ライフネット生命保険(本社・東京都千代田区)が6日、つくば市の中学校12校、義務教育学校4校、不登校支援拠点3カ所に、LGBTQ(エル・ジー・ビー・ティー・キュー)関連の児童書を寄贈した。つくば市役所での贈呈式で、五十嵐立青市長は「どのクラスにも当事者の生徒がいる可能性がある。これからこの問題により本質的に向き合い、生徒たちのSOSに気づける学校にしていきたい」と語った。
LGBTQは、レズビアン(Lesbian)、ゲイ(Gay)、バイセクシュアル(Bisexual)の3つの性的指向と、トランスジェンダー(Transgender)という性自認、クエスチョニング(Questioning)またはクイア(Queer)という性的指向と性自認の両方に関わる各単語の頭文字を組み合わせた表現。ライフネット生命はいち早く、この人権擁護の動きに歩調を合わせた事業に取り組んでいる。
特に性的マイノリティーの当事者は、思春期の頃から社会的ストレスを受けやすいとされることから、同社では2016年からLGBTQ関連の児童書を全国の学校などに寄贈する活動を行っている。LGBTQ関連イベントにフォトブースを出展し、写真撮影をした来場者1人あたり100円を積み立て、寄贈資金とする「レインボーフォトプロジェクト」だ。
茨城県では19年7月から、性的マイノリティーのカップルがパートナーシップ関係であることを宣誓する「いばらきパートナーシップ宣誓制度」を開始。つくば市でも市営住宅の入居申し込みを、同制度を利用した同性カップルからも受け付けている。
ライフネット生命の森亮介社長は、「つくば市はLGBTQ関連の取り組みを本格的に開始していると同時に、ファミリー層が多く、今後、教育の需要がより高まる地域。児童書を寄贈することで、大人も子どもも自分らしく生きることのできる社会を実現できたら」と話す。
教員の理解も深まる本
今回つくば市に寄贈されたのは『パワポ LGBTQをはじめとするセクシュアルマイノリティ授業』(少年写真新聞社)など3冊19セット。森田充教育長によると、寄贈された本は今後、主に各学校の図書室や保健室に置く予定だ。「今まで、学校ではLGBTQについては人権教育の1つとして扱ってきたが、今後は扱い方をもっと大きくしていきたい。そのために、現在は教員の理解を深める研修を行い、生徒の生きづらさに寄り添える教員を育てている。寄贈いただいた本により、生徒だけではなく、教員の理解も深められるだろう」という。
当事者探しにつながる懸念
自身がゲイであることを公表し、LGBTQの支援活動を行っている飛鳥斗亜さん(21)は、NEWSつくばの取材に応じ、「LGBTQ当事者は決して特別な存在ではなく、どこにでも当たり前にいる。LGBTQ関連の本が置いてあることで、そこにいる当事者の心の支えになる可能性がある」と話す。
学校などにLGBTQ関連の図書が置かれることで、当事者の児童生徒にとって逆効果になる場合もある。「大々的に本を設置してしまうと、学校の中で『当事者探し』などのいじめにつながってしまう可能性もある」と本の扱い方次第で悪影響となる懸念も払しょくできない。「学校内にさりげなく本を設置し、その本を目にして、何かを感じてくれる生徒が1人でもいればいいのでは。そして、本について生徒から質問された時に養護教諭等が対応できることが望ましいだろう」と飛鳥さん。
こうした懸念に対し、五十嵐市長は「ただ本を学校に置くだけではなく、LGBTQに対する理解を学校全体でしていき、『誰が当事者なのか』を考えるのではなく、多様な学校はどのような場なのかをみんなで考えていくきっかけにしていきたい。新型コロナの感染拡大初期の頃は、学校で感染者探しのようなことがあったが、『それはよくないことだ』と教員が伝え、子ども自身も考えたことで、同様のことはなくなった。そのようなことができるのが教育現場だろう」と答えた。(川端舞)