今年5月、北条大池の入り口に新しいカフェが登場した。カフェとお食事の店「モンステラ」。いつの間にこんな店がと記憶を巡らせたら、店舗は以前、新聞販売店だった場所だ。
店内はテーブル席と窓際カウンター席のしつらえとなっているが、この広いスペースに所狭しと新聞紙が積み上げられ、仕分けされた新聞を配達する送り出しが深夜に行われていた。
「うちは北条を中心に3300軒ほどの新聞購読者に支えられていました。時代の趨勢(すうせい)で行く末に希望を持てなかったし、何より3人の息子のうち、経営者だった長男(植松新聞店社長の崇さん)に突然先立たれて、販売店をたたむことになったんです」
モンステラの代表、植松惠子さん(75)は、2020年に新聞販売店を閉じたが、2人の息子から励まされ、店舗を活用する考えを巡らせていった。
サイクリストが往来
店舗の所在地は、筑波山の不動峠にヒルクライムに駆け上がるサイクリストの往来がある。最初は彼らの休憩所に使ってもらおうと、店内に沢山の自動販売機を設置しようとしたが、これは実現しなかった。
「自販機設置は希望した機械を設置できなくて。それなら自分でやってしまえと。喫茶店の経験はなかったけれどコーヒー豆を吟味して飲み比べる趣味があったし、セイロンで紅茶を極めた人とも出会えて、美味しい紅茶の淹れ方や飲み方の会などを開けたらいいなと考えました」
植松さんは「人生のいたずらですね」と語る。カフェづくりを進めながら、地域特産の北條米でおにぎりをにぎって、コーヒーブレイクと食事のできる店にしようというアイデアが浮かぶ。
特産の北条米でおにぎり
この計画の相談に、旧知の仲の石浜孝子さんが助言と実際の手伝いを買って出た。石浜さんは、この手のお店なら強い味方になると、笠倉よし子さんを連れてきてくれた。
「『美味しいおにぎりの作り方を知っている』と石浜さんが鶏そぼろおにぎりを作ってくれて、試食してみたらとても美味しい。モンステラの看板おにぎりが出来上がりました」
おにぎりは店内でも食べられるセットを用意している。これにはコーヒーがつかないが、サンドイッチセットにはついてくる。コーヒーはスタンダードと、スペシャルティがある。スペシャルティの豆はあちこち訪ね歩いて探し当てた、同市大曽根にある「もっくん珈琲」まで購入に出かけていく。
厨房でのコーヒー準備は、まだなんとなく危なっかしい雰囲気も漂うが、コクのある上品な味わいをいただくことができる。
しかしやはり、おにぎり作りではおばちゃんたちの実績がものを言う。ガス釜を使って6合を炊き、その日の需要によって追加炊きをする。イベント注文などが殺到する日は、最大で9合を炊いたことがあるそうだ。炊くだけでも大変な9合を、その場でにぎるのだ。
「北条米は、炊いた後温度が下がっても風味や柔らかさの変化が少ないんですよ。梅干しは私の手製です」
仲間とまだまだ現役
店舗は金曜日から日曜日までの日中に限定した開店。平日はフロアそのものを小会議やミーティング行事などに貸し出している。「モンステラ」とはサトイモ科の多年草で、一般的には観葉植物のことだ。亡くなった崇さんの誕生花にあたるという。花言葉は「うれしい便り・壮大な計画」。
「私たち3人とも同い年で、いわゆる団塊の世代です。高齢の身ですから縁側でお茶飲みも良いけれど、まだまだ現役で働いているのも悪くない。毎日が楽しいと言ってくれる仲間がいるので頑張れます」
植松さんの朗らかさと石浜さん、笠倉さんのコンビネーションが、モンステラ独特のあたたかいムードを醸成する。田舎の実家に帰省するような気分に浸ってもらえればと、おばちゃんたちはにこにこしながらコーヒーを淹れ、おにぎりをにぎり続ける。(鴨志田隆之)
続く