【川端舞】県障害者権利条例に基づいて2015年に開設された県障害者差別相談室の19年度報告会が29日開催された。障害者からの相談を受けて同相談室が介入した結果、鉄道や銀行で対応が改善され、合理的配慮の取り組みが少しずつ進んでいる事例が報告された。
一方、昨年度寄せられた相談件数は84件で、相談室が設置されて以降、最も少なかった。
29日オンライン報告会
報告会には県内の障害者や支援者10数人が参加した。例年は水戸の会場で開催しているが、今年は新型コロナウイルスの感染予防のため、オンラインで開催した。一方、手話通訳などが必要な聴覚障害者や、オンラインが使えない人のために、つくば自立生活センターほにゃら事務所(同市天久保)と水戸市福祉ボランティア会館(同市赤塚)とが対面式の会場として準備された。
同相談室は、15年に施行された県障害者権利条例に基づき県が運営し、障害者や家族、支援者などから、障害者差別についての相談を受け付けている。相談内容によっては、関係者双方から事実を確認し、解決策として合理的配慮=メモ=を提案したり、関係者間の調整を行ったりしている。
無人駅は近隣駅員が対応
報告会では、昨年度、相談室に寄せられた事例がいくつか紹介された。
電車の乗り降りを手伝う駅員がいない無人駅を、車椅子使用者は利用できないという相談事例では、相談室と交通機関が話し合い、事前に連絡すれば近隣の駅の駅員が対応することになった。
上り線ホームに高架橋のある駅で車椅子使用者の利用を断られた事例では、相談室が介入した結果、一度、駅の改札口に直結する下り線ホームから乗車し、ひと駅先のエレベーターのある駅で上り線に乗り換えることを交通機関側から提案され、迂回した鉄道の利用料金は無料にすることで解決した。
銀行で親族以外が代筆可に
また、今まで視覚障害者が銀行で代筆による署名をするときは親族しか代筆できなかったが、差別相談室が介入し、本人の依頼があれば、介助者や銀行職員でも代筆できるようになった。
一方、聴覚障害者が銀行職員とコミュニケーションがとれなかったという相談事例では、差別相談室が銀行に対し、聴覚障害者にはゆっくり分かりやすく説明することを求めた。
教育に関する相談では、障害児が通常の高校に入学する際に、入学試験で適切な配慮を受けられなかった事例や、小学校で生活上の介助等を行う支援員を限られた時間しか利用できない事例があった。その場合には、差別相談室が学校や教育委員会と話し合い、必要な合理的配慮を相談者と一緒にお願いしたという。
困ったことあれば相談を
一方、昨年度の相談件数が最も少なかったことについて同相談室は、せっかく差別相談室があっても、障害者やその家族が相談しなければ、差別はなくならないとし、「差別かどうか判断できなくても、困ったことがあれば相談してほしい」と呼び掛けた。
県では相談室運営のほか、県内市町村や障害者支援施設の職場研修などに、県の担当職員を派遣し、障害者権利条例の趣旨を説明する出前講座も実施している。昨年度は22回実施した。相談室に寄せられた相談事例の中で介入した関係機関にも、必要があれば県の出前講座を勧めている。
※メモ
【合理的配慮】障害者が障害のない人と同等の社会生活を営むために、障害者の求めに応じて、環境や慣行、制度などを変えること。車いすでも通れるために通路を広くしたり、聴覚障害者に筆談で対応したりすること。2016年施行の障害者差別解消法で、事業者は合理的配慮をするよう努めなければならないとされている。