木曜日, 10月 6, 2022
ホーム コラム 桜と日本人 《邑から日本を見る》110

桜と日本人 《邑から日本を見る》110

【コラム・先﨑千尋】

ねがはくは花のもとにて春死なん その如月のもちづきのころ(西行法師)

世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし(在原業平)

私は、桜の花が咲くとこの2首が頭に浮かぶ。これだけではなく、桜を詠み込んだ歌は無数にある。桜に関する本を見ると、平安時代の頃から日本人は桜に浮かれていたようだ。「桜の樹の下には屍体が埋まってゐる!」という梶井基次郎の小説の一文も刺激的な表現だ。

桜は不思議な花だ。1週間前には枯れ木同然の木のつぼみが急にふくらみ、魔法使いの手にかかったように、木全体が無数の花びらでぱっと覆われてしまう。咲いたと思ったら、10日もたたずに散ってしまう。 

桜の咲く春は、寒い冬から暖かい新たな季節の幕開け。出逢い、別れ、入学、進級、就職、退職など、人の一生で忘れがたい出来事のある季節だ。うす紅色の淡い美しさ、柔らかく小さな花弁、散り際の見事さ。桜は、美しさに感動する繊細な日本人の感性にぴったり合う。

このことが桜と日本人の素晴らしい関係をはぐくんできた。桜は私たちのこころの中にも花を咲かせてくれる。桜に狂う人がいて、桜信仰が生まれるゆえんであろう。

花見は大勢でにぎやかに

桜の語源にはいろいろ説があるようだ。民俗学では、「サ」はサオトメ(早乙女)、サツキ(五月)、サナエ(早苗)といったように、すべて稲霊を表す、とされている。「クラ」はイワクラ(磐座)、タカミクラ(高御座)のように神霊が依り鎮まる座の意味があるという。

わが国では、桜の花の咲くのを見て稲の種もみをまき、桜の咲き具合を見て、その年の豊凶を占うなど、農作業の目安としてきた。私も、田んぼの周りにあるヤマザクラを見ながら田植えの準備をするが、とても気持ちがいい。

平安時代に貴族の楽しみ、遊びとして始まった花見は、江戸時代には庶民の楽しみとなった。落語「長屋の花見」ではないが、花見は大勢でにぎやかになるものなのだ。八代将軍徳川吉宗が飛鳥山、品川、隅田川などに桜を植えたのは、健全な娯楽の場をつくるためだったという。

日本桜名所百選 静峰公園

桜前線が海を渡って北海道に上陸したというニュースが流れた。5月下旬には根室近辺に達する。私の近くの静峰公園は日本桜名所百選に選ばれており、ネットで検索した「お花見桜名所ランキング」では茨城県で第1位。現在、カンザン、ショウゲツ、フゲンゾウなど2000本の八重桜が満開になっている。

先週の日曜日、17日に、静峰公園の水上ステージで3年ぶりにイベントが開かれた。地元出身のエレキ琵琶、尺八の奏者が登場し、おはやし、太鼓、吹奏楽などがにぎやかに演奏され、最後はよさこいソーランの饗宴。夜は25日まで八重桜がライトアップされる。

30年前には、2キロ離れた国道118号から車が数珠つなぎ。桜を見ないで帰った人も多かったが、今はそれほどでもない。この日、私は公園内を一回りし、イベントを楽しみ、桜の木の下で農協女性部の手づくり弁当を広げる。近くでは、いくつかのグループがわいわい楽しんでいる。桜を愛で、つかの間のいのちの洗濯をした。(元瓜連町長)

1コメント

誹謗中傷するコメントはNEWSつくば編集局が削除します。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー

注目の記事

最近のコメント

最新記事

文章を磨き上げる速記者の腕 つくば 竹島由美子さん【ひと】

つくば市松代の竹島由美子さん(74)は51年にわたり、速記者という仕事に一筋に向き合ってきた。現在は都内の速記事務所から委託を受け、自宅に届く講演会やインタビューの録音をパソコンで文字に起こす仕事を続けている。現場に出向く仕事はほとんどなくなり、速記の符号に出番はないが、培った技術を生かし仕事に磨きをかけている。 速記は、簡単な線や点でできた符号などを使って、人が話す言葉をその場ですぐさま書きとり、それを解読して文章に書き直すまでの作業を指す。 竹島さんは「符号の出番がなくなってきたことは寂しいが、技術の進歩に助けられて仕事を続けてこられた」と話す。コロナ禍で仕事がキャンセルになったことがあったが、仕事が物心両面で支えになっているという。時代とともに新たな言葉が生まれたり、流行したりする。これからも毎日2紙の全国紙に目を通して話題や言葉にアンテナを張り、レベルアップを図っていきたいという。 アナログ録音機で独学 東京生まれ。中学生の頃から作文や感想文を書くのが好きで、子ども向けの雑誌に載っていた「速記文字を使えば人の話が書ける」という速記専門学校の宣伝文句にひかれたのが始まり。当時は速記学校の募集広告が多く見られ、「就職したら速記を勉強しよう」と決めたという。 高校卒業後、比較的休みの多い学校の事務職員なら速記を勉強するのに都合が良いと考え、明治大学の採用試験を受けて職員に採用された。

素人になり切れない世界の片隅で 《ことばのおはなし》50

【コラム・山口絹記】ファインダー視野率、ダイナミックレンジ、開放描写、色収差。これらの単語、何の用語かわかるだろうか。 カメラとそのレンズに関するマニアックな専門用語である。あえてマニアックと書いたのは、こんな用語知らなくても写真は撮れるからだ。あえて言い切ってしまおうか。こんな用語知らなくていい。知らなくていい、のだけど、知らないでいる、ただそれだけのことが、私たちの生きるこの世界では、もはや難しくなってしまった。 例えばカメラが欲しいと思った時、まず何をするだろう。身近に写真をやっている知り合いがいなければ、きっとおすすめのカメラを見つけるためにネットで検索をするだろう。 おびただしい数のおすすめカメラが提示され、使用するレンズの大切さを一から教示してくれるはずだ。ついでにプロレベルの撮影技術から、あらゆる専門用語にまみれたレビュー情報を摂取できる。これらの知識を雑誌や専門書で手に入れようとしたら、なかなかの金額がかかるはずだ。しかし、ネットで閲覧している限り、全部無料である。ああ素晴らしい新世界。 とはいえ、ある程度の前提知識があればありがたい情報も、これから何かを始めようとしている者には過度な情報の激流に違いない。無料でいくらでも情報が手に入るこの世界線で手に入らないモノ。それは情報に対する適切なフィルターなのだ。 「いちいちうるせぇな」「これでいいのだ」

孤立し苦境に立つプーチン大統領 《雑記録》40

【コラム・瀧田薫】ウクライナ軍が、9月中旬以降反転攻勢に出て、ロシア軍に占領された北東部の要衝を奪還しつつある。これに対し、プーチン大統領は、9月21日のロシア国内向けテレビ演説で、予備役に対する部分的動員令(30万人の徴兵)を発動すると宣言し、さらにウクライナ東部や南部のロシア軍占領地域において住民投票を実施し、その上でロシア領に併合する意向を示した。 この演説で特に注目されるのは、新しくロシア領(クリミア半島を含む)となった地域をウクライナ軍が奪還しようとすれば、「あらゆる手段でこれに対抗する」としたことである。この「あらゆる手段」とは、具体的には何を指しているのだろうか。ラブロフ外相が国連総会の一般演説で、ロシアに編入される地域を防衛するために核兵器を使用する可能性を示唆していることと重ね合わせれば、狙いの一つは「核兵器の使用」であり、もう一つは「ウクライナに対する宣戦布告」であろう。 プーチン大統領は、これまでロシア国民を報道管制下に置き、ウクライナ侵攻が国民生活とは遠い世界の出来事であるかのように伝えてきた。しかし、今回の演説のなりふり構わぬ内容は、ウクライナ侵攻当初の楽観が根底から崩れ、ロシア軍が苦戦している事実をプーチン大統領自らが告白したに等しい。 当然、国民一般の受けたショックは大きく、ロシア国内の複数の都市で市民による反戦デモが発生し、徴兵を恐れる市民やその家族が飛行機や車を利用してロシア国外に脱出し始めているとの情報も伝わってきている。当面、この混乱が政権の土台を揺さぶるほどに拡大することはないだろう。また、ロシア軍によるクーデターが起きる可能性もさほど大きなものではないだろう。 独裁者の妄想という不条理 しかし、ウクライナ侵攻の大義、すなわちロシアの過去の栄光を取り戻し、大国としてのパワーを維持し続けるための軍事力行使は、はっきり裏目に出たというのが軍事専門家大方の見方である。それでも、プーチン大統領は侵攻をやめないし、やめられない。

耳かき一杯の大量作製に成功 つくばの研究室生まれのナノ粒子

脱炭素社会に向け注目を集める熱電材料に、つくばの研究室生まれの技術が名乗りを上げている。GCEインスティチュート(本社・東京都中央区 、後藤博史社長)は3日、開発中の「合金ナノ粒子」の大量作製に成功と発表した。新エネルギー開発はじめ、電子部品や触媒などに活用をめざす企業への提供に本格的に乗り出す。 熱電材料は、熱から電気に直接エネルギーを変換する発電デバイス。熱電変換には温度差を利用するのが一般的だが、GCEが特許化した技術は、温熱源さえあれば(温度差を用意できなくとも)発電が可能という新しい原理のテクノロジーだ。 同社は2016年創業のつくば発ベンチャー。つくば研究支援センター(つくば市千現)の創業プラザに研究室を置いて、「合金ナノ粒子」の開発を進めてきた。ナノ(十億分の一)メートルサイズの粒子を熱電子の伝搬に利用する。 熱電材料から医療応用にも 研究室では、溶液に溶けた金属前駆体(金属塩)をレーザー照射により還元し、金属ナノ粒子を作製する。複数種類の金属前駆体が存在する場合に「合金ナノ粒子」となる。金、銀、銅、パラジウム、イリジウム、白金などの金属ナノ粒子が作られ、それらを混ぜ合わせた合金ナノ粒子が作製された。