障害者団体「つくば自立生活センターほにゃら」(つくば市天久保)は、障害児向けのプログラム「ほにゃらキッズ」を再始動する。障害児がヘルパーを使いながら、様々な経験をすることで、将来の自立について考えていく。「自立とは、多くのものに頼りながら、自分らしい生活をすること」と語る、ほにゃら代表の川島映利奈さん(39)と介助スタッフの松岡功二さん(53)に話を聞いた。
ヘルパーという1対1の支援
ほにゃらキッズは2003年から始まり、電動車いすの子どもや、言葉によるコミュニケーションが難しい子どもなど、様々な障害のある子どもが参加してきた。このプログラムに特定のカリキュラムはない。今、目の前の子どもにとってどんな経験が必要なのかを、障害者スタッフ、ヘルパー、子ども本人と保護者が話し合って決めていく。電車で出かける計画を障害児自身が立て、ヘルパーと2人で実際に出かけてみたこともある。「カリキュラムがない分、子どもひとりひとりに合わせて試行錯誤しながら、その子なりの成長を支援できる」と松岡さん。
障害児支援は放課後等デイサービスなど、特定の場所で事前に決まったカリキュラムを行うことが多いが、ほにゃらキッズでは、障害児のヘルパー利用を勧めている。ヘルパーは障害児と1対1で関わり、子どものペースに合わせることができる。その日にどこに行き、何をするという決まりもない。ヘルパーと一緒に出かけたが、途中で行き先を変更することも、その子どもの自由だ。
どこに行くか、どうやって遊ぶかなど、日常生活は選択の連続で、ひとつひとつの選択がその子どもらしい生活を作っていく。しかし障害児は、自信のなさや、手伝ってくれる大人への遠慮から、自分で選ぶ経験をしづらい場合が多い。例えば店で欲しい飲み物を選ぶ時も、自分の気持ちを伝えるのに時間がかかり、本人が選ぶ前に、周囲が決めてしまうこともある。すると、障害児はいつまでも自分の好き嫌いが分からない。
一方、ヘルパーと一緒に飲み物を買いに行くと、障害児が欲しいものを選べるまで、ヘルパーは急かすことなく、待っている。自分で選んだものが必ず自分の好きな味とは限らないが、その経験により、自分の好き嫌いを理解できる。「自分の選択がうまくいかなかった時にどうするかまで一緒に考えることで、将来、より良い選択ができるようになる。小さな選択を繰り返していくことで、自分らしい生活が見えてくる。これを全て家族で支援しようとすると大変だ。障害児と1対1で関わるヘルパーだからできることがあるはず」と川島さん。
大人になってからも関われる
障害者が障害児支援に関わるのも、ほにゃらキッズの特徴だ。障害ゆえの悩み事を、同じような経験をしてきた障害のある大人に相談できる。ヘルパーを利用しながら一人暮らしをしている障害者スタッフの家を障害児が見学したこともある。障害者が継続的に関わることで、障害児や保護者が将来の見通しを持て、参加した障害児の中から高校卒業後、ヘルパーを利用し、一人暮らしを始める人も出てきている。
ほにゃらでは障害者も支援しているため、子どもの頃から関わってきたヘルパーが、一人暮らし始めたあとも関わり続けることができる。松岡さんは「子どもの頃から関われたほうが、ヘルパーもその子のことを深く知ることができ、大人になったあともその人の生活を支えていく心の準備ができる」という。
以前ほにゃらキッズに参加していた障害児は全員高校を卒業し、ここ数年、プログラムは事実上休止していた。しかし、「ほにゃらキッズの活動により、実際に何人かの障害者が一人暮らしを始められ、この活動は障害児の自立につながると確信できた」という松岡さんらは、プログラムの再開に踏み切った。現在、ほにゃらキッズに参加する障害児を募集している。主な対象は、つくば市周辺に住む6歳から18歳までの障害児とその保護者となる。
「障害児者の介助は常に家族がすべきだと思われがちだが、障害のない人でも多くのものに頼って生活している。歩けるけどエレベーターを使ったり、料理はできるけど総菜を買ってきたり。障害児者やその家族も福祉サービスや福祉機器に頼っていいのだ」(川島さん)
再始動を記念し、21日に講演会
ほにゃらキッズの再始動を記念し、21日にはオンライン講演会を開催する。沖縄県在住の重度知的障害のある高校生、仲村伊織君のお母さんと結んで、子どもの頃からヘルパーを利用する良さを考える。伊織君は、通学時や休日は家族から離れ、ヘルパーと一緒に過ごしている。川島さんは「つくば市周辺で障害児を育てる親御さんに、ヘルパーなど周囲から支援を受けながら子育てする方法を提案できれば」と話している。(川端舞)
●オンライン講演会「障害児の“ママ”に聞く!周囲に任せることで子どもは育つ」 21日(月)午前10時から正午。定員50人。申し込みは14日までにこちらから。
●ほにゃらキッズの問い合わせはホームページから。