「ここはスーパーシティの中で、グリーンフィードという、ある意味まっさらにしてそこから新しい街を立ち上げていく実証実験の場所」ー。来年度以降、売りに出されるつくば駅近くの国家公務員宿舎跡地、吾妻2丁目の通称70(ななまる)街区(約6ヘクタール)について五十嵐立青市長は、今年4月開かれた市民説明会で参加者の質問に答え、こう説明した。
グリーンフィールは、ブラウンフィールドと並ぶ、スーパーシティの用語。グリーンフィールドはこれから新たに街をつくるまっさらな土地、ブラウンフィールドは既存の市街地などすでに建物が建っている土地をいう。グリーンフィールドにはまだ住民が住んでない。スーパーシティでは、これから新たにグリーンフィールドに入居する住民に、例えば行動履歴や購買履歴などのデータを事業者に提供したり活用することなどを入居の条件にすることにより、街全体をデジタル化できることがメリットとされている。
ドローン、自動運転車行き交う
吾妻70街区では、どのような街の姿が描かれているのか。4月の市民説明会で五十嵐市長は「市としてまだイメージ図を描いているわけではない。いろんな企業からさまざまな提案をいただいたが、詳細は企業の皆さんからまだ言わないようにと、そういう制約もあったりする」とした上で、近未来の姿をこう話す。
「70街区には住宅地もないと民間企業が参入できないので、例えばマンションや商業施設、イノベーション拠点、クリニックなどがあって、マンションに住む方は、商業施設のものはスマホで注文ができ、敷地内ならドローンでベランダまで運んでくれるというようなサービスや、このエリアの中は完全自動運転でモビリティが動いて、移動が不自由な方でも自動運転で移動していけるというようなサービスをできるだけ詰め込んでいく。例えば、健康状況とか心拍なども提供すると自分に合った食事メニューが届くなども。そういうことを複合的にやる場所にしたい。事業の採算性もあるので、その辺含めて詰めていきたい」。
1年前の2021年5月に開催された国のスーパーシティ国家戦略特区ワーキンググループのヒヤリングでも五十嵐市長は70街区について「このグリーンフィールドに入居する住民は、原則としてサービスに参加する。ショッピングエリア等も考えているが、すべてマイナンバーカード等で様々なサービス提供を受けられるようにする。当然お店にもすべてキャッシュレス対応をしてもらい、現金は扱わないでもらう。あらゆるサービスをドローンで運んでいくということもあったり、医療のサービス等も考えられる。最初から住民側にかなり高い要求というか、期待値をもっていただいて、本当にゼロからつくり上げていくような場所にしていく。そこで成功事例をつくって、市内の他のフィールドに広げていくような役割分担もしたい」と説明している。同じヒヤリングで森祐介市政策イノベーション部長(当時)は「金融機関がこの開発に強い関心というか、やる気をもっており、単なる出資とか、融資の枠組みを超えて、自ら不動産業を営むような形で運営していきたいということまでおっしゃっていただいている」とも述べる。
来年度にも売り出し
吾妻70街区については、9割の5.4ヘクタールを所有する財務省関東財務局と、残りの0.6ヘクタールを所有するつくば市が共同で昨年、民間事業者を対象にサウンディング型市場調査を実施した(21年10月26日付)。結果は、建設業者や不動産業者など7事業者からマンション、戸建て住宅、商業施設などの提案があった。つくば市が掲げるイノベーション拠点の誘導に対しては「理念より現状を正確に把握した上で市民にニーズのあるものを整備することが最優先」「行政の補助が必要」などの意見が出され、市場のニーズと市の方針に乖離(かいり)があった(22年3月22日付)。
市は今年4月と5月に市民説明会と意見募集を実施。それらを踏まえて国と協議調整し、今年度中に活用方針を検討したり、必要に応じて都市計画の変更を行う。今後については「一つのスケジュールとして来年度、二段階入札で売却をして」いくと五十嵐市長は市民説明会で述べている。
実際、どのような街になるのかは、現時点でまだ決まっていない。市スマートシティ推進課は「70街区の開発事業者は今後、土地所有者である財務省が公募で選定していく」「今後、開発事業者と相談しながら、スーパーシティで検討している先端的サービスをどのように導入できるのか相談していく」としている。
一方、市民の意向はどうか。市が今年4月下旬から5月末まで実施した意見募集には47人が回答した。市が掲げるスーパーシティの構想に賛成する意見はわずかで、「マンション開発に歯止めをかけてほしい」「緑を残してほしい」などの声が目立った。県立高校、スポーツ施設、子供の数が急増している学校施設の充実など公共施設のほか、商業施設の誘致を求める意見もあった。「駅前の一等地をスタートアップ企業やリノベーション事業の誘致に用いても、その利点が還元されるのは関係者のみで、市民にとっては何の価値もない」など厳しい意見あった。(鈴木宏子)