災害などで電源を失った場所でも、高精度の感染症検査を可能にするシステムを開発中の筑波大学(つくば市天王台)が、同市のPCR検査会場で実証実験を行った。17日までの3日間、市独自のPCR検査が行われた会場に水素燃料電池バスを持ち込み、装置の稼働状況、検査から通知までの所要時間を調べるなどした。
検査会場の市役所本庁舎駐車場に持ちこまれたのは、トヨタ自動車の燃料電池バス「SORA(ソラ)」をベースに車内を改装した車体(11月18日付)。医学医療系感染症内科学の鈴木広道教授、システム情報系の鈴木健嗣教授らが、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムにより開発している。車内にはPCR検査に使う全自動の遺伝子解析装置や核酸抽出装置などが設置されている。今回大学と市が協力し、PCR検査希望者の協力を得て実証実験を行った。
つくば市では新型コロナ感染拡大の第6波に備え、10月から無症状の市民や市内在勤・在学者を対象にPCR検査を行っている。15日は45人、16日には54人が実験への協力に同意した。受付で検査キットを受け取り、検体として唾液を採取。キットは「SORA」の車内に持ち込まれて検査された。検査結果はQRコードを読み込み、識別情報を入力するとメールで通知されるシステムを想定しており、16日までの集計では、受付から検査結果が返ってくるまで最短48分、中央値は53分だったという。
鈴木広道教授は「いつでもどんな場所でも同じ質の検査を提供できることを目指す。現場によって状況や人の流れも異なるため、不具合が起きないかどうかを検証している。少しでも早く検査結果が分かるよう検査受付から結果通知まで常に60分を切ることが目標」と話す。検査自体の時間はこれ以上短縮することが難しいため、今後は通知システムの改良を重ねていく考えだ。
年を越し足を延ばす実証実験
17日には市の公用車である水素燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」を「SORA」にケーブルでつなぎ、電力を供給した。車内で行うPCR検査に必要な電気は「SORA」だけでまかなえるが、「MIRAI」をつないで電力供給することによりさらに遠隔地に出向くことが可能になるそう。
来年1月からは狭い場所を行き来できるマイクロバスの検査車も導入し、大型バスと2台で県央や県北、鹿行地域に赴いての実証実験を予定している。2月から3月には大学内外のイベントで無料のPCR検査を行い、社会実装に向けて調整を続けていく。
緊急時、災害時の感染症対策は地域の課題解決につながるとして、市は今後も筑波大に実証実験の場の提供を行っていく予定だという。(田中めぐみ)