【コラム・坂本栄】元市議を名誉毀損で提訴している五十嵐つくば市長が、今度は6人の市民から住民訴訟を起こされ、五十嵐さんは2つの裁判を抱えることになりました。名誉毀損の方は原告、住民訴訟の方は被告と立ち位置は違いますが、両裁判に気を取られて市長本来の仕事がお留守にならないか心配です。
センタービル再生:監査請求→住民訴訟
市が進める「つくばセンタービル再生事業」はいい加減なものだから、すでに支出したおカネは返してもらい、それがダメなら市長が自腹を切れ、これから手をつける設計・工事はすべてストップせよ―と、五十嵐市政の目玉事業に「NO」を突きつけた住民訴訟は、8月上旬、水戸地裁に提起されました。詳しい内容は、記事「つくば市長らに7000万円返還請求 6人が住民訴訟」(8月6日掲載)をご覧ください。
この訴訟は、原告を含む市民グループがセンタービル再生事業の問題点を列挙、市の監査委に監査請求をしたところ、問題なしと棄却されたことから、それでは裁判で白黒をつけようという、市民たちの次の一手です。監査委の結論で引かず、問題点を究極の第三者である司法の判断に委ねるアクションといえます。
監査請求が棄却されたこと、その理由に対する疑問については、コラム「五十嵐つくば市政 揺らぐその原点」(8月2日掲載)でも取り上げ、この再生事業は大規模事業(総経費10億円以上)であるにもかかわらず、五十嵐さんが自ら定めた事業評価(市要綱に規定)をしなかったのは、五十嵐市政の原点(広く意見を聴き事業を推進)を自ら否定するものではないかと指摘しました。
原告団は提訴理由として、上記の要綱軽視のほか、以下の4点を挙げています。①再生事業を担う第3セクター(まちづくり会社)設立の際の評価作業が不十分であり、総務省の指針に反する、②公の場所(センタービル)に民間賃貸会社(まちづくり会社)を置くのも総務省の指針に反する、③基本設計を担当した会社への発注が随意契約になっており、市の入札規則に反する、④センター広場にエスカレーターを設けるのは、広場の文化的価値を壊すだけでなく、著名な設計者の著作権を侵す―と。
問題ありの理由を5つも並べられ、市はどう対応するのでしょうか。再生事業(総経費10億3800万円)は裁判が終わるまで棚上げにする? これまでの経緯を反省して評価作業を立ち上げる? リスク(敗訴に伴うもろもろ)覚悟で再生事業を計画通り進める?
市長の名誉毀損裁判:原告→被告?
もう一つの裁判(水戸地裁土浦支部)については、コラム「名誉毀損提訴、取り下げ?」(7月19日掲載)で、五十嵐さんは取り下げるのではないかとの見方が出ていると書いた後、事情通から「そういった動きがあることは確か」と耳打ちされました。一方で、ミニ新聞に掲載された記事の多くは虚偽だと訴えられた元市議(発行人)は、「うそつき」呼ばわりされて名誉を毀損されたと、逆提訴も考えているそうです。
ということは、五十嵐さんは原告と被告の2裁判ではなく、被告と被告の2裁判を抱える可能性もあります。「言論の自由」封じにつながる名誉毀損提訴(あるいは逆提訴?)。市が進める再生事業に異を唱える住民訴訟。両裁判は五十嵐さんの器を問うシーンになりそうです。(経済ジャーナリスト)
<メモ> 監査委員:市長から独立した執行機関。主に市の財務を監査。市民の監査請求にも対応。現在の委員は、高橋博之さん(識見を有する人)、石川寛さん(同)、神谷大蔵さん(市議・前議長)の3人。