森林総合研究所(つくば市松の里)は9日、国産のトリュフであるホンセイヨウショウロの人工的な発生に成功したと発表した。国内では初の成功事例で、トリュフの人工栽培に向け、最初の一歩を踏み出した形という。
トリュフはマツタケなどと同じく、木の根元に生える菌根菌の仲間。一般に「キノコ」として見える塊状の部分は、菌類が胞子をつくる箇所で「子実体(しじつたい)」と呼ぶ。森林総研は今回、菌を人工的に共生させた樹木を試験地に植え、観察を続けたところ、昨年11月に初めて、茨城県内と京都府内の試験地で、合計22個の「子実体」の発生を確認した。
トリュフは、キャビア、フォアグラと並ぶ世界三大珍味の一つとして知られ、貿易統計上はマツタケを上回る高価格で取り引きされている。高級食材として大きな市場性を持つ期待もあり、森林総研は2015年度から国産トリュフの栽培化を目指した研究に取り組んできた。日本には20種以上のトリュフが自生しているが、野生のトリュフは希少で流通はしておらず、人工栽培技術の取り組みもなかった。
ヨーロッパでは樹木の根にトリュフ菌を共生させた苗木を植栽し、トリュフが栽培されている。森林総研の研究グループでは、国内のトリュフの自然発生地で調査を進めて、トリュフの生育に適した樹種や土壌環境を解明し、それらの条件を再現して国産種のトリュフを発生させることを目指した。
今回菌が使われたホンセイヨウショウロは、日本国内で採取された白トリュフで、森林総研などにより2016年に新種と確認された。ショウロ(松露)とは別の品種。ホンセイヨウショウロはヨーロッパ産の白トリュフと同様に独特の風味を有しており、芳じゅんな香りが特徴という。これをコナラ苗木に人工的に共させ、国内の4つの試験地に植えて栽培管理を行った。
その結果、茨城県内の試験地(17年10月植栽)と京都府内の試験地(19年4月植栽)で、22年11月に、それぞれ8個、14個の子実体発生を確認した。最大のもので9センチ60グラムのものが得られた。これら子実体の形態や遺伝情報に基づいてホンセイヨウショウロであることを確認したという。県内の試験地の場所を特定する情報は明かされなかった。
研究担当の山中高史森林総研東北支所長によれば「サイズ的にも不揃いで、流通に乗せるには程遠い。人工栽培に成功したとは言い難く、人工的な発生という表現にとどめた」そう。4つの試験地のうち、発生が確認できたのは2カ所であったことから、今後の経過を観察するとともに、土壌などの環境条件と発生の関係などを見定めるなどして、トリュフの人工栽培の技術開発に道すじをつけたいとしている。(相澤冬樹)