【コラム・古家晴美】つくば市における様々な菜園の在り方について触れてきたが、今回はそれを脇で支える方から話をうかがった。32年間続けた教員を5年前に早期退職し、農家へと転身された、つくば市在住のジミーさんこと、柳下浩一朗(60)さんだ。長年、多くの子どもたちと接してきたジミーさんが野菜作りを通して目指すのは、子どもに「豊かな体験と素晴らしい出会い」を持ってもらうことだと言う。
その第一歩として、つくば市が募集する農産物オーナー制度の参加農園として手を挙げた。パパイヤとサツマイモの11回の農業体験やイベントを開催。その中で、より興味を持った参加者に貸し農園(菜園)への参加を呼び掛けた。オーナー制に応募した40組120名のうち、6組の家族が現在、フカフカの土に緑が映える菜園で様々な野菜を栽培している。
来年度から有料で本格始動する予定だが、本年度はお試しということで、無料で20平方メートルの菜園を貸し出している。
運営側として、様々な心遣いをしている。菜園へ自動車でやってくる利用者は多い。地元の農家の方の通行に迷惑がかからぬよう、菜園の路肩に防草シートを張ってパーキングスペースを確保した。車を菜園の脇に横付けできるという利点もある。また、自宅からホースで水を引き、菜園の近くで利用できるように工夫した。トイレは仮設を2セット用意したが、利用者が少ないことから、現在は菜園から徒歩1~2分の自宅トイレを開放している。
その他、スコップや鍬(くわ)、マルチシートも無料貸与している。ジミーさんの後ろに付いて畑の中に足を踏み入れると、ホロッと崩れるケーキの上を歩いているような感触だった。3年間、パパイヤを栽培した跡地だそうで、この土なら何を作ってもうまくいく、とのこと。
畑は作り手の個性が出る
「畑は作り手の個性が出る」とよく言われるが、菜園を見ていてそうかもしれない、と感じる。雑草がたくましく生い茂り、作物名を書いた腰高の竿(さお)を目印に、ようやく野菜の存在を確認できる畑。整然と畝が並び、しっかりとかぶせたマルチの苗を植え込む穴が几帳面(きちょうめん)に正円に切り取られている畑。
子どもの手書きと思われるネームプレートとカラフルな風車が立てかけられた畑。まだ、6区画だけだが、様々な畑がある。しかし、ジミーさんはそれがよいのだという。それぞれの個性が出ているから菜園は面白い。
オーナー制で、土や虫、カエルを見たことも触れたこともなかった子どもたちが、数回の農業体験で、みるみる間に成長する。さらに自分の菜園を持つことにより、土との関わり、野菜づくりの体験を深掘りする機会ができる。野菜づくりへの道をゆっくり一歩ずつ前進している。(筑波学院大学教授)