月曜日, 12月 15, 2025
ホームコラム《吾妻カガミ》84 いま、つくば市政が面白い

《吾妻カガミ》84 いま、つくば市政が面白い

【コラム・坂本栄】このサイトの編集では行政の監視が一つの柱になっています。今回のコラムでは、先の「つくば市のコロナ対応を点検」(5月4日掲載)でも少し触れた「市内事業者応援チケット事業」の問題点を取り上げます。秋の市長選挙を意識して急いだのでしょうか、五十嵐さんが打ち出した施策は「生煮えだった」という話です。

Cファンディングって何?

4月20日に公表されたチケット事業は、コロナ禍で売り上げが減っている事業者を助けるために、将来のサービスなどが約束されたチケットを、市内外の応援者(将来の利用者)に前倒しで買ってもらう―という仕組みです。一時あちこちで扱われたプレミアム商品券の業者救済型といえます。

支援策としては気の利いた内容ですが、問題もありました。応援者はチケット(モノやサービスの提供が約束された金券)を受け取るものの、入金先がクラウドファンディング(CF、寄付感覚もあるリスク承知の投資資金をネットで集める方法)の窓口であるために、チケットが紙クズになっても文句を言えない仕掛けになっていたからです。

つまり、応援のお礼が金券なのか、見返りを求めない寄付なのか、それとも株並みの投資なのか、応援者の理解(誤解?)に任せられていたのです。金融商品に例えると、元本が保証されている預貯金とも、全損もあり得る証券類とも理解できるような、変な制度設計でした。それを自治体が主導したわけですから、設計としては完全にアウトです。

業者応援で制度設計を修正

私のコラムでの指摘のほか、市民からも似たような声があったのでしょうか、 市はこの応援チケット事業の設計を内々に変えました。

10日ほど前、市の担当者に聞いたところ、おカネ集めにCFの機能は使うものの、投資の要素は限りなく排除し、原則として金券と位置づけ、寄付でもOKの人の応援はもちろん受け付ける―という運用原則に変更したそうです。具体的には、事業者が閉店してチケットが無効になったときは、市が払い戻しに応じるとのこと。また、外部委託を考えていた事務局の機能は、市の経済支援室が引き取ったそうです。

この結果、チケットとの理解で応援してくれる人が9割、寄付でも構わないと言う人が1割になると予想しています。事業設計としては、CFが持つリスキーな要素がなくなり、応援に対するリターンは安心な商品券でという形に落ち着きました。

この事業を4月に公表したとき、市はどうして「クラウドファンディング」を前面に押し出したのでしょうか? どうやら、いま流行(はやり)の仕掛けということで、採用されたようです。五十嵐さんはCFを制度設計の柱に据えましたが、詰めの作業で修正を迫られました。選挙が近づくと、面白いことが起きるものです。担当職員はお疲れ様でした。(経済ジャーナリスト)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

6 コメント

6 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

外国人排斥の風潮に強い危機感 市民団体「牛久入管を考える会」が報告会

法務省の東日本入国管理センター(牛久市久野町)に収容されている外国人の処遇改善に取り組む市民団体「牛久入管収容所問題を考える会」(つくば市、田中喜美子代表)の年間活動報告会が14日、つくば市役所コミュニティ棟で開かれ、昨今の外国人排斥の風潮に強い危機感が示された。 牛久にある同入管センターは、在留資格のない外国人や難民申請中の外国人を収容している。考える会は、収容されている外国人との面会活動などを通して処遇改善などを要望している。 記念講演をしたノンフィクションライターの安田浩一さんは、SNS上でまん延する外国人への偏見を助長する様々なデマについて「デタラメが差別につながり、差別と偏見のその先にあるのは殺戮(さつりく)」だと、102年前の関東大震災での朝鮮人虐殺を例に挙げ強く非難した。 その上で、モスク建設やインターナショナルスクール開設反対運動、移民反対デモが各地で行われる一方、製造業や農業の現場などで多くの外国人労働力に依存している現状に触れ「私たちは好むと好まざると外国人と関わっている」と述べた。 考える会の田中代表は、選挙運動を通じて複数の政党や候補者が公然と外国人排斥を掲げ、政府が「違法外国人ゼロキャンペーン」を展開していることについて「国策として外国人排斥が始まった」と厳しく批判した。 活動報告会には市民や外国人ら約80人が参加した。 東日本入管センターの2025年の被収容者数は現在、毎月約40人から60人前後で推移しているなどの報告があった。2024年6月、入管施設に収容しない代わりに、監理人の管理下で一定の制約を受けながら社会生活を送り退去強制手続きを進める「監理措置制度」が始まって以降は大きく減っている。一方、今年6月以降は被収容者が強制送還される事例が増えているという。 登壇した「監理措置」の中国籍の男性は、入管施設内での生活について「入管職員とコミュニケーションを取ればいじめられなかった。ただ、自由は無かった」と振り返る一方で、「監理措置制度」の下で、入管施設の外で一定の制約を受けながら社会生活を送る現在の状況を「入管の中には塀がある。(入管の)外にも塀がある」と述べた。(崎山勝功)

不適切な生活保護行政 告発者を表彰したら?《吾妻カガミ》213

【コラム・坂本栄】つくば市の不適切な生活保護行政について「今年内にも(関係職員・管理職への)処分が出るのか」と市長に聞いたところ、「年内でなく年度内」とのことでした。同行政の部署にいた職員が不適切事案の具体例を内部告発し、市が発表したのが2024年春。そして市が調査報告書をまとめたのが2025年夏。問題表面化から関係者処分まで2年もかかるとは悠長な話です。 職員酷使、業務怠慢、ミス隠し 内部告発の詳細については市職員の請願書(市の公益通報受理が遅れたので市議会に請願)を読んでください。あらましは192「…市政の実態」に書きましたが、さわりを紹介すると▽問題点を指摘したら管理職が隠蔽してしまった▽やってはいけない現金支給が行われていた▽業務上の不正を指摘すると職場で「村八分」にされた―といったことが起きていたそうです。 市の調査報告書を読むと、生活保護行政の様相がよく分かります。209「不適切のデパート…」で超要約したように、▽時間外勤務や特殊勤務の手当てがきちんと払われていなかった▽生活保護者への過払いを埋める会計処理(国庫への請求)を怠っていた▽県の監査に対し「現金給付はしていない」と口裏を合わせていた―など、杜撰(ずさん)な行政の実態が報告されています。 生活保護は国民へのセーフティネットであり、憲法でも「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条)が保障されています。こういった基本中の基本の行政なのに、単純ミス(支給基準の誤判断)だけでなく、職員酷使(関連手当ての未払い)、業務怠慢(国庫への請求見送り)、ミス隠し(県監査への虚偽報告)が横行していたとは驚きでした。 担当職員・管理職、市幹部への処分がどうなるか、要注目です。処分は仕事上の責任を明確にして再発抑止を図るものですが、これとセットで、不適切事案を暴露することで業務正常化に貢献した告発職員を表彰したらどうでしょう? 内部告発をプラス面に生かして役所を活性化させれば、市民サービスも向上します。実現すれば、役所マネージメントの新しいモデルになると思います。 究極の不適切生活保護対策は? 請願書と調査報告を読むと、つくば市では管理職クラスの仕事振りに問題が多いことが分かります。その箇所にアンダーラインを引きながら、つくば市と土浦市の合併を図り、「新つくば市」を中核市(当時の人口要件は30万以上)にしようとしていた前市長の非公式発言を思い出しました。 合併協議が進んでいたころ、前市長はある懇親の席で、6町村合併で誕生したつくば市の職員を市政経験が豊富な土浦市の職員に教育してもらいたい―といった趣旨のことを話していました。2市合併の目標として中核市実現を掲げながら、土浦市の豊富な行政経験をつくば市の職員に学ばせ、市の行政レベルをアップしたいとの思惑もあったようです。 つくば市民の反対で合併は実現しませんでしたが、「不適切行政」改善策は他にも考えられます。組織引き締めのために関係職員・管理職・市幹部を処分するはその一つであり、内部告発に踏み切った職員を表彰して役所内を刺激するのも一策でしょう。 究極の不適切行政対策は、生活保護業務そのものを県に返上してしまうことです。行政力に限りがある村役場や町役場は生活保護の実務を県に任せています。つくば市が業務返上という奇策(町村並み市政宣言)に出れば、全国の耳目を集めるでしょう。来年の自治体ニュースの上位に入ることは間違いありません。冗談はこのぐらいにして(内部告発奨励は真面目)、皆さま、よいお年をお迎えください。(経済ジャーナリスト) <注> 青字部をクリックすると関係文書やコラムが読めます。

環境にやさしい素材で 子供たちがアート体験 つくば スタジオ’S

筑波大学で芸術などを専攻する学生に教わりながら、子供たちがさまざまなアート技法を体験するイベント「冬のキッズアート体験2025」が13日、つくば市二の宮のギャラリー「スタジオ’S」で開かれた。普段ごみとして捨てられてしまったり、リサイクル資源となる紙パックやトイレットぺーバーの芯、環境にやさしい再生紙を使った工作体験などが催された。 関彰商事(本社:筑西市・つくば市、関正樹社長)が筑波大学芸術系の協力で、9年前の2016年から毎年冬と夏に開催している。昨年からつくば市と県つくば美術館がこの企画を応援。同市とSDGsを推進する包括連携携協定が締結されていることから、環境にやさしい素材が使われるなどした。 紙パックを使った工作では、子供たちが、紙パックに布シートを貼り付けて、さらにクリスマスツリーのように飾り付けるバッグ作りに挑戦した。トイレットペーパーの芯では昆虫やコースターなどを作った。再生紙は、関彰商事の廃棄書類から作られた再生紙でクリスマスツリーに飾るオーナメントを作った。 ほかに、筆で文字を書いたりスタンプを使ったりする「オリジナル年賀状づくり」、小さな透明な容器に砂や石などを敷きミニガーデンをつくる「テラリウムづくり」など計七つのブースが設けられた。 午前、午後合わせて昨年より多い82人の小学生が参加。子供たちは二つの会場に設けられた各ブースを自由に行き来しながら、自分だけの作品を作っていた。 ちぎった和紙を台紙に貼り付けてオリジナルのクリスマスカードを作るブースでは、子供たちがちぎった和紙を接着剤で貼り付け、少しずつ形にしていく。工作時間は30分だが、10分ほどで仕上げる子もいた。 市内から参加した小学2年の女子児童は「参加したのは2回目。クリスマスツリーを作った。ていねいに教えてくれたので、思ったよりやさしかった。来年もまた来てみたい」と話していた。 テラリウムの指導にあたった同大生物資源学類2年の渡邊奏和さんは「自分は芸術専攻ではないが参加した。子供たちにどう伝わるかわからないこともあるが、子供が好きなので教えるのは楽しい」と感想を話した。(榎田智司)

サイエンス高校と筑波高校の魅力《竹林亭日乗》35

【コラム・片岡英明】文科省は11月、今年度補正予算に公立高校の魅力向上のために約3000億円の基金を設置すると発表した。この予算が成立すれば、学費無償化を含め、公立学校の魅力アップ策も導入されることが期待できる。こうした動きも念頭に置き、今回は県立のつくばサイエンス高校と筑波高校の学校づくりについて考えたい。 サイエンス高:探求重視の進学校 2022年まで4学級だったつくば工科高は、23年から科学技術科6学級で構成されるサイエンス高校となった。しかし、初年度の入学者は88人(つくば市内からは53人)、24年は77人(同53人)であった。そこで県は、「普通科を!」の声を受けとめ、学級編成を変更し、25年から6学級中3学級を普通科にした。すると、市内からの入学者は111人に激増し、全体の入学者も178人(つくば工科時代の22年は134人)に増えた。 24年→25年の中学別入学者数を見ると、並木中:1人→10人、谷田部中:5人→25人、谷田部東中:8人→21人、みどりの中:8人→12人など、地元の入学者が増え、県立高改革が軌道に乗り始めた。 その理由としては、ノーベル賞受賞の小林誠さんが名誉校長であること、4名の外国語指導助手(ALT)などスタッフや設備が充実していることが挙げられるが、私が注目しているのは教育課程である。どの教科を、いつ、どれだけ学ぶかは学校教育の要だからだ。 進学校には、2年生から文・理を分ける受験重視の土浦二高・牛久栄進高型と、1・2年は基本共通科目とし教養を重視する土浦一高・水戸一高型がある。サイエンス高は最初から文・理融合をモットーに教養重視型で、この大きな「構え」に設立当初のスタッフの深い理念が感じられる。 リニューアル開学3年目に学校見学させてもらったところ、学校も一新され、生徒が楽しく学んでいた。職員室前には、山形大工学部をはじめ10数人の大学合格者が掲示されていた。話を聞きながら、今後、京都市の堀川高校や千葉県の市川学園が参考になるのではないかと思った。 筑波高:地域と連携した多面校 小規模校の魅力アップは茨城県の重要な課題である。その点、地域との連携に踏み出した筑波高の学校づくりは注目に値する。改革2年目の進学コースの様子に関心を持ってお話を聞いたところ、少人数での学習だけでなく、進学コースのまとまりや意識も高まってきたという。今後が楽しみである。 先日、筑波高も参加している地元北条の「祭り」を見学した折、生徒の「学校が楽しい」との言葉を聞いた。小田城址で開かれたジャズフェスでのスタッフ活動や、老人ホーム訪問後、「次はあの老人をどうすれば笑顔にできるか」と工夫する取組みなど、フィールドを持つ学びの可能性を感じた。話を聞きながら、校内の川の清掃やヤギを飼うなど、幅広い学びのある武蔵高校・中学が参考になるかなと思った。 茨城の学校づくりのモデルに 筑波高は、保護者も卒業生という生徒が多く、地元とのつながりが深い。また、歴史あるサイエンス高は、地元中学の期待が大きい。地域の応援を受け、この2高が茨城の学校づくりのモデルになるよう期待している。(元高校教師、つくば市の小中学生の高校進学を考える会代表)