土曜日, 7月 27, 2024
ホーム土浦《霞月楼コレクション》9 東郷平八郎 霞ケ浦を愛した日露戦争の英雄

《霞月楼コレクション》9 東郷平八郎 霞ケ浦を愛した日露戦争の英雄

【池田充雄】霞月楼の「すみれの間」に、東郷平八郎海軍元帥の書「感神明」がある。東郷は霞ケ浦海軍航空隊が気に入って、たびたび阿見を訪れては霞月楼に立ち寄り、ここで遊んだという。店内では最も小体な8畳の部屋だが、3畳の脇間と2畳の畳縁も備えた粋な造り。美丈夫として名高い東郷は、若い頃は料亭遊びが盛んで何日も居続けたというが、当時はすでに70代半ば。軍神の鎧兜を脱ぎ、穏やかにくつろぐ一時だったに違いない。感神明の書は自ら揮毫して「ここに掛けておきなさい」と言い置き、以来ずっとすみれの間に掲げられている。

霞月楼すみれの間にある東郷の書「感神明」

丁字戦法でロシア艦隊を撃破

東郷平八郎

東郷平八郎は1848(弘化4)年、薩摩藩士・東郷吉左衛門の4男として鹿児島市加治屋町に生まれた。初陣は1862(文久3)年の薩英戦争。戊辰戦争では三等砲術士官として薩摩藩の軍艦「春日丸」に乗り、1868(慶応4)年の阿波沖海戦や1869(明治2)年の箱館戦争で幕府軍の艦隊と交戦。これが日本における近代海戦の始まりとされる。

1894(明治27)年の日清戦争では巡洋艦「浪速」艦長として豊島沖海戦、黄海海戦、威海衛海戦などで活躍。1904(明治37)年2月10日に日露戦争が始まると、連合艦隊司令長官として旗艦「三笠」に座乗し、旅順港封鎖作戦や黄海海戦など主要作戦全般を指揮。同年6月6日には大将に昇進した。

戦況を打開すべくロシアはバルチック艦隊を極東に派遣するが、1905(明治38)年5月27日早朝、連合艦隊はこれを対馬沖で迎撃。一列単縦陣から会敵直前に突如回頭、敵艦隊と並走しつつ砲撃を加える「丁字戦法」で完勝を収めた。

この日本海海戦で、世界屈指の戦力を誇るロシア精鋭艦隊を撃破し、日露戦争を勝利に導いた東郷は、世界的な名提督として「アドミラル・トーゴー」「東洋のネルソン」などの名で賞賛され、国民の尊崇を広く集めた。

1905(明治38)年から5年間、海軍軍令部長。1913(大正2)年、元帥に昇進。1914(大正3)年から7年間、東宮御学問所総裁を務めた。その後も海軍の長老として影響力を発揮、1934(昭和9)年に86歳で逝去した。

航空隊創設前の霞ケ浦を視察

東郷は1921(大正10)年9月28日、皇族で海軍大将の東伏見宮依仁親王の随行員として阿見を訪れている。同行は加藤友三郎海軍大臣、野村吉三郎大臣副官、山下源太郎軍令部長ら。ここには霞ケ浦海軍航空隊の創隊に先立ち、同年4月6日、臨時海軍航空術講習部が設置されていた。

第一次世界大戦後、軍部は航空機の重要性を痛感し、海軍は1916(大正5)年、横須賀鎮守府に最初の航空隊を設置。次いで本格的な教育訓練を始めるため、飛行場の展開が容易で水上訓練にも適した阿見の地が選ばれた。指導者養成のための教官団も英国から派遣され、ウィリアム・フォーブス=センピル大佐以下約30人、いずれも航空機の操縦ほか整備、兵器、爆撃、偵察、写真、落下傘などの専門家揃いだった。

東伏見宮ら視察団一行はセンピル大佐の案内で、教官団と共に日本に来た各種飛行機や、隊員らの飛行訓練などを視察。講習部本部前ではそれぞれ記念植樹をしたが、これらは戦中から戦後にかけて枯死し残っていない。

土浦に数多く残る東郷の書

国立病院機構霞ケ浦医療センター(土浦市下高津)の応接室には、東郷の書「制機先」が掛かる。1941(昭和16)年に霞ケ浦海軍病院として開設した経緯から、出征迫った軍人が託したという日本刀や短剣なども保存され、雑記帳には戦時中に慰問に訪れたのか「赤毛のアン」などの翻訳で知られる村岡花子のサインもある。

霞ケ浦医療センターにある東郷の書「制機先」

「当院は海軍病院時代に予科練の学生を多く治療した。その中には戦争末期に特攻隊に行った人もたくさんおられ、彼らの犠牲の上に今の日本がある。そういったルーツを持つ病院であることを誇りに思い、歴史を発掘し続けている」と、山口真也部長は話す。

霞月楼が所蔵する東郷の掛軸

土浦で常陽運送を営んだ秋元梧楼は俳人として知られ、小林一茶の句を夏目漱石が揮毫し、小川芋銭が俳画を添えた「三愚集」を編んだほか、東郷への崇拝から「東郷義会」という団体を結成し活動した。彼が結んだ縁により、市内には東郷の書が多く残るという。県立土浦一高(土浦市真鍋)にある「質実剛健」の額もその一つだ。

●取材協力・参考資料
国立病院機構霞ケ浦医療センター▽県立土浦第一高等学校▽陸上自衛隊武器学校▽陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地▽土浦市立博物館▽「阿見と予科練」(2002年、阿見町)▽阿見町民話調査班「爺さんの立ち話」(2003年、阿見町)▽阿見町郷土戦史調査会「日露戦役あれこれ」(2005年、阿見町)▽永山正「土浦町内史」(1989年、土浦市)▽東郷神社ウェブサイト▽記念艦三笠ウェブサイト▽ウィキペディア

シリーズ協賛 土浦ロータリークラブ 土浦中央ロータリークラブ

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

1コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

1 Comment
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

里山子ども探偵団《宍塚の里山》115

【コラム・阿部きよ子】私たち「宍塚の自然と歴史の会」は、将来に向け里山を保全していくためには、若い世代が里山の魅力を体験することが欠かせないと考え「環境教育」に力を注いできました。 1989年の会発足時からテーマのある月例観察会を行いましたが、小さな子どもは参加しても、専門の先生の話に集中することは困難でした。そこで2001年から、子ども中心の遊びと観察の会「子ども探偵団」を始めました。以来、雨天以外、毎月第4土曜午前10~12時に実施しています。生物多様性の宝庫、美しい里山景観の中での体験が、成長していく彼らの「ふるさと」体験となってほしいと願って活動しています。 毎回、下見をして主な内容とコースを計画していますが、集まった子どもたちの様子、天気などで変更もします。今年の様子を一部紹介します。 7月は短距離日陰コース 1月:メインは落ち葉のプール作りと「小屋」作り。 2月:前半は梅の花見とアカガエルの卵塊観察。後半は「アスレチック広場」で体を動かす遊び。木登り、ターザンロープ、スラックライン、ゲンコ、ブランコなどなど。ゲンコは地元のお年寄りから教わった昔ながらの遊びです。木の枝の枝分かれしたY字の部分を削って尖らせた「ゲンコ」を地面に投げて突き刺し、さらに倒し合います。 3月:雨天で中止 4月:池に浮かぶ水草のヒシ、雑木林の春の草花の観察。保全活動を兼ねた孟宗竹のタケノコ倒し。 5月:ドングリから育ち始めたコナラの芽と根の観察。ヒバカリ(無毒の蛇)、鮮やかな色のフクラスズメ(蛾の幼虫)の観察。多くの子が怖がらずに触ることができました。 6月:ネムの花の観察、朽ち木の間の甲虫捜し、保全活動を兼ねた真竹のタケノコ倒し。採集した生き物は、毎回観察後、元に戻しています。 7月:猛暑だったので短距離日陰コース。宍塚大池で、ブルーギルが水に落ちたバッタを食べる様子を観察し、水面に広がるヒシが水に浮く仕組みや、葉っぱを食い荒らすハムシの幼虫と卵を観察。セミの抜け殻を拾い集めながら林の中を進む途中、コケに包まれた小鳥の巣が落ちていたのを発見。 思いがけないものを発見 初めて参加する子の中には、とても物知りだけれど、実際の生き物を見つけたり、触れることのできない子がいます。でも、経験ある子どもと接する中で、積極的に生き物に接していく姿がしばしば見られます。また、参加した子が次には友達を誘ってきてくれることもあります。 毎回、子どもたちは思いがけないものを発見してくれるので、スタッフの私もわくわくします。この里山が、将来も、子どもたちの育つ場として生かされることを願っています。(宍塚の自然と歴史の会 会員)

400人規模の市職員対象に睡眠の質調査へ 筑波大とつくば市が実証研究

つくば市と筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(柳沢正史機構長)は26日、睡眠の課題発見と解決に向けた連携協定を締結した。400人規模の同市職員を対象に、今年秋ごろから睡眠の質を調査し、さらに改善策を検証する実証研究を共同で実施する。 おでこなどにシールを貼って、自宅で眠っている時に脳波を測ることができる機器を対象者に貸し出し、個々の職員の睡眠の質と量を測定し解析する。さらに睡眠に関する個々の問題点をそれぞれ洗い出して、改善策をアドバイスなどして、再び脳波を測定してもらい、改善できたかどうかを検証する。 脳波の測定は一人に付き眠っている間の5日間ほど。改善策やアドバイスを受けて再び5日間ほど脳波を測定し検証する。 実証研究の対象者や方法など詳細は今後決めるが、一つの職場で400人規模で実施することにより、働く世代の睡眠に関する有病率がどれくらいか分かることが期待されるほか、例えば、測定結果や改善策をすぐにアドバイスするグループとそうでないグループに分けて、自分の睡眠を知ることがどれだけ行動変容につながるのか、本人が自分の睡眠を自覚するだけでどのような変化があるかなどの検証も期待できるという。実証研究の対象職員からは併せて、飲酒など普段の生活習慣や生活パターンなどを聞き取り、睡眠の質や量と突き合わせる。 柳沢機構長が、功績の大きい研究者に贈られる2023年の国際的な学術賞「ブレイクスルー賞」を受賞し、受賞記念講演を聞いた五十嵐立青市長が柳沢機構長に働き掛けたことがきっかけという。実証研究の費用は約970万円で市が負担する。9月議会に提案し、可決されれば、10月か11月ごろから来年3月まで実施する計画。 柳沢機構長は「健康の3要素は食、運動、睡眠といわれるが、睡眠だけは自分で自覚できない。企業の従業員や自治体の職員などが問題を抱えている時の生産性の低下は、睡眠による影響が食、運動に比べて10倍大きいという調査もある。睡眠が悪ければ病気になりやすくなるのに加えて、睡眠不足を含めた睡眠障害は直接に頭や体のパフォーマンスに影響してきて生産性が下がる。感情のコントロールもできにくくなるので人間関係や信頼関係が悪くなりがちということもあって、その辺りを職域で改善することは極めて大事になる」とし「在宅で脳波を測れるデバイスを用いて、客観的に職員の睡眠を測り、高解像度で睡眠を見える化した上で、個人の問題点を洗い出して、改善策をアドバイスするなり、探っていき、さらに改善できたことを検証したい。この手の実証研究は数十人でやるなど、ともするとスケールが小さくなりがちだが、職域を一つのフィールドとして400人規模で自治体が率先して行っていくことに敬意を表したい」と話した。 五十嵐立青市長は「ノーベル賞につながるといわれるブレークスルー賞を受賞した柳沢先生が率いられる機構とご一緒できることはひじょうに価値がある。共同研究の成果は直接的に市民の健康に資する。睡眠が幸福度の大きなカギだと確信しているので、協定をきっかけに市民の幸福度を高める取り組みを進めていきたい」と話す。

飛行機が苦手だけれど《遊民通信》93

【コラム・田口哲郎】 前略 私は航空機移動が苦手なので、国内は鉄道で旅することにしています。先日、長崎に行かねばならない用事があったのですが、スケジュールの関係でどうしても飛行機を選択せざるを得なくなりました。 飛行機のチケットをとったときから不安になり、それが着陸まで続きます。新幹線があるのに、なぜわざわざ上空1万メートルを飛んでゆく必要があるのかとか、旅客機はまったく近代の産物で、おかげで人類は進歩できたけれども、それは多くの犠牲のうえに成り立っているなどと、余計な思考が頻繁に頭をよぎるようになりました。 軽い鬱(うつ)状態で、機内で離陸時、着陸時にはパニックに陥ってしまうかもしれないと、いま思えば大げさなことを考えて不安をどんどん大きくしていました。 快適な天空の旅 さて、実際に搭乗し、着席し、飛行機が動き出しました。猛スピードが出て、浮揚し、ぐんぐん高度を上げてゆく機体の中で湧いてきたのは、不安というよりワクワク感でした。あの高揚感は技術のフロンティアを築いてきた人々への憧れと尊敬なのでしょうか。とにかく、説明のつかない気持ちでした。 高度1万メートル辺りになるとシートベルト着用サインが消えて、機体は水平になります。窓の外を見やると、雲上の世界。青と白、遠く霞む水平線。陽の光に照らされた明るい、澄んだ景色が目に入りました。不安はどこかに飛び去り、美しい光景に感動し、神の目をもったような気分になりました。 天空の航行を楽しんでいると、キャビンアテンダントが飲み物はいかがですかと笑顔で話しかけてくれます。天女のやさしさを思わせます。リンゴジュースを飲むと、エデンの園のりんごはこんな味だったかと想像するほどに、フライトを心地よく思っている自分がいました。 時速900キロほどの速度ですから、羽田から長崎まで2時間弱で着いてしまいました。無事着陸した時の衝撃音で地上の現実に戻ったことを悟ったときには、天が恋しいとさえ感じました。異国情緒漂う長崎で所用を済ませて、帰るときにも、行きのような心境の変化がありました。多少の不安、離陸の高揚感、天空の夢心地、そして地上の覚醒、着陸した後のひと安心。 成田空港が近い茨城県南では、航空機が飛行するのをよく見かけます。いままでは他人事で気にもかけていませんでしたが、このごろは人類の英知を結集した航空機がクルーの皆さんのたゆまぬ努力で多くの人に快適な翼の旅を提供していることに想いを馳(は)せることができるようになりました。 空の旅は非日常に誘ってくれますね。ごきげんよう。 草々 (散歩好きの文明批評家)

霞ケ浦が守谷破る、決勝はつくば秀英と【高校野球茨城’24】

第106回全国高校野球茨城大会は15日目の25日、ノーブルホームスタジアム水戸で準決勝が行われ、第2試合では、霞ケ浦が守谷を6-2で破った。これで決勝戦の組み合わせはつくば秀英-霞ケ浦に決定した。 霞ケ浦と守谷の試合は序盤の点の取り合いから、中盤以降は締まった展開になった。結局、霞ケ浦が3回に奪った4点のリードを守って試合を決めた。 3回裏の霞ケ浦の攻撃は2番・森田瑞貴の右前打から始まった。3番・雲井脩斗の三ゴロと4番・羽成朔太郎の右前打で1死一・三塁、打席には5番・大石健斗。勝ち越しがかかる緊張する場面で「初球からフルスイングし、自分の良さを出すことができた」という。インコースのスライダーを中堅へ運び、「外野フライには十分」と思ったところで野手が落球。自分も塁に生きた。続いて2死一・二塁の場面から、7番・鹿又嵩翔の中前適時打と8番・乾健斗の中堅への2点三塁打で3点を積み重ねた。 乾は先発投手としては立ち上がりが良くなかったため、この打席では「取られた分は自分で取り返そう」と臨んだ。打ったのは真ん中のまっすぐ。「打撃ではタイミングの取り方や打つポイントなど、監督に教わったことを意識しながらやっている」という。「今のボールはフライを上げると飛ばないが、乾のように低めに打つとライナーで入っていく。ああいう打球を目指してほしい」と高橋祐二監督は賞賛する。 投手としての乾は3回以降立ち直り、スライダーとチェンジアップが要所要所で決まり、結局8回途中までマウンドを守った。後を継いだのは眞仲唯歩。1死一・二塁の場面で登板し、1人目は一ゴロで打ち取り、2人目はストライクからボールに逃げるスライダーで空振り三振に切って取った。「今日もまっすぐが走り、最速を142キロに更新した。投げるごとに状態が良くなっている」と眞仲の感想。 「今日は乾が持ち味を出してくれたのが勝因。眞仲も試合ごとに安定感が増し、マウンド上で余裕が出てきた。打線も投手に助けられながら力をつけてきた。ここへ来て選手たちに勝ちたい気持ちが出て、チームがまとまってきている」と高橋監督。 決勝戦の相手はつくば秀英。春大会は1-4で敗れた相手だ。選手たちは口々に「鹿島学園戦に続いてリベンジを果たしたい」と話す。特に大石は「自分たちは今大会、初戦から挑戦者の気持ちで戦ってきた。ぜひ最後まで勝ちきって、(昨年の決勝で逆転負けを喫した)去年の3年生の屈辱を晴らしたい」と意気込みを見せる。 決勝は27日午前10時からノーブルホームスタジアム水戸で開催される。(池田充雄)