【コラム・坂本栄】つくば市長の五十嵐さんは「市民による合意形成」を市政運営の金看板にしていますが、最近、その看板にゆがみが生じました。施策Aについて市民の声を聴く手続きを進めている最中に、その議論の選択肢を事実上封じるような施策Bの具体案を公表し、合意形成の目玉ともいうべき「パブリックコメント(市民の意見募集)」を操作してしまったからです。
パブリックコメントを軽視
施策Aとは、2月10日の記者会見で公表された陸上競技場構想(高校廃校跡に400メートルトラックを持つ競技場を整備)です。詳しくは「そろそろ決着? つくば市の2大案件」(2月1日掲載)をご覧ください。五十嵐さんは会見で「市民の意見を反映させるため、3月7日まで基本構想案についてパブリックコメントを実施しています」と、同案について市民に意見を求めました。
ところが、意見募集中の2月19日、施策B=総合運動公園用地利用の具体策として、そこに防災倉庫と災害時ヘリポートを設ける案を公表しました(関連記事は2月20日掲載)。この案を聞いて、運動公園用地に陸上競技場を造ったらどうかと考えている市民は「防災倉庫を建てる計画があるのなら、陸上競技場を持ってきたらと言ってもダメかな」と思ったことでしょう。
また、「災害時ヘリポートを造るなら、運動公園用地よりも、陸上競技場のトラック内フィールドを活用した方がよいのではないか」といった対案の提出も控えられたでしょう。このように、施策Aのパブリックコメント中に、市が防災倉庫・ヘリポート案をぶつけたことで、合意形成のプロセスがゆがめられました。
防災倉庫・ヘリポート案の公表が意図的なものなのか、それとも意図せざるものなのか、よく分かりません。前者であれば、金看板の「市民による合意形成」を軽視して、市民の意見を市案に誘導するような行為です。後者であったとしても、金看板の信頼性を傷付けることになります。
政治課題の最終解決で焦り?
五十嵐さんの市政スタイル「市民による合意形成」は、前市長の「リーダーシップ型」市政の失敗を踏まえたものでした。前市長は市民によく説明せずに、総合運動公園計画(約370億円の総事業費で陸上競技場など3施設を整備)を推進。ところが、市民の反対に遭い、計画は廃止に追い込まれました。五十嵐さんの合意形成スタイルは、前市長の失政を教訓にしたようです。
市長2期目に入った五十嵐さんは、政治的な課題となっている「総合運動公園用地の最終解決」(具体的には陸上競技場の整備と運動公園用地の活用・処分)を焦るあまり、「市民による合意形成」をお留守にし、金看板の枠組みをゆがめました。看板を修理するのか、それとも降ろすのか、ウォッチしていきましょう。(経済ジャーナリスト)