含めた見直しを要望している(例えば2017年3月13日付)。

2019年6月から新制度がスタート

こうした経緯を経て、2019年6月1日からふるさと納税の新制度がスタートした。返礼品を「寄附額の3割以下の地場産品」に限定し、ルールを守る自治体のみ税優遇を認める、というもの。総務省は2019年5月14日、この新制度を利用できる地方自治体を公表した。この新制度には、東京都はそもそも手を挙げなかった。

また、税優遇を受けることができないとされたのは4市町、税優遇期間が4カ月(2019年9月30日まで)に限定されたのは43市町村(茨城県では稲敷市、つくばみらい市)だった(これらの市町村は、いわばイエローカードで、再度の申請は可能)。

ここ10数年の展開を見ると、この制度の立ち上げをリードしたと自負している菅義偉前首相に、ふるさと納税制度(案)の問題点を縷々(るる)説明した当時の総務官僚の心配、懸念は杞憂(きゆう)ではなかった。とはいえ、せっかくここまで人口に膾炙(かいしゃ)した制度をご破算にするのは難しい。

せめて、ふるさと納税の寄附先を過疎地自治体885団体(2022年度では全国1718市町村=東京23区を除く=中51.5%)に限定するなどの改革で、当初の問題意識を昇華させたい。(専修大学名誉教授)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

8 コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

8 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

旧家住宅が登録有形文化財に つくば市栗原 家族が保存・活用方法を模索

国の文化審議会(島谷弘幸会長)は21日、江戸後期から大正後期に建築されたつくば市栗原、旧家の住宅「下邑(しもむら)家住宅」の主屋(おもや)や米蔵、長屋門など6棟1基を、国の登録有形文化財に登録するよう文科相に答申した。主屋と米蔵は造形の規範として、長屋門や塀は歴史的景観に寄与するものとして評価された。 登録されるのは、主屋と、米蔵・北蔵・南蔵の3棟の蔵、長屋門、外便所、塀。同市文化財課は「市として、市内で文化財の登録が増えるのは喜ばしい。これまでにもイベント等で活用されてきた実績がある施設で、今後も市としてイベントの周知等を通じて連携していきたい」と話す。答申後、官報に告示され、正式に登録される。登録されれば、市内の登録有形文化財は7カ所28件になる。 下邑家は、新田開発や質屋などの事業で財を成した。同市筑波地区と土浦市を結ぶ街道沿いにあり、敷地面積は約4200平方メートル。 主屋は平屋建て寄棟造、江戸後期の建築とされ、明治中期に現在の豪華な姿に改修された。間取りは、一般的な農家建築よりも部屋数が多い六つ間取りで、来客を迎えるための広い式台玄関などに当時の栄華を見ることができる。座敷は、書院の障子や欄間(らんま)に、繊細な模様を作り出す組子(くみこ)を用い、格式を備えている。 3棟の蔵のうち、米蔵は1921(大正10)年ごろに建てられた。木造2階建て、切妻造、外壁は黒漆喰(しっくい)塗仕上げで、屋根材を構成する下屋桁(げやけた)には、長大なマツの一丁材が使われるなど豪華な造りとなっている。入り口脇には英語で記された木札が残され、戦後にGHQの食糧倉庫として借し上げられたことを伝えている。江戸後期の建築と伝わる北蔵は、かつて質草を保管した蔵で、外壁を漆喰で塗り固めた土蔵造り、こて絵による「下邑」の文字が残る。南蔵は、関東大震災以後の1924(大正13)年に再建され、現在も倉庫として使用されている。 長屋門と塀は明治前期に建築され、長屋門は門口廻りにケヤキ材を用いた重厚な造りとなっている。塀は三段の切石積みの基礎の土台の上に柱を立てて造られている。 震災と家族の思いが背中押した 下邑家の7代目の下邑悠司さん(32)は、母の郷晴美さん、妹の瑞季さんらと参加者を募り、住宅敷地内で飲食物やハンドメイド作品などを販売する「邑(むら)マルシェ」の開催や、レンタルスペースとして利用者を募るなど、これまで古民家の新しい利用方法を模索してきた。 今回、国登録有形文化財に登録されることについて下邑さんは「家を残さないと先祖に顔向けできないという焦りがあった。東日本大震災での家の破損と、祖父の逝去とが重なり、その思いが加速した」と述べ、「2017年から開始した『邑マルシェ』は、資金がない中でできる活動として、多くの人に家を知ってもらうために始めた。今回の文化財登録は、さらに多くの方に知ってもらうための大きな一歩」と話す。 また「2028年には下邑家が今の場所に移り住んで230年を迎える。そのタイミングで家の歴史そのものに焦点を当てた展示会を、邑マルシェと同時開催することを計画している」と語り、今後については「今の姿のままを残していきたい。古建築活用といえばリノベーションやワークショップが主流だが、資金や人脈がない一個人には難しい。一方、リノベーションしていない本来の姿が喜ばれる活用方法としてマルシェや撮影利用などがある。古い家に生まれたものの、保存に悩んでいる全国の皆様の参考になれるように活動していきたい。今回の登録は、出店者やお客様、家の保全や広報を手伝ってくれている方々のおかげで実現したもの。感謝を忘れることなく今後も邁進していきたい」と思いを語った。(柴田大輔) 〈下邑家住宅の過去記事〉➡古民家活用のモデル模索中(2023年5月31日付)➡地元ホテル、ワイナリーとコラボ(23年10月23日付)➡大正建築の米蔵に価値を見出す(23年10月24日付)➡コスプレーヤーの高校生ら動画制作しPR(24年5月16日付)

高所作業車から2人が転落 つくば市並木大橋

アームが車線はみだし大型トラックと接触 20日午後0時5分ごろ、つくば市並木4丁目、学園東大通りに架かる並木大橋で、作業員2人が高所作業車のアームの先端に設置されたゴンドラに乗って作業中、アームが隣の車線にはみ出し、走行してきた大型トラックの荷台に接触、ゴンドラに乗っていた20代と30代の男性作業員2人が4~5メートル下に転落した。2人は救急車で病院に運ばれたが、30代男性は重体、20代男性は重傷を負った。2人共、意識はあるという。 つくば市道路整備課によると、工事は同市が発注した橋梁長寿命化補修工事。この日は、東大通りの片側2車線の道路のうち、荒川沖方面に向かう、並木地区の住宅街側の1車線を通行止めにしていた。作業員2人はアームの先端のゴンドラに乗って、橋の底部のコンクリートひび割れの補修作業を実施、ひび割れ箇所に注射器のような注入器具を取り付けて薬剤を注入し、取り付けた注入器具を回収する作業をしていた際、注入器具を回収するためアームを隣の車線の上に動かしたところ、走行してきた大型トラックの荷台にアームが接触した。 転落した作業員2人はいずれも下請け会社の作業員だった。 同課によると、本来、アームを隣の車線の上に動かす際は、隣の車線も一時通行止めにすべきだったが、規制しなかったという。市によると、なぜ車線を規制しないままアームを動かしたかなどの原因は現時点で不明としている。 この事故で、アームが動かなくなり高所作業者の撤収に時間がかかったなどから、荒川沖方面に向かう片側2車線がいずれも、同日午後6時15分まで約6時間にわたり通行止めになった。路線バスと高速バスのバス停3カ所も利用できなくなった。 並木大橋の橋梁補修工事は6月3日に始まり、来年1月30日まで実施される予定。再発防止策として市は同日、元請け業者に対し、工事現場の規制方法の再確認や交通誘導員及び現場作業員に対する安全対策の再教育を指示した。さらに現在、市の工事を受注している全事業者に対し、安全対策に関する指導を徹底するとしている。

地元企業から社協へ 福祉活動への寄付金を贈呈

つくば市に本社を置く関彰商事(本社筑西市・つくば市、関正樹社長)の「セキショウふれあい基金」から20日、同市社会福祉協議会(会長・松本玲子副市長)に50万円の寄付金が贈呈された。20日、つくば市役所で贈呈式が催され、市社協会長の松本玲子副市長は「幅広く、地域福祉への貢献のために有効に活用することで、さらにつくばへ貢献していきたい」と語った。 セキショウふれあい基金は、地域の社会福祉貢献活動を支援することを目的に1999年に創設された。会社と職員のほか、同社の顧客から募った寄付金をもとに、県内外で福祉貢献活動をする団体や自治体に寄付活動を行っている。今年で26年目を迎え、東日本大震災の際には茨城県と福島県いわき市に、2019年の台風19号、23年の台風13号の際には被災した自治体に義援金を寄付した。22年に守谷、常総、坂東、つくばみらいの4市が連携しウクライナ避難民を受け入れた際には、生活支援金として200万円を寄付している。 関彰商事によると、県内に44あるすべての社会福祉協議会に対して、9年かけて寄付を行っていくとし、今年はつくば市をはじめ、阿見町、美浦村、河内町、牛久市に50万円ずつ寄付する。 寄贈式のあいさつで、関彰商事の葉章二常務取締役は「高齢者や障害者、子どもたちなど、地域で支援を必要とされる方々へ幅広く活用されることを希望している。つくば市社会福祉協議会が推進しているさまざまな活動に役立てていただければ」とし、「今後も地域とのつながりを大切にし、地域貢献の一環として社会福祉活動を支援していきたい」と語った。(柴田大輔)

民有地の建物内にセアカゴケグモ 土浦市が注意呼び掛け

土浦市は18日、同市東中貫町、民有地の建物内で、特定外来生物のセアカゴケグモのメス1匹と、卵が詰まった卵のう4個が発見されたと発表した。クモはすでに駆除され、かまれた人や健康被害を訴える人はいない。 セアカゴケグモのメスは毒をもち、かまれると重症化することがある。素手で触るとかまれることがあるため、同市は、見掛けても絶対に素手で触らないよう注意を呼び掛けている。 市環境衛生課によると、17日、建物内にクモが1匹いるのが発見され、セアカゴケグモだと分かり、発見者がクモと卵のうを駆除した。発見者は同日午後5時30分ごろ、市ホームページの問い合わせフォームから市に連絡した。 翌18日午前9時ごろ、連絡を受けた市職員が現地を訪問し、駆除されたセアカゴケグモ1匹と卵のうを確認。県生物多様性センターが同日、セアカゴケグモであることを確認した。 駆除されたメスは体長1センチ弱、卵のうは袋状で、一つの直径が5ミリ程度。クモがどこから侵入したかなどは不明という。 同市内では今年8月、民有地でセアカゴケグモの死骸が発見された。生きた状態で見つかったのは今回が初めて。県内では2013年に神栖市で発見されて以降、各地で目撃されている。 市は、セアカゴケグモを見つけた場合、素手で触らず、家庭用殺虫剤か熱湯、靴などで踏みつぶして駆除し、市環境衛生課(電話029-826-1111内線2459)に連絡してほしいと呼び掛けている。