【ノベル・伊東葎花】
秋晴れの日曜日。
バラの花とハートの風船で飾られた、素敵なウエディングパーティ。
新郎新婦はとびきりの笑顔で、世界で一番幸せそう。
職場の先輩は、宣言通り30歳の誕生日前に結婚式を挙げた。
白いドレスがまぶしくて、思わずうっとりしてしまう。
フィナーレは、独身女性が目の色を変えて挑むブーケトス。
私は居並ぶアラサーたちを押しのけて、最前列を陣取った。
そして若さと得意の運動神経で、ブーケをこの手にキャッチした。
「はっ? 何でいちばん若いあんたが取るのよ」
先輩たちの冷たい視線を感じながら、私はブーケを空に掲げた。
「次は私の番だー」
ごめんね、先輩方。
若くても、私は焦っているんです。
結婚したいんです。できれば春までに。
2次会を断って、大好きな卓也が待つ家に帰る。
今日こそ、結婚の話をちゃんとしよう。
「ただいま、卓也」
ちらかった部屋でゲームをしていた卓也がちらりと私を見た。
「おかえり。きれいな花だね」
「ブーケトスでね、私のところにブーケが飛んできたの。すごいでしょ。これって運命よ」
「ふうん。よかったね」
「花嫁さんからブーケを受け取るとね、次に結婚できるのよ」
「ふうん。そうなんだ」
卓也は、たいして興味がなさそうに言った。
彼は、ブーケよりも引き出物のケーキに興味があるみたい。
私は卓也のためにケーキを切り分けて、となりに座った。
「ねえ、卓也。10月ももう終わりだね」
残り少ないカレンダーを眺めながら言ってみた。
「11月22日って、いい夫婦の日なんだって」
「へえ」
「いい夫婦って、何だろうね」
「知らないよ。オレに聞くなよ」
「そうだよね」
「ねえ卓也。私が、結婚したいって言ったらどうする?」
「結婚? 誰と?」
「誰って…それは…」
「うん。別にいいよ。結婚したかったらしなよ」
「いいの? だって、卓也、私と結婚したいって言ってたじゃない」
「いつの話だよ。それ、2年くらい前でしょ。オレ、もう違うから」
「そうか。そうだよね。うん。わかった」
私は、一抹の寂しさを感じながら、卓也をそっと抱きしめた。
「卓也、春までに、絶対ステキなパパを見つけるからね」
「うん。オレ、一緒にサッカーしてくれるイケメンのパパがいい」
口の端にクリームをつけた卓也が、元気いっぱいに笑った。
17歳で子供を産んで、ひとりで育てて来た。
卓也は6歳。生意気だけど可愛いの。
卓也が小学校に上がるまでに、収入が安定したパパを見つけなきゃ。
ねっ、卓也。ママ、頑張るね。(作家)