つくば市が今年5月、聴覚障害者等を対象に、タブレット端末などのビデオ通話を利用した遠隔手話サービスを開始した。自宅や外出先で、聴覚障害者と聞こえる人が同じ場にいるときに、市役所本庁舎にいる手話通訳者にビデオ通話をつなぎ、通訳を受けることができる。
1回15分以内と時間制限はあるが、事前予約は不要だ。市内在住で意思疎通に手話を使用する聴覚障害者が対象。
障害者と家族、支援者などからなる市民団体「障害×提案=もうちょい住みよいつくばの会」(斉藤新吾さん主宰)が2020年の市長選と市議選の立候補者に、公開質問状の形で提案していた。昨年10月にはつくば市聾(ろう)者協会から要望書も出されていた。
窓口センターで手続き済むように
市聾者協会の事務局長で、「住みよいつくばの会」のメンバーでもある有田幸子さん(60)は聴覚障害があり、日常的なコミュニケーションは手話で行う。
市役所本庁舎には手話通訳者が配置されているが、市内6カ所の各窓口センターには配置されていない。各窓口センターでは筆談で対応してもらえるが、得られる情報量は手話通訳よりも少なくなってしまう。詳しい説明を受けながら各種申請をするためには、本庁舎に行くのが当たり前だと有田さんは思っていた。
しかし、数年前、その状況を「住みよいつくばの会」の仲間に話したところ、「わざわざ本庁舎に行かずに、電話できないの?」と言われ、当時、全国で遠隔手話サービスを導入する自治体が増えていたのを思い出し、選挙時に提案することになった。
2020年の選挙後、市議会でも遠隔手話サービスの導入について一般質問が複数回されたが、当時、福祉部長の答弁は「2021年から国が実施する電話リレーサービスの周知に努める」ことに終始した。しかし、電話リレーサービスは聴覚障害者と聞こえる人が離れた場所から電話するときに、オペレーターが手話・文字と音声を通訳するものであり、聴覚障害者と聞こえる人が同じ場にいるときには利用できない。
議会を傍聴し、遠隔手話サービスと電話リレーサービスの違いが理解されていないと感じた有田さんは、聾者協会として定期的に複数の議員と面会する際に、遠隔手話通訳の必要性を説明し、理解を得ていった。
何気ないやり取りも楽しみたい
窓口センターにも新たにタブレット端末が設置され、事前登録せずに、ビデオ通話で本庁舎の手話通訳者から通訳を受けながら各種申請が可能になった。それ以外の場所で聴覚障害者本人のスマートフォンやタブレット端末から手話通訳を受ける場合は事前に登録が必要。市障害者地域支援室によると、6月10日時点で、利用登録したのが7人、実際の利用はまだないという。
「今後、自宅での急な来客時や、お店で商品の説明を聞いたり、値引きの交渉をする時に利用したい。筆談でのコミュニケーションではどうしても用件のみになってしまい、『お元気ですか』などの何気ない会話は難しい。生活するために必要なコミュニケーションを手話でとりつつ、筆談では省略されてしまう何気ないやり取りも楽しみたい」と有田さんは期待する。(川端舞)
◆「住みよいつくばの会」は、オンライン報告会「市民の提案で市政が動いた!『障害×提案=もうちょい住みよいつくばの会』中間報告会2022」を29日(水)午前10時から正午まで開催する。遠隔手話サービスのほか、20年の選挙時に提案し、今年度の新規事業としてスタートした「重度障害者ICカード乗車券運賃助成制度」と「重度障害者等就労支援特別事業」について、市民の提案からどのように市政が動いたのか、広く市民と共有する。参加申し込みは27日まで。申込方法はこちら。