【伊藤悦子】昔ながらの木桶(おけ)にこだわる柴沼醤油醸造(土浦市虫掛、柴沼和代社長)で、26本のしょうゆ桶のたがを締め直す作業が14日から16日まで3日間にわたって行われている。木桶が造られた大正時代以来、100年ぶりに締め直したたがもある。
たがは桶の周囲に巻いて緩まないようにする輪。今年の9月15日、1920(大正9)年に建てられたしょうゆ蔵「辰巳蔵」の桶のうち1本の底が抜け、しょうゆが漏れてしまった。通常は5年から10年ごとに桶職人が来社してたがを締め直していたが、桶と桶の間が狭く人が入れないなどの理由で、建造以来、締め直すことができなかった桶があった。
辰巳蔵には60石(約1万リットル)の木桶10本と、30石(約5400リットル)16本の計26本がある。
しょうゆは原料の大豆、小麦、塩を原料に、こうじ菌を加えて、もろみをつくり、木桶に移して発酵させる。木桶では、蔵や桶にすみついている100種類に及ぶさまざまな菌が発酵を促進させる。
一方、木桶醸造は微生物の管理が難しいことから、安定して大量に仕込めるタンクを使用する業者が増え、桶を作ることができる職人が少なくなった。
柴沼醤油でも、これまで桶の管理を依頼していた千葉県野田市の製桶所が廃業してしまった。今回は、大きな桶を作る製桶所としては国内唯一といわれる大阪府堺市の藤井製桶所に依頼し、社長で桶職人の上芝雄史さん(70)が駆け付けてくれた。
たがは元は真竹を編んで作られたが、今回は鉄製のたがを巻いて補強した。竹を編んでタガをつくる職人もほとんどいなくなったためだという。
大阪からたびたび来てもらうのは難しいことから、醤油醸造部門の社員4人が、自分たちでもできるように、3日間、上芝さんに付きっきりで基本から学び、たがを締める。4人の社員は上芝さんから「底の方はもっと強く締めて」「材木がピシピシと音が鳴るまで締めて」など一つひとつ細かく指導を受けていた。
今後、60石の桶を2本新調する予定もあり、その際も上芝さんのところで社員が学ぶことになっている。
指導を受けた醸造部門の塚原英希さん(47)は「初めてなのでわからないことばかりだが自分がしっかり覚えないといけない。詳しく学んで役立ちたいと思う」と話す。
上芝さんは「今後は柴沼醤油さんがたがを締めるときに困らないように、丁寧にお伝えしたい」と話した。
同社の柴沼和廣会長は「自分たちでも桶のたがの具合をみられるように、社員にしっかり勉強させたい」とし「来年は創業333年という記念すべき年。その前に桶の締め直しができてよかった。今後は歴史を紡ぎながら最先端のこともやっていきたい」と語った。
土浦は江戸時代から明治にかけて野田、銚子と並ぶ関東の3大しょうゆ産地とされた。柴沼醤油は現在、土浦に残る唯一のしょうゆ醸造業者。しょうゆの新たな商品開発や海外への販路開拓などにも積極的に取り組んでいる。