金曜日, 8月 29, 2025
ホームコラム文部科学大臣へ送った手紙 《電動車いすから見た景色》35

文部科学大臣へ送った手紙 《電動車いすから見た景色》35

【コラム・川端舞】9月9日、国連が日本政府に分離教育の中止を勧告したのを受けて、永岡桂子文部科学大臣が13日の記者会見で、「障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に過ごす条件整備と、一人ひとりの教育的ニーズに応じた学びの場の整備を両輪として取り組む」などとし、「多様な学びの場における特別支援教育の中止は考えていない」と発言した。

これに対し、どうしても永岡大臣に直接お伝えしたいことがあり、お手紙をお送りした。その手紙を要約したものを、2回に分けて紹介する。

「共に過ごす」と「多様な学びの場」は両立しない

私は障害がありながら、小学校から高校まで普通学校の普通学級に通った。小中学校の頃、私はずっと普通学級で過ごしていたが、同じ学校には特別支援学級があり、知的障害のある同級生は学校にいるほとんどの時間を他の同級生とは違う教室で過ごしていた。その様子を見て、当時の私は「自分は勉強ができるから、支援学級にいるあの子たちとは違うのだ」と自分にも障害があるくせに、知的障害のある同級生を見下していた。

学校行事の時は、支援学級の生徒も他の同級生と一緒に参加していたが、いつもほとんど同じ教室にいない同級生を「仲間」だと思えるはずがない。支援学級の生徒とどう話したらいいのかさえ、私を含めた普通学級の生徒は分からず、お客様扱いするしかなかった。

私も支援学級の生徒とほとんど接点はなかったと思っていた。しかし、大人になってから小学校の卒業アルバムを見返すと、修学旅行でその同級生と一緒に班行動をしている写真を見つけ、「同じクラスで、修学旅行の班も一緒だったのか」と驚くとともに、その同級生と話した記憶が一切ない自分にショックを受けた。

障害のある子どもとない子どもが共に過ごすための条件整備と、特別支援学校、特別支援学級などの「多様な学びの場」は両立しない。もし、小中学校時代、支援学級がなく、知的障害のある生徒も、本人が「静かな部屋で休憩したり、自分のペースで勉強したい」と思った時以外は、普通学級で過ごすのが当たり前の環境だったら、他の同級生も彼らを仲間として受け入れることができただろう。

国連も、特定の機能障害に対応するために設計された別の環境で、障害のない生徒から切り離されて行われる教育は「分離」だとして、「インクルージョン」(※編集部注)とは明確に区別している。日本の特別支援学校や特別支援学級は明らかに「分離教育」であり、現在の分離教育を前提とした特別支援教育は見直すべきである。(障害当事者)

【※編集部注】インクルージョン(inclusion)
一般的な日本語訳では「包括、包含」。対語は「エクスクルージョン(exclusion)」で「排除、隔離」といった意味になる。教育分野では「インクルーシブ教育」という言葉で使われ、特に、障害のある子どもたちが通常学級で健常児と共に学ぶ状態をいう。国連の公式文書によると、インクルーシブ教育には、すべての生徒に最適な学習環境を提供するために、通常学級の教育内容や組織体制を変更する過程が含まれる。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

元職同士の一騎打ちか あす告示 県議補選つくば市区

知事選と同日の9月7日投開票で行われる県議補選があす29日、告示される。つくば市区(欠員1)には、いずれも元職で自民党公認の塚本一也氏(60)と、共産党公認の山中たい子氏(73)が立候補を表明しており、元職同士の一騎打ちになりそうだ。同市区の有権者数は20万538人(6月2日現在)。 橋渡し担いつくば市をけん引 塚本氏 塚本氏は「つくば市を力強くけん引する県政を」をスローガンに掲げる。「県が主導し仲介することで、国や世界的な企業を誘致できる。県とつくばの橋渡しの役目を担う」とし、①国や県との連携を重視する中でつくばの成長産業の育成②TX沿線ナンバー1の教育環境の実現③高齢者、障がい者、育児家庭が暮らしやすい社会の構築など7つの政策を掲げる。 これまで自身の政策を記したリーフレットを市内全域に2度ポスティングなどで配布し、市内各所でのあいさつや街頭演説、SNSや動画共有サイトへのメッセージ動画配信を重ねる。「堂々と論陣を張り、有権者の判断を仰ぎたい」と語る。出陣式は30日午後2時から同市小野崎のホテル東雲で、支持者を集めて開催する。 政治変え切実な声が届く県政に 山中氏 山中氏は「県議会にこれ以上自民党の議席を増やしても県民の暮らし向上にはつながらない。共産県議の議席復活こそ県政への厳しいチェックにつながる」などと訴え、「自民党政治を変えて願いかなういばらきに」をスローガンに掲げる。①国保・介護・後期高齢者医療保険料引き下げ②県立高校新設・クラス増設➂学校給食無償化・地場産品活用のほか、東海第2原発の廃炉などを訴える。 これまで市内70カ所以上で街頭演説をしてきたほか、知事選に無所属で立候補している田中重博氏のつくば市での街頭演説や個人演説会でもあいさつする。29日は午前10時からつくば駅前で第一声、同日午後4時30分から同党の岩渕友参院議員と大清水公園前で街頭演説をする。

「つくば市1市が水戸・日立エリアに匹敵、改善を」 2038年の中学卒業見込数

市民団体が高校審議会に要望書 2027年度以降の県立高校の統合や学科の再編など高校教育改革の方向性を検討する「県高校審議会」(委員長・笹島律夫常陽銀行会長)が7月29日にスタートしたのを受けて、つくば市やTX沿線に県立高校の学級増や新設を求めている市民団体「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」(片岡英明代表)は26日、同審議会の笹島委員長と同専門部会の中村麻子部会長(茨城大副学長)などに、つくばエリアの子供増に見合った県立高校の学級増の答申を出すなど改善を行うよう求める要望書を出した。 同審議会は県教育委員長(柳橋常喜委員長)の諮問機関で、2027年度以降の県立高校の適正配置や適正規模、学校や学科の魅力づくりなどについて審議する。今年12月に答申を出す予定で、県教育委員会は答申に基づいて2027~33年度の次期県立高校改革プランを策定する。 人口増加が続くつくば市やTX沿線地域の生徒数の見通しについて、県教育庁が7月29日に同審議会に示したエリア別中学校卒業者見込み数によると、2038年3月の中学卒業者見込みは、県全体では1万7826人と今年3月の2万5192人より7366人(29%)減少するのに対し、つくば市の2038年3月の中学卒業見込み数は3392人と、すでに県立高校不足が問題になっている今年3月の2652人よりさらに740人(28%)増える。今後も児童生徒数の増加が続くつくば市1市のみの2038年の3392人は、今後児童生徒数が減少する「県北臨海エリア」(日立市など3市)と「水戸近郊エリア」(水戸市など4市)の2038年3月の中学卒業見込み数を合わせた3429人に匹敵すると推計されている。 考える会の片岡代表は「県が高校審議会に出した資料で、2038年のつくば市1市の中学卒業見込み者数が、水戸近郊エリア(水戸市など)と県北臨海エリ(日立市など)の卒業見込み者数の合計に匹敵することが推計されている。水戸と日立の2つのエリアには全日制の県立高校が合わせて18校103学級ある。これまで改善してこなかったツケが、県の資料からも明らかになっている」と指摘し、つくばエリアの県立高校を県平均水準に改善することなどを改めて要望した。 26日要望書を受け取った、県教育庁高校教育改革推進室の片見徳太郎室長は「要望書はお預かりしたので、きちんと委員長と専門部会会長、専門部会の委員の方々にお渡ししたい」と述べるにとどまった。(鈴木宏子) ➡県高校審議会に出された児童生徒数の推計資料はこちら

阿見町に残る旧軍の掩体壕《日本一の湖のほとりにある街の話》34

【コラム・若田部哲】阿見町の、陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地前を横切る県道203号線から、少しそれた道沿い。通りを進んでいると、不思議な存在感を放つコンクリートの量塊(りょうかい)がチラと視界の隅に入ります。これは、戦時中に軍用機を隠すためのシェルターとして、各地の基地周辺に建造された「掩体壕(えんたいごう)」という戦争遺跡。 戦時中、霞ケ浦周辺には阿見町だけでも21基の壕が存在していたそうですが、現在では鹿嶋市の「桜花公園」のほか、阿見町のこの1基のみとなっています。今回は、町指定文化財ともなっているこの「霞ケ浦海軍航空隊有蓋(ゆうがい)掩体壕」について、同町生涯学習課の鯉沼さんにご案内いただきました。 終戦後、民間に払い下げられた壕は、そのほとんどが終戦後の鉄不足を背景として、中の鉄筋を取り出すために解体されたと言います。間近で見る壕は、軍事施設だけあって、すでに建造から80年以上を経ているにもかかわらず、重厚そのもの。一部露出している鉄筋を見ると、今日の住宅などに使用されるものより明らかに太く、なるほど、1基から取り出せる鉄筋の量は相当なものでしょう。 一時はピアノ練習教室に利用 今残っているこの壕の最初の所有者である山本さん(仮名)は、内部を人が住めるように整え、住まいとして大切に扱ったのだそうです。その後、家族の変遷とともに用途は移り変わり、ある時は物置に、またある時はピアノ教室として用いられたこともあったのだとか。 山本さんは、掩体壕を「家の歴史そのもの」として強い愛着を持っており、保存に熱心に取り組まれました。その熱意は、当地の戦時中の歴史を伝えるものとして実を結び、町の文化財の指定を受けることとなったのだそうです。 現在、再び倉庫として使用されている壕の前には、まぶしい日差しをうけ、夏野菜が青々とした葉を茂らせていました。終戦の日を思わせるような青い夏空の下、戦争の中をたくましく生き抜いてきた市井の人々の歴史に、静かに思いをはせる取材となりました。(土浦市職員) <注> 本コラムは「周長」日本一の湖、霞ケ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。今回の史跡は民地内にあるため、一般の見学はできません。 <参考> これまで紹介した場所はこちら

8月の平和事業 水戸、土浦、つくばを比較【水戸っぽの眼】4

【コラム・沼田誠】かつて水戸市役所で平和事業を担当していたことがあります。当時は、水戸空襲など戦争を体験した語り部と若者をつなげる「ぴ〜すプロジェクト」、平和作文コンクール、折り鶴プロジェクトを組み合わせた小中学生平和大使の広島派遣、さらに平和記念館を拠点とした展示・資料保存を三本柱に据えた、市民参加型の事業を展開していました。現在も、基本的にはこの枠組みで続いています。 しかし、担当していた際、「平和事業が8月の定番行事になってしまっていて、参加者が受け身になっていないか」「高齢化する語り部に依存し続けてよいのか」という疑問を抱いていました。参考になる事例を調べる中で、アウシュビッツでは現在ガイドに直接の体験者はいないこと、唯一の日本人ガイドを務める中谷剛さんが、過去の悲劇を現代社会に引き寄せて考えるべき、と主張されていることを知り、こうした企画ができないか、上司とも議論していました。 その後転職してしまったので、私の手でこのような企画を実現することはできませんでした。しかし、少しずつ平和をどう伝え、主体的に考えていくのか、ということについて、水戸市役所内で議論が進んでいることを感じています。8月26日に戦場カメラマンの渡部陽一さんの講演が水戸で企画されているのはその一例でしょう。 隣接する土浦市でも、市民団体が主導する「原爆と人間展」や講演会を行政と協力して展開し、若い世代を巻き込んでいると聞きます。土浦市立博物館が発行する「戦争の記憶マップ」も手元にありますが、戦争について学ぶ教材としてとても優れていると思います。 つくばは規模も内容も控えめ では、つくば市の平和への取り組みはどうでしょうか。 五十嵐市長は8月15日のFacebookで「今日8月15日は平和の尊さをあらためて心に刻む日です」と訴え、市内中学生を「青少年ピースフォーラム」へ派遣していることを紹介しながら、「核武装が安上がり」といった議論を批判し、「歴史に学び、未来への責任をもって共有」すべき、と強調されています。 その姿勢は、戦災の有無を超えて平和であることを軽視しないという強い意思を示していると思います。 一方、つくば市として行う平和事業は、青少年ピースフォーラムの派遣やパネル展にとどまり、水戸市や土浦市と比べ、規模も内容も控えめに映ります。これは、地域の中で戦争中に直接大きな被害を受けなかった、という歴史的事情が影響しているのかもしれません。しかし、同時に、「科学のまち」として多様な外国人が暮らし、国際的な課題と接点を持つ都市だからこそ、慰霊や回顧にとどまらない、独自の立ち位置での平和に向けての発信ができるのではないでしょうか。 つくば市の可能性のひとつとして、五十嵐市長の発信が単なる追悼の言葉に終わらず、未来志向の取り組みへと発展していくことを期待したいと思います。(元水戸市みとの魅力発信課長)