木曜日, 7月 7, 2022
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養老孟司先生の講演を聴く《令和楽学ラボ》14

【コラム・川上美智子】つくばのホテルグランド東雲で、東京大学名誉教授の養老孟司先生の講演を聴く機会がありました。養老先生は20数年前の現役時代に東大医学部の学生に解剖学実験を指導されていて、当時受講生だった娘が時々その様子を話してくれました。ホルマリンの臭いが充満する教室で、学生たちが人体解剖をしている傍らで、椅子に座ってじっと本を読んでおられたようです。

学生たちも大変ですが、先生にとっても厳しい時間なのではないかと、当時、思ったりしました。たとえ仕事であったとしても、医学の継承のため、若い学生を育てるため、人体を捧げる運命に至った人に最後まで傍らで寄り添い、畏敬の念を抱きつつも送り出さなければならない先生の気持ちを、本が和らげてくれていたのではと思います。

講演で先生は、「生老病死(しょうろうびょうし)」という言葉を黒板に書かれ、これが人の自然の姿だと言われました。最近、宗教学者の山折哲雄も、人生終焉に向かうテーマとして同名の本を出版しています。生老病死とは、人の人生には「生まれること、老いること、病むこと、死ぬこと」の四つの苦しみがあり、これを避けて通れないという仏教語(お釈迦様の言葉)だそうです。

つまり、人が生きること自体が思い通りにならない苦しいことであると、仏教は教えています。先生は、演題「今、私たちは何をすべきか」の中で、そうだからこそ、「生(しょう)」のスタート部分の子ども時代には、生きることの楽しさ、社会の明るさを教えてほしいと訴えました。

子ども時代の一定期間、田舎で過ごすのがよい

先生は今、理想の保育園を目指し、保育園の理事長の職に就いていらっしゃるとのこと。毎日、孫や曾孫のような子どもたちと、虫取り、魚獲りで自然に触れ、子どもたちを幸福にしたい、子どもたちに幸せな生活を送らせたい、という思いで過ごされているそうです。

子ども時代は人生にとって最も大事な時期であるのに、子どもたちに大人が真面に相手をしなくなったと話されました。大人は本来の子どもの育ちの目的を忘れ、(動物の親と対照的に)国がつくった教育のシステム維持に夢中になっている、ひたすら務めればよいわけではない、また、近代化の行き過ぎで子どもの育つ環境が自然から離れてしまった―と、嘆かれました。

子ども時代の一定期間、田舎で過ごすのも健康の上でよいことだと、茨城っ子にとってうれしい話もありました。

AI(人口知能)が道具になり、human enhancement(人間拡張)の方向で体の一部とするよい使い方もあるが、果たしてコンピューターが出す解答はすべて正しいか、コロナ予防のためにワクチンの形で細胞に遺伝子を導入することの可否など、この先やってみなければ答えが分からない時代に我々がいる―との警鐘もあり、示唆に満ちた講演でした。

「生老病死」を自分事として捉える年代になった私自身も、大学で教鞭(きょうべん)を執った後、最後にできるお役目として、つくばで保育園の園長をしていますが、先生の深い洞察力と、「子どもは自分で何も言えない」という言葉が胸に刺さりました。(みらいのもり保育園園長、茨城キリスト教大学名誉教授)

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