作物を栽培する環境を再現できる人工気象室「栽培環境エミュレーター」に、ロボット計測装置を導入した「ロボティクス人工気象室」が農研機構(つくば市観音台)で運用を開始し、2日報道陣に公開された。スーパーコンピューター「紫峰」と連動した研究基盤として開発され、気候変動に伴う高温多湿などの環境において、収穫時期、収量、品質など作物の性能がどう変化するか、精密な推定を可能にする。
研究室内に野外の環境を人工的に模擬することを「エミュレート」という。作物の栽培環境を精密に再現できる「栽培環境エミュレーター」の開発は2019年度から始まり、農業情報研究センターの研究室に、内寸で幅172センチ×奥行き172センチ×高さ185センチのボックスが4基設置された。高機能タイプ2基、標準タイプ2基があり、温度は高機能では5度Cから35度C、標準では15度Cから32度Cの間で制御する。
湿度や二酸化炭素濃度のほか、LED光源により光量や紫外域を含む波長の調整もできるようになっている。風水害の再現はできないが、干ばつなど世界各国で顕著になっている気候変動の動態を、きめ細かなデータ制御によって再現する。
このエミュレーター内に置かれるのが、作物の大きさや色などの形質を連続で取得できる「ロボット計測装置」。水やりや液肥の循環装置などを備え、複数のカメラで作物を連続撮影する装置だ。2種の装置を組み合わせることで、人工気象室を開閉することなく、時間を追って取得された画像とセンシング情報を解析し、作物形質を連続的に計測できるという。
気候変動に伴う作物生産の不安定化に対して、作物の性能(収穫時期、収量、品質等)を明らかにする農業技術が求められている。これまで、これらの技術開発は野外での栽培試験を前提としていたが、主要な作物の多くは年に一度しか栽培試験ができない。様々な栽培環境に作物が反応し、形質を変化させる作物環境応答を明らかにするためには多くの場所と長い時間が必要だった。
栽培環境エミュレーターではイチゴや葉物野菜などのほか、コメやコムギ、ダイズなどの穀物の栽培も想定しているが、コメの場合だと1年に3回の作付け~収穫ができるといい、野外環境に比べ格段に早く、多くのデータを集めることができる。
スパコンとも連動する研究基盤
「ロボティクス人工気象室」は、農研機構のもつスーパーコンピューター「紫峰」とネットワーク接続している。高速ネットワークを介し、解析プラットフォームへリアルタイムで転送することにより、得られた作物環境応答データを利用した深層学習(AI解析)による形質解析ができる。イチゴ苗の連続撮影から、着果を見分け、その生育具合や大きさなどが日照時間とどう関連づけられるかなどを、AIが解析する。
さらに、「農研機構統合DB」に含まれる病害虫、気象、遺伝資源、ゲノム情報など、様々な農業データを用いた複合的な解析が可能となり、外部機関の施設等からもこれらの解析を遠隔で行える。民間企業、大学、公設試験研究機関、JA、産地等の外部機関からもこれらの解析を遠隔で行うことができるため、外部機関との共同研究のための基盤として利用できるということだ。(相澤冬樹)