日本の探査機「はやぶさ2」が採取した小惑星「リュウグウ」のサンプル分析が25日までに、つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)の実験施設で始まった。東北大学の中村智樹教授がリーダーを務める「石の物質分析チーム」が同日、記者会見し、実験の模様を生中継した。
はやぶさ2の採取サンプル容器が回収されたのは2020年12月。その後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙研(神奈川県相模原市)で試料の計量や分類などが行われ、6月から1年間は、6チームからなる初期分析チームの研究に委ねられることになった。全国や海外から選抜された専門の異なる鉱物・有機物・化学分野の各2チームからなり、それぞれ独立に水の起源解明や化学分析などを行う。
小惑星リュウグウから採取され、地球に持ち帰ったサンプルの総量は約5.4グラム。このうち直径1ミリ以上の大きさの粒を「石」と呼び、分析に当たる「石の物質分析チーム」が編成された。国内57人、海外を含め総勢108人のチームが物質分析を行う。
KEK物質構造科学研究所の放射光実験施設「フォトンファクトリー(PF)」では、量子ビームが2つの手法で分析に用いられる。ひとつは、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星イトカワの分析でも使われた精密X線回折。もう一つは、軟X線によるX線顕微鏡STXMだ。PFでは比較的エネルギー強度の低いビームを扱えるため、炭素など軽元素の分析に有効という。
表面・内部を分析し、組成や化学状態などをとらえる。特に含水鉱物に着目し、リュウグウの形成過程をモデル化することなどを目的としている。初期段階の分析を「上流」と呼ぶが、上流で量子ビームを用いると微量の試料を非破壊で分析でき、下流の分析に影響を与えないのが利点。希少な試料を有効に活用する方策となっている。
地球大気に触れぬよう厳重に封印されたサンプルが、JAXAから中村教授の元に届いたのは6月1日。0.1ミリの微粒子をグローブボックス内で厚さ5ミクロンほどに切り分けたサンプルを大量につくり、KEKに持ち込んだ。X線回析実験用の試料だけで約50個になるという。
PFでは、これらを1試料ごとに角度を変えてX線撮影する。25日の生中継では、実験室で大気遮断したグローブボックス内で取り出し、窒素重点の撮影機材に入れ、X線回折装置にセットして真空化するまでの手順を公開した。
中村教授は「毎日のように石の表情に向き合っていると、一つひとつに色つやの違いなど感じる。それらの直観が分析でどう表現されるか大変楽しみにしている」という。
物質構造科学研究所は東海村にあるJ-PARCで物質・生命科学実験施設(MLF)を運用しており、今回初めて負ミュオンによる元素分析も行う。こちらは27日にスタートの予定だ。
リュウグウのような小惑星は、約47億年前の太陽系にあった物質の痕跡を残している。過去に地球に降り注いで地球上に水や有機物をもたらしたのではないかとも考えられている。初期分析チームそれぞれの分析結果を総合することで、地球に生命が誕生した謎の解明に近づく期待がもたれている。(相澤冬樹)