フランス・トゥールーズで開催の国際ナノカーレースで、日本から参戦の物質・材料研究機構(NIMS、つくば市並木)のチームが優勝した。ナノメートル(10億分の1メートル)サイズの分子マシンを24時間走らせて競うレースは、日本時間で24日から25日にかけて行われ、同チームのナノカー「Slider-Spider(スライダー・スパイダー)」は1054ナノメートルを走り、ターン数でトップ(同数)だったスペインチームと優勝を分け合った。
参戦したのは同機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA)副拠点長の中山知信さんをチームディレクターとするNIMS-MANAチーム。第2回大会の今回は、開催国のフランスをはじめ世界6カ国から計8チームが参加した(3月15日付)。
参加チームのドライバーはフランス国立科学研究センターに集結し、会場に設置されたコンピューター端末を操作しナノカーを走らすが、マシンはそれぞれの所属先に設置の走査型トンネル顕微鏡(STM)の内に置かれる。NIMS-MANAチームからはドライバーの川井茂樹さんらが現地入りしたが、中山さんらはつくばでSTMの様子を見守りながら、現地から送られるライブ映像をネット放送する実況の解説を行った。
「Slider-Spider」は全長約2.5ナノメートルの分子マシン。レースの前半で分子の一部が壊れるというトラブルに見舞われるが、前半終了時点でトップに立った。中山さんは「一歩一歩は小さいがコツコツと緻密な動作を繰り返すドライバーのテクニックで距離を稼いだ」と解説した。
日本時間の25日正午過ぎ、福島県沖で地震があり、デリケートなSTM上のコースに影響がないか心配されたが、川井さんはフランス側のモニター越しに地震を察知、難を逃れるというシーンもあった。
25日午後7時のレース終了時、「Slider-Spider」は参加8チーム中、唯一マイクロメートル(100万分の1メートル)レベルに到達する1054ナノメートルを走り切った。ジクザクした概ね100ナノメートルのコースを4周半する軌跡をたどった。
文句なしの優勝と思われたが、主催者発表では678ナノメートルだったスペインのNANOHISPA(ナノヒスパ)チームと同率の1位となった。ナノカーで重要とされるターン数(ジクザクに曲がる回数)でもNIMS-MANAチームと同数の54。スペインチームの広く大きく取ったコース取りが評価されたという見方が示された。
これにはネット放送の視聴者から疑問が多数上がった。レース終了時点で累計3万8000人もが視聴したが、「そんなの聞いてないルールが出てきた」「芸術点みたいな採点があったのか」などといぶかる声だ。
解説の中山さんは「前回は1ナノメートルでリタイヤしたのだから、マシン1台で走り切って1000ナノ超えは上出来。まさに何が起こるか分からない24時間レースだった」と会心の笑みを浮かべた。(相澤冬樹)