月曜日, 9月 7, 2026
ホームコラム安全保障戦略の転換と新年度予算案 《雑記録》43

安全保障戦略の転換と新年度予算案 《雑記録》43

【コラム・瀧田薫】昨年12月16日、政府は「国家安全保障戦略」を閣議決定し、同24日、防衛費の大幅増を含む来年度当初予算案を閣議決定した。これは戦後日本の安全保障政策の大転換であり、憲法9条に基づく「平和国家」と「専守防衛」の国是を揺るがすものだ。

記者会見で「唐突な決定ではないか」との質問に対して、岸田首相は「国家安全保障会議(NSC)や有識者会議で意見を聞いたし、与党のプロセスも経ているので、問題はない」と答えている。国民への説明は後回しということであろう。

さて、新聞各紙はどのように報じたろうか。社説を比較読みして、以下に見出しを列記してみた(「」内が見出し、・印が小見出し)。各紙の主張、その概略を把握できると思う。

▽茨城「信問うべき平和国家の進路」

▽毎日「国民的議論なき大転換」・揺らぐ専守防衛・緊張緩和する外交こそ

▽朝日「平和構築欠く力への傾斜」・反撃でも日米一体化・中国にどう向き合う・説明と同意なきまま

▽読売「国力を結集し防衛体制固めよ」・反撃能力で抑止効果を高めたい・硬直的な予算を改めた・サイバー対策が急務・将来の財源は決着せず

▽日経「防衛力強化の効率的実行と説明を」・戦後安保の歴史的転換・安定財源確保進めよ

▽産経「平和守る歴史的大転換・安定財源確保し抑止力高めよ」・行動した首相評価する・国民は改革の後押しを

国会熟議と国民説明が必要

茨城、毎日、朝日の3紙は批判的論調、読売、日経、産経の3紙は肯定的論調と、ほぼ予想通り。防衛予算についても同様の論調であった。意外だったのは、安保戦略の歴史的転換を扱っているにしては、各紙とも抑えた書き方をしている、そんな印象を受けたことだ。その分、今回は軍事や外交の専門家の発言が目立った。その中からいくつか拾い出してみよう。

香田洋二氏(元海上自衛隊自衛艦隊司令官)は、大幅増となった防衛予算について現場サイドによる検討がなされた形跡がないとし、予算の無駄は本当に必要な防衛力とトレードオフの関係にあるとして、予算の中身に深刻な懸念を表明している。(朝日、12月23日付)

田中均氏(元外務審議官)は、防衛予算の拡充も必要だが、それ以上に経済、技術、エネルギーなどの国力を強化すべきだといい、さらに外交とインテリジェンス(情報の収集と分析)の役割の大きさを強調した。

藤原帰一氏(東大名誉教授・国際政治論)は、新安保戦略の本質を「日米同盟のNATO化」であると喝破した。その上で、抑止力に頼るだけの対外政策は戦争のリスクを高めるとし、外交による緊張緩和の努力が欠かせないとした。岸田政権は抑止力強化には熱心だが、外交努力が足りず、そこが危ういと藤原氏はいう。

ともかく、安全保障について次の通常国会で熟議を重ね、国民に十分に説明しなければならない。国会議員自ら超党派で勉強会を開き、専門家の知恵を借りるなどすればと思うのだが、現状の国会では無理だろう。安全保障環境を整えるための最優先課題は、「この国の国会と国連それぞれの待ったなしの改革だ」と考える国民は少なくないはずである。(茨城キリスト教大学名誉教授)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

3 コメント

3 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho





spot_img

最新記事

「分からないことだらけ、不安たくさん」住民団体が設立総会【つくばに国内最大級のデータセンター】

周辺住民ら約200人集う つくば市大穂で建設が始まった国内最大級のデータセンター計画に対し、市や事業者に公開説明会の開催を求めている住民団体「データセンターから市民を守る会」(柳町弘幸会長)が6日、計画地近くの同市筑穂、大穂交流センターで設立総会を開いた。 会場には周辺住民など約200人が集まった。参加者からは「分からないことだらけで、不安がたくさんある」「なぜつくばにこんな大きな施設をつくらないといけないのか。1棟や3棟はやむを得ないかもしれないが、住宅地周辺なので(事業者が計画している)100万キロワットには反対していただきたい」などの意見が相次いだ。 守る会は今年4月から活動を始め、周辺住宅を回って住民アンケート調査と署名活動に取り組み、事業者のグッドマンジャパンに説明会開催を要望してきた(6月8日付)。2日開会した市議会9月定例会議に向けては、つくば市による市民向け公開説明会の開催を求める請願を出したばかり(8月31日付)。 4月から活動を続ける中、周辺住民などから入会申し込みなどが相次いでいたなどから、6日、改めて設立総会を開き、規約などを定め、役員を紹介した。 設立趣意書や規約によると、市が所有していた45ヘクタールを売却し用途地域を変更して進められている国内最大級のデータセンター開発は、市全体に関わるまちづくりの重要な課題だが、市民や周辺住民などから「排熱による気温上昇、騒音、水利用などについて、十分な説明が行われていない、正確な情報が分からないという声が数多く寄せられている」などとし、将来にわたり安心して暮らせる地域づくりを進めるため、今後の活動として①市民への情報提供と情報共有➁行政と事業者への要望・提案③公開説明会の開催要望④環境と生活環境の調査・研究などを行うとしている。 歌川学さんが講演 設立総会では、つくば市内の研究機関に勤務し温暖化対策を研究する歌川学さんが「データセンターの地域への影響」と題して講演した(5月19日付、5月20日付)。歌川さんは、事業者の計画通り100万キロワット(1000メガワット)のデータセンターが完成した場合、現在つくば市全体で排出されている2倍の二酸化炭素が大穂のデータセンター1カ所から排出され、市全体の2倍の排熱が発生するなどの試算結果を改めて示した。その上で「夏の猛暑日などは周辺住民、特に健康弱者の健康影響が懸念され、農業などにも影響が懸念される」と改めて述べ、「地域に影響が出ないか、悪い気象条件も想定して、地域の気温上昇分布を予測試算し、地域の健康弱者、農業などに影響がないかを確認することが必要だ」と述べた。 データセンター業界が今年5月に策定した地域との共生をうたう「地域共生ガイドライン」に対しては「数値目標が一つもない」と批判。自治体や住民が事業者と協定を締結している事例を紹介したり、自治体が地区計画を見直した例などを紹介した。(鈴木宏子)

バイシクル・ダイアリーズ ⑸《ことばのおはなし》96

【コラム・山口絹記】前回の記事では、深く考えずに「ツール・ド・つくば2026」にエントリーしてしまったところまで書いた。 エントリーしてしまったものは仕方ない。自転車屋に向かい、店長さんに「ペダルをビンディングにしたいんです」と伝えた。ビンディングペダルとは、ペダルと靴をカチッとくっつけて、より力強く走るためのペダルのことだ。 「乗り始めて半月も経ってないですけど、そんなに急いでどこに行くんですか?」 もう少し慣れてからでもよいと言われたものの、こちらには時間がない。ツール・ド・つくばにエントリーした旨を伝えると、店長さんは拍手をしながら取り付けを了承してくれた。ビンディングペダルにシューズ、お尻にクッションの入ったピチピチのパンツ(ビブショーツという)も購入。準備は整った。あとはエンジン、つまり自分の体力だけが問題だ。 この日から、毎晩、家の周りを何十周と走る自転車妖怪となった。 約1週間走り続け、5月半ば、ついに実地練習。店長さんから「家からスタート地点までをウォーミングアップにするといいですよ」とアドバイスをもらい、自転車で筑波山へ向かう。 本番は絶対1時間を切ってやる スタート地点からしばらく景色のよいストレートが続くが、カーブを曲がると突然クライムが始まる。なんというか、思っていたのと違う。具体的に言うと、八幡崎の坂より勾配がきつい。あ、帰りたいかも。 不動峠までのコーナーには、あと何回カーブが残っているかを教えてくれる立て看がある。コイツがメンタルをゴリゴリ削ってくる。ヨタヨタ走る私の横を、ランニングのおじいさんが追い越してゆく。不動峠でその名の通り動けなくなり座り込む。これは割とホントにまずい。 気を取り直して再び登るも、辛い、苦しい、以外何も考えられない。スカイラインに入ると爽快な下り坂が始まるが、下るということは、その分また登らねばならないということだ。勘弁してほしい。 なんとかゴールして、タイムは01:07:04。登りきりはしたが、途中で座り込んでしまった。コレって大会的にはOKなんだろうか。わからない。不安だ。 ということで、また毎晩の走り込みが始まった。特に練習したのがギアチェンジだ。重すぎるギアで踏めば当然脚を使うし、下りから登りに変わるところで軽いギアにしておかないと、とんでもなく失速する。毎晩、家の周りのカーブを曲がるたびにギアを変えた。 そして本番1週間前、再び本番コースへ。 前回脚をついた不動峠を気合で突破。ギアチェンジの練習も少しは効いたようで、そのまま一度も脚をつかずゴールできた。 タイムは01:00:34。あと34秒。 本番は絶対1時間を切ってやる、と意気込んで下山した。(言語研究者)

市議会の行政視察報告書を読む《水戸っぽの眼》16

【コラム・沼田誠】先月、福岡県議会の海外視察をめぐる報道が話題になった。現議員の任期が始まった2023年4月から2026年3月までの3年間で計23件実施され、総額約2億6496万円、1人当たり平均約135万円に上る費用であることが報道されている。 地方議会の行政視察とは、どのような根拠に基づくものなのか。委員会として行う視察は、地方自治法第100条第13項「議会は、議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会において必要があると認めるときは、会議規則の定めるところにより、議員を派遣することができる」という条文に基づく。 つまり、毎年必ず実施するものではなく、必要に応じて予算を通して実施するという、一般的なルールの上に成り立っているに過ぎない。このことを踏まえれば、費用や頻度以上に、調査研究する必要性が明確であるかどうか、つまり「目的が明確か」「何を持ち帰るかが意識されていたか」ということが、もっと問われるべきだと思う。 つくば市 9件中2件は合格 この視点で、つくば市議会と水戸市議会の視察がどうなっているのか調べてみた。つくば市議会は、委員会ごとの視察報告書が公式サイトで公開されていたので、2025年度の委員会視察報告書9件を読み比べてみた。 広報広聴委では、視察前から「2026年度に主権者教育の取組を実施できないか検討しており、その具体化に向けた参考とするため」という論点を持って臨み、視察先の3段階の難易度設定などを、評価軸ごと持ち帰っていた。また、総務文教委では、視察を受けて「決算審査分科会の集中審議事業に選定した」と、視察成果を議会の活動につなげることを報告書に明記している。9件中この2件は、目的と市民への還元が明確に表現されている。 しかし、他委員会の所感は、視察内容の説明のあと、「大変参考になりました」などの言葉で締めくくられ、市の具体的な行政課題との接続が明確ではないものもあった。とりわけ、議会運営委として改革の先進市を視察しながら、「引き続き積極的に議会改革を進める所存」という一般論で結ばれていたのは、腰が引けている印象を受けた。 水戸市 個別の報告書公開なし 水戸市議会はどうか。残念なことに、水戸市議会公式サイトでは、つくば市議会のように個別報告書の公開は見当たらなかった。これでは、行政視察が充実した内容だったとしても、広く一般に知らしめることはできない。まずは、その質を市民が問える状態をつくることに取り組むべきだろう。 筆者自身、水戸市職員時代に、地方議会の行政視察対応を行ったことがある。その際は、視察側の目的を踏まえて準備し、質疑も真摯(しんし)なものだった。しかし、議会によっては、先に行先が決まり、後付けでテーマが設定されるところもある、という噂(うわさ)も聞いたことがある。 行政視察は「旅行」ではない。何のために行き、何を持ち帰ったか―その費用を負担している市民がしっかり確かめる必要があるだろう。(元水戸市みとの魅力発信課長)

つまみのない酒が、いちばん危ない《看取り医者は見た!》55

【コラム・平野国美】「先生、おやじがボケました」。長男さんからその電話を受けたのは、真夏の午後だった。受話器を置いてから、私は1年前の冬を思い出していた。 佐藤さん(78歳、仮名)の奥さんを看取ったのは、あの家の奥の6畳間である。あのときの佐藤さんは実に立派だった。50年連れ添った妻の介護を、ほとんど1人でやり遂げた。最期の場面でも取り乱さなかった。私が頭を下げると、「先生、ありがとうございました」と、こちらが恐縮するほど深く礼を返された。この人なら大丈夫だ—そう思って、私はあの家を辞したのである。 あれから1年。何が起きたのか。異変はひと月ほどの間に現れたという。何度も同じことを聞く。足元がふらつく。昼間もウトウトしている。家族が認知症を疑ったのは無理もない。往診に伺うと、確かに会話がかみ合わなかった。記憶が抜けているというより、そもそも話に注意が向いていない。 「朝は普通なんです。夕方になると、急に人が変わって」。長男さんの一言が、私の頭の中で引っかかった。認知症なら、こうも短い時間で行ったり来たりはしない。 「お父さん、食事はどうされていますか」。長男さんが口ごもった。月に一度、家に来るのが精一杯で、わからないという。私は台所に上がらせてもらった。答えは冷蔵庫にあった。缶ビールが、ぎっしり詰まっていた。ほかには、ほとんど何も入っていない。あれほどきちょうめんに妻の食事を作っていた人の台所が、空だった。 枝豆、冷ややっこ、焼き鳥、乾き物 採血の結果、血液中のナトリウムが118。正常の下限を大きく割り込んでいた。「ビール多飲症」である。腎臓が余分な水を尿として捨てるには、塩分やたんぱく質といった「捨てる相手」が要る。ビールにはそれがほとんど含まれていない。食べずに飲み続ければ、水を出したくても出せない。血液が薄まり、脳がむくむ。それが物忘れとふらつきと眠気になって現れる。 ここで、ふと思い当たることがある。酒にはつまみがつきものだ。枝豆、冷ややっこ、焼き鳥、乾き物—どれも塩気とたんぱく質の塊である。あれは味を引き立てるためだけのものではなかった。腎臓に水を捨てさせるために必要なのだ。先人は理屈を知らぬまま、体でそれを知っていたのだろう。 危ないのは酒そのものより、つまみのない酒である。治し方も厄介だった。急いでナトリウムを戻せば、今度は脳の神経が傷む。あえて、ゆっくり治す。入院をお願いし、数日かけて緩やかに補正していただいた。退院後、佐藤さんは自分の言葉で私に話しかけてきた。「先生、ご迷惑をかけました」。あの日と同じ、律儀な人の姿だった。 「急にボケた」と聞いたら、私はまず採血をする。そして台所を見せてもらう。認知症という名前は、一度つくと簡単には外れない。だから、つける前に立ち止まる。佐藤さんが飲んでいたのは、多分、ビールではなかったのだと思う。妻のいない寂しさ。それを責めるわけにもいかない。(訪問診療医師)