月曜日, 12月 5, 2022
ホーム コラム 《土着通信部》40 根本健一さんのつくばスタイル

《土着通信部》40 根本健一さんのつくばスタイル

【コラム・相澤冬樹】音楽はクラシック党、名画を求めてエルミタージュやフィレンツェの美術館を訪ねたりしていたから、こと芸術に関しては本格志向だった。それでいて新奇さや前衛に傾倒する新しもの好きで、学生や若いアーティストにパトロンじみた支援も行うなど、鄙(ひな)には稀(まれ)な人物だった。鄙―つくば市吉瀬の田園を「ルーラル」と呼んで、筑波研究学園都市の「アーバン」と対置する取り組みを行ってきた根本健一さんが4日、亡くなった。66歳だった。

今の筑波都市整備の前身、第3セクターの筑波新都市開発で竹園や天久保のショッピングセンター開発に取り組んでいた根本さんが退職し、吉瀬の自宅の長屋門で画廊を始めたのは30歳前後、80年代の初めだったと思う。鄙に戻って家業の農家を本格的に継ぐのかと思えば、口にしたのは「農村業」への転身だった。

3セクはデベロッパーだったから、身に着けた不動産業の知識を農村に合った形で事業化する展開を考えた。科学万博のあった85年を契機に退職、長屋門を構えるほどの旧家の母屋はやがてレストランとなり、自宅周辺の小家屋は陶芸工房や貸しオフィス、美術学生のアパート兼作業場として提供された。

平成になると、事業は吉瀬集落からつくば市周辺に及ぶ。吉瀬には林間のオートキャンプ場「フォンテーヌの森」を開設、「アウトドアライフ」やら「RV車」などがトレンドワードとして急浮上していた時期で、時代の先取り感はあった。「グリーンツーリズム」や「クラインガルテン」など農村業にまつわる横文字には即座に反応し、企業化を図ったが、イチゴの水耕ハウス栽培など空回りすることも少なくなかった。

農村のストックを付加価値の先頭に

高度経済成長が続いた80年代まで、農村の都市化は不可逆的で、学園都市周辺の農村部はいわゆる「混住社会」というとらえ方をされていた。しかし「混住」は過渡期の姿ではなく、地域社会の1つのありようであることが、まさにつくばで明確になってきた。根本さんは筑波大学をはじめとした都市計画、地域計画の専門家、芸術家たちと交流するなかで、手法や考え方を学び、地域のなかに具体的に落とし込む作業に没頭した。

2005年のTX(つくばエクスプレス)開業に前後して唱えられた「つくばスタイル」こそ、混住モデルの提示と言えた。このブランドづくりに一役買った根本さんは「CROSSつくば」06年1月号に「つくばスタイル 新・田園ライフの提案」を書いている。「農村のストックを付加価値の先頭に登用する」と市民農園への「モービルホーム」係留などの展開法を提示した。

新しもの好き、根本さんの先取りはいかんせん早すぎたのかもしれない。根本さんの好んだカタカナ言葉、「グリーンツーリズム」も「モービルホーム」も「古民家リノベーション」も、今は地域づくりのツールとして普通に使われるようになった。しかし、時代が追いついてきたとき、根本さんは生き急ぐかのように逝ってしまった。

心臓に持病を抱え、昨年11月脳梗塞に倒れた。以来丸9カ月に及んだ闘病生活。コロナ禍で周囲の面会もままならないなか、家族だけが看取る静かな死だった。

葬儀で井坂敦美さん(最後の筑波町長、元つくば市教育長)は、長い付き合いを振り返り「みんな中途半端になった」、叱るように早すぎる死を惜しんだ。(ブロガー)

誹謗中傷するコメントはNEWSつくば編集局が削除します。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー

注目の記事

最新記事

つくば洞峰公園問題をめぐる対立と分断 《吾妻カガミ》146

【コラム・坂本栄】つくば市にある茨城県営洞峰公園の運営方法をめぐり、県と市が対立、市民の間には分断が生じています。本欄ではこの問題を何度か取り上げてきましたが、今回は対立と分断の起因を整理して、県と市、市民が納得できる策を探ってみます。 維持管理費をどう捻出するか? 県の考え方は、▽園内にグランピングなどのレジャー施設を設けたい、▽その目的は、公園の維持管理費の一部を施設運営会社の収益で捻出することにある、▽同時に、新しい施設は県の観光振興策にも合致し、県の魅力度向上に寄与する、▽新施設を迷惑に思う利用者に配慮し、レジャー施設には利用ルールを設ける―と要約できます。 この計画に対し、公園の日常的利用者が、▽園内にレジャー施設ができると、自然公園の形が壊れる、▽そのような施設は公園になじまないので、公園の現状を変えないでほしい―と反対。市は日常的利用者の側に立ち、▽県の改修計画には賛成できない、▽維持管理費は、公園運営の民間委託でなく、体育館などの利用料引き上げで捻出したらよい―と主張。 要するに、公園運営に民間の知恵を導入し、県財政から出る維持管理費を浮かせ、公園にキャンプなどを楽しむ場としての役割も持たせたいとする県と、今の公園の形は変えず、維持管理費は県財政ではなく、施設利用者に負担させたらよいとする市の対立です。 市長対案を県知事は明確に拒否

列車内の無線Wi-Fiサービス 23日で終了 TX

つくばエクスプレス(TX)を運行する首都圏新都市鉄道(東京都千代田区、柚木紘一社長)は、列車内での無線Wi-Fiサービスを23日で終了する予定だと発表した。駅構内での無料Wi-Fiサービスは継続する。NTTドコモのd Wi-Fiサービスの終了に伴うものという。 TXは、駅構内や改札付近だけでなく、列車内でも無料通信が利用できる体制を開業当初から早期に整えた先駆的な公共交通だ。列車内の無線Wi-Fiは、通勤ラッシュ時などは接続しにくくなっていた時もあるなど、利用者は少なくないとみられる。個人の端末通信を使用すればスマートフォンやパソコン通信は引き続き利用できる。 同社によると、これまで列車内では2つの無料Wi-Fiが提供されていた。エヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム(東京都千代田区)が運営し、TXの利用者全員を対象として提供されていたTX Free Wi-Fi(ティーエックスフリーワイファイ)と、NTTドコモ(東京都千代田区)が運営し、同社のdポイントクラブの会員向けに無料で提供されていたd Wi-Fi(ディーワイファイ)だ。どちらも23日に終了し、列車内での無料Wi-Fiの提供は無くなる。 同社は「d WiFiを提供するNTTドコモから、d Wi-Fiサービスの終了に伴って、つくばエクスプレスでも運営を終了したいとの申し出があった。それを受けて、TX FREE Wi-Fiも同時に終了することが決まった」と経緯を説明する。

台湾の地方選 与党・民進党の大敗《雑記録》42

【コラム・瀧田薫】11月26日、台湾で4年に一度の統一地方選が行われ、台北市長など多くの首長選で野党・国民党が勝利した。蔡英文総統が率いる与党・民進党は大敗し、蔡氏は直ちに党主席(党首)を辞任したが、総統の任期(2024年5月)は全うする旨表明した。 蔡氏は選挙戦を通じて、地域振興策とともに「抗中保台」(中国に抵抗し台湾を守る)政策を掲げ、それを争点化して選挙戦を勝ち抜こうとしたが、選挙は対中融和路線を標榜(ひょうぼう)する野党・国民党の大勝に終わった。これを受けて、中国政府は「平和と安定を求める民意の表れ」と国民党の勝利を歓迎するコメントを発表した。しかし、この選挙結果を見て、台湾の有権者の多くが中国との融和を望んでいると判断すれば、実態を見誤る。 台湾の選挙事情は独特で、国の基本政策(外交方針など)を争点にするのは総統選挙、国民生活の身近な問題(物価、景気など)は地方選の争点といった具合に、国民の意識の中で分けられている。さらに、地方選の場合、地域事情や候補者の地縁・血縁が選挙結果に大きく影響することもあって、対中方針といった国政上のテーマは争点になりにくいのである。 実際、今回の選挙で野党が大勝した理由は、与党の国内政策(コロナ、経済、社会保障など)批判が国民一般から支持されたことにあったわけで、野党の親中路線が国民一般の支持を得たわけではない。民進党としては、選挙結果をうけて、まず内政重視の姿勢を取らざるを得ず、野党・国民党としても与党の国内政策に攻撃を集中する方が党勢拡大のための最適解と考えるだろう。 つまり、対中国政策で与野党が正面切って火花を散らすのは次期総統選が事実上始まる来年夏頃からになると予想される。これまで対中国で強硬路線を続けてきた蔡政権は、当面、内政重視の姿勢を国民向けに見せることになるが、他方、欧米、日本などとの連携(対中国)方針について大きく変えることはないだろう。 次期総統選の行方に注目

ウクライナの動物支援 愛護団体呼びかけ つくばでチャリティーライブ

戦禍のウクライナの動物を支援する「クリスマス・チャリティー・ジャズライブ」が18日、つくば市春日の積水ハウスつくば支店で開かれる。演奏は、松戸市在住のジャズピアニスト、竜野みち子さんとベース、ドラムのトリオで、クリスマスソングや誰もが知っているジャズの名曲などが披露される。 竜野さんは主に東京、横浜を中心に演奏活動をしているが、カリブ海のハイチやカナダのモントリオールジャズフェスティバルへの参加など、国外での演奏も経験している実力派だ。 ライブを主催するのは、つくば市を拠点に保護猫の譲渡活動やTNR(捕獲し、不妊・去勢手術を行い、元に戻す)活動を行っている動物愛護団体「Team.(チーム)ホーリーキャット」(2019年7月17日付)。 ロシアによる2月の軍事侵攻以降、ウクライナでは国民はもちろん、多くの動物が窮地に立たされている。国外脱出を余儀なくされた住民たちはペットをなんとか一緒に連れ出そうとしたが、多くの動物が残されているという。 代表の重松聖子さん(74)は東日本大震災が起きた2011年の10月、福島第一原発に近い警戒区域で置き去りにされた猫の救出作業を行った。ウクライナの惨状に、避難指示が出されて住む人のいない家で猫たちのむくろを見たことが思い出された。またウクライナの首都にあるキーウ動物園の餌がないという報道にも心を痛めた。 竜野さんは震災以降、被災地で動物たちの命をつなぐ活動を続けているグループを音楽活動を通して支援している。4年前、自宅近くの神社に住み着いた野良猫たちが地域猫として暮らせるよう、ホーリーキャットにTNR活動を依頼したことで、重松さんたちメンバーと親交を深めた。この出会いがつくばでのチャリティーライブ開催に結びついた。