障害がある学生に対し大学などが実施している修学支援の効果について、筑波大学(つくば市天王台)人間系の佐々木銀河准教授らは2019年から20年にかけて全国調査を実施した。研究報告書によれば、大学などの教職員ではなく、障害のある学生本人を対象にした全国調査が行われたのは初めてという。
昨年から全国に広まったオンライン授業の影響も合わせて調査された。障害の種類や本人の特性によっては、オンライン授業になることで障害学生が受講しやすくなることが分かった。今後、オンラインでの受講を障害学生への新しい合理的配慮として利用できる可能性が示唆された。
配慮が不要な場合も
調査は、全国の大学・短期大学・高等専門学校に在籍し、学生支援を受けている障害学生431人にアンケートを実施した。調査の結果、オンライン授業では障害学生が特別な配慮を受けなくても、他の学生と同じように受講できる場合があることが明らかになった。
対面授業の場合、聴覚障害学生に音声情報を文字起こしする必要があったり、視覚障害学生が紙の資料を読み上げソフトで読むために、教員から個別に資料をパソコンデータでもらう必要がある。オンライン授業になることで、利用者に応じて自動音声認識による字幕表示ができたり、すべての学生に資料がパソコンデータで送られてきたりするため、障害学生が特別な配慮を求める必要はなくなる。
「障害により体調が悪い時でも自分の家から授業に参加できる」「発達障害により周囲の音に過敏に反応してしまうため、教室で受講するよりオンラインの方が集中できる」など、障害特性のためにオンライン授業の方が受講しやすいという意見もあった。
一方、「対面授業で教員と直接会った方が障害のことを理解してもらえ、配慮を受けやすい」「自動音声認識で字幕を表示すると、専門用語などを誤変換しやすく、理解が難しい」「発達障害により時間の管理が難しく、対面授業の方が課題の締め切りを把握しやすい」など、障害特性のために対面授業の方が受講しやすいという意見もあった。
コロナ禍の現在、筑波大では障害の有無に関わらず、感染予防の観点からオンライン授業が基本だ。コロナが収束すれば対面授業に戻るとみられるが、オンライン授業の方が受講しやすい障害学生もいることから、「障害の有無にかかわらず、参加しやすい授業を大学が作るために、障害学生にオンラインでの受講を認めることも合理的配慮の新しい選択肢の一つになるのではないか」と研究代表である佐々木准教授は話す。
しかし、大学によっては対面授業に戻りつつあり、障害学生であってもオンライン授業を認めないところも出てきているという。
学生の声聞き検討
オンラインでの受講を障害学生への合理的配慮として認めるには課題もある。文部科学省の大学設置基準で、大学の教育課程でオンライン授業が認められるのは60単位までと決まっている。現在は特例としてすべての授業をオンラインで受けても卒業できるようになっているが、コロナ後は以前の規定に戻る可能性がある。障害学生への合理的配慮としてオンライン授業を認める場合、どのように単位として認めていくか、筑波大でも検討している。
佐々木准教授は「大学での支援を障害学生自身がどう感じているかに焦点を当てた調査はまだ少ないため、今後も継続して調査したい」と話し、どのような場合に、オンライン授業を配慮として受けることが合理的だと考えられるかを検討している。障害学生の声を聞きながら柔軟に対応を検討したいとしている。
自分に必要な配慮模索する期間必要
【取材後記】合理的配慮とは、障害者が障害のない人と同等の社会生活を営むために、環境や慣行、制度などを変えること。コロナ後に、障害のない学生は対面授業に戻る一方で、授業中の配慮が少なくて済むという理由で、障害学生だけオンライン授業を受けるのは、障害のない学生と同等の学生生活を営むことになるだろうか。
合理的配慮は基本的に障害者本人からの申し出により始められるが、大学入学当初から自分に必要な配慮を分かっている障害学生だけではない。授業を受け始め、教員や他の学生と相談しながら、自分に合った配慮が分かってくる障害学生もいる。自分に必要な配慮を周囲の人と話し合う期間も、大学卒業後、社会の中で自ら必要な配慮を求めていく準備として必要なことだろう。入学当初から配慮としてオンラインで授業を受けた場合、障害学生自身が自分に合う配慮を模索する機会が減る可能性はないか。
一方、佐々木准教授も指摘しているが、障害による体調不良時など、オンラインでしか授業を受けられない場合もあるだろう。オンライン授業が合理的配慮として認められるまでには、検討すべきことが多くありそうだ。(川端舞)