【コラム・浅井和幸】先日、多様な専門家や地方公共団体の福祉部署の方が集まるネット会合で、講演する機会をいただきました。NPO法人「アストリンク」の代表として、不登校・ひきこもり・ニート問題への対応をお伝えしました。
会合では、悩んで部屋にこもっている方との話を始めるきっかけについて話しました。それは、ケースによって、単純に家を訪問するということもあるし、何年も訪問した後にちょっとした声掛けがきっかけになることもあります。
言葉にすると当たり前なのですが、誰にでも、どのような関係でも、パッと話ができる万能のきっかけづくりはありません。どのようなことでもきっかけになり得るし、必要なのはきっかけとなり得る要素がそろうことです。
そうはいっても、ノウハウが知りたいですよね。私はそれを「ノウハウ」ではなく、「小手先のテクニック」「やり方の具体例」「カタログ」―と表現します。例えば、手紙を書く、飲み物をメモと一緒に置く、ドア越しに話をする、ノックの仕方や声の大きさを変える―など。これらの方法は、小手先のテクニックと軽視できません。
そのうえで、言葉などがどのように届いたか、反応をよく見て、対応することが大切です。つまり、コミュニケーションを大切にすることで、近づきやすくなると考えています。
小刻みに一歩を進む
話ができない人と話せるきっかけというけれど、それは、山登りでいえば、頂上に着く最後の一歩を教えてほしいという意味と同じで、最後の一歩の話よりも、そこにたどり着くまでの一歩一歩が必要であると伝えました。
私の講演の後、グループに分かれ、普段の活動や私の話の振り返りが行われました。そして、各グループから、どのような話が出たか発表がありました。その一つに、「きっかけ」とか「話をする」ということは最初の一歩だと思っていたけれど、山登りの最後の一歩だということに驚いたという意見がありました。
この感想に、私も衝撃を受けましたし、勉強になりました。なかなかできない「きっかけ」づくりが、はじめの一歩と捉えられやすいのです。はじめの一歩が大きすぎるなぁと私は感じます。「スモールステップ」は福祉や医療でよく使われる言葉で、参加者が皆知っている言葉だと思います。目標を小さく分け、達成しやすい一歩ずつを達成していくという考え方です。
話をすることが難しいのならば、やっぱり大きすぎる一歩です。小刻みに一歩を進む必要があるでしょう。そして、話せるようになるという山を登ることができたのであれば、さらに別の山、高い山に、小さな最初の一歩を刻むことの繰り返しが必要でしょう。(精神保健福祉士)