研究機関向けの電子顕微鏡や計測機器では世界有数の日本電子(JEOL)。その会長兼取締役会議長、栗原権右衛門さんの自宅は土浦市の旧村部にある。お盆休みに時間を取ってもらい、同社の製品や土浦・つくば地区との関わりについて聞いた。築170年の古民家(当主は代々権右衛門を名乗る)は栗林などで囲まれ、涼しい風が通る。
JEOLは一般向けの商品を作っている会社ではないので、どんな会社なのかあまり知られていない。しかし、国や民間の研究機関には必須の理科学・計測機器を製造していることもあり、研究者で知らない人はいない。代表的なものは高性能の電子顕微鏡だが、最近は高度な半導体製造装置も手掛け、この分野では世界トップクラス。
ノーベル賞学者にも解析装置を納入
最新の電子顕微鏡としては、タンパク質などの生体試料を凍らせたまま観察できる『クライオ(CRYO)顕微鏡』がある。その機能などは、本サイトの「創薬研究に産学拠点 筑波大 クライオ電子顕微鏡お披露目」(3月16日掲載)に詳しい。筑波大、東京大、大阪大、東北大、九州大などの有力大学のほか、国の主要な研究機関で使われている。気になる価格だが、1セット数億円するという。
「JEOLの看板は電子顕微鏡だが、営業担当の駆け出しのころ、私は有機化学構造を解析する『核磁気共鳴装置(NMR)』を売っていた。ノーベル賞をもらった野依良治先生(2001年化学賞)や大村智先生(2015年生物学賞)にも購入いただいた」「野依先生がある会合で『日本の化学が世界の上位にあるのは、日本には優れたNMRメーカーがあるからだ』と言われたときは、うれしかった。その会社はJEOLを指すからだ」
学園都市・筑波支店の重要度は高い
JEOLは国内に9支店、海外に23オフィスを配している。筑波支店(つくば市東新井)の場所は「とんかつとんQつくば本店」の東隣。「私も4年ほど支店長として研究機関営業をやった。営業活動と機器保守のため、今は30人ほどの所帯。取扱高は9支店の真ん中ぐらいだが、レベルの高い研究者とのお付き合いもあり、支店としての重要度は高い」
権右衛門さんが土浦生まれということもあり、JEOLは地域の学校に電子顕微鏡を持ち込み、生徒に使ってもらっている。本サイトの「電子顕微鏡でミクロの世界を体験 土浦一高で科学実験講座」(2021年12月4日掲載)で紹介した理科支援は、土浦一高では3回目。土浦市内の都和小学校や中村小学校でも体験教室を開いた。
ちなみに、理科支援用の『走査電子顕微鏡』でも1000万円ぐらいするというから、小中高が理科教室に常備するのは難しい。
今の稼ぎ頭は高度な半導体製造装置
JOELの製品案内冊子には、計測機器、産業機器、医療機器が記載されているが、今一番の稼ぎ頭は、産業機器の一つ、半導体製造装置。「半導体はシリコンウェハーに回路を焼き付けて作る。そのネガフィルムに当たるものを製造する『電子ビーム描画装置』では世界市場をほぼ独占している。九州・熊本に工場を建設中のTSMC(台湾積体電路製造)、米国のインテル、韓国のサムソンから、矢の催促を受けている」
ロジックIC(論理素子)製造にはこの装置が必要で、経済安全保障の観点からも注目されている。「政府も気になるらしく、関係省庁や与党の関係議員から、いろいろ声が掛かる」という。
【くりはら・ごんえもん】1948年、土浦市小山崎生まれ。土浦一高、明治大商学部各卒。1971年、日本電子(本社・東京都昭島市)入社。筑波支店長などを経て、2008~2019年、社長。2019年~2022年6月、会長兼最高経営責任者。現在は会長兼取締役会議長。自宅は「ペリー来航の前年に焼け、建て直した」という生家。蔵にあった小田家15代・氏治の150回忌(1750年ごろ)文書には権右衛門の名がある。
【インタビュー後記】権右衛門さんが面白いのは、技術出身でなく営業出身であること。現役のころ、自動車、航空機・武器、造船・海洋機器などの産業を担当したが、トップは一様に技術者の出身。ある高名な社長に「もっと勉強してから来い」と怒られたことも。このインタビューは話がわかりやすくて助かった。(経済ジャーナリスト・坂本栄)