【相澤冬樹】浮かぶなら浮かしてしまえ-と逆転の発想で、洪水時の浮力対策を講じた耐水害住宅の実証実験が13日、防災科学技術研究所(つくば市天王台、林春男理事長)で行われた。大型降雨実験施設の水槽に一条工務店(東京、岩田直樹社長)が新機軸の「水に浮く」木造住宅を設置、水位3メートルの洪水状態を再現して、住宅性能をチェックした。係留装置でつながれた住宅は地面から1.5メートル前後浮かび上がり、浸水、逆流、水没や浮上に伴う被害は見られなかった。
水位1.4メートルで浮き上がる
今回の実験では降雨設備を封印し、浸水対策を施した木造住宅と施していない住宅の2棟を水槽に設置し、6基の水流ポンプで約1500トンを注水した。2棟の2階建て住宅から各種計測データや動画を収集した。流速は洪水時の勢いを想定して最大秒速3メートル。水位3メートルに達するまで約1時間半かかった。
耐水害住宅は基礎が二重構造となっており、べた基礎から上部が浮き上がる。四隅に係留装置を配し、復元装置付きのワイヤなどで住宅をつなぎとめる。水の引いた後の着地対策も施したほか、電気の引き込み線や水道管などの接続にも工夫をした。
実験では予想通り、水位が1.4メートルに達したあたりで基礎が外れ、プカプカ揺れながら「船のように」浮上を続けた。比較対照の1棟は早々に床下浸水から1階部分が水没、停電したのに対し、モニターで見る限り耐水害住宅に被害はなかった。
同社の耐水害住宅は、1年前にも同施設で実験を行った(19年10月2日付)。床下換気口や排水溝にフロート弁を設けるなどして床下浸水に備え、外壁のサイディングやサッシガラスなどを強化仕様として床上浸水を防いだ。
この際、設定水位は1.3メートルだったが、これを超えたあたりで起こると予想された住宅の浮上問題が実験でも確認され、課題となった。国や自治体のハザードマップで、ゲリラ豪雨や台風による想定水位は3メートル以上に達しており、浮上を放っておくと二次災害が危惧された。
同社は1年前の実験後に予定していた耐水害住宅の販売を急きょ取りやめ、浮上対策を講じることになった。防災研でも「コロナ禍で、在宅避難は魅力的な選択肢になる」(林理事長)と官民共同での実験を後押しした。
同社によれば、住宅の重さは80トンあるが、1.4メートルあたりでバランスをとるため浮き上がるという。「木造住宅は軽量が持ち味。重くして浮き上がれないようにすると耐震性が損なわれ、地盤対策などでコスト的に折り合わない」(開発責任者の萩原浩さん)そうだ。実験に使われた延床面積100平方メートルの住宅で、浮上性能を加えた耐水害住宅は価格的に100万円程度上昇する見込み。9月1日から試験的な販売を始めており、すでに120件ほどの注文があるという。