金曜日, 4月 23, 2021
ホーム つくば 明けまして。パンダマウス 日本産 生物遺伝資源 江戸時代からはるかな旅

明けまして。パンダマウス 日本産 生物遺伝資源 江戸時代からはるかな旅

【相澤冬樹】年の初めの福ネズミ、理化学研究所バイオリソース研究センター(つくば市高野台)の城石俊彦センター長(66)が紹介してくれるのは白黒のブチ模様、ご丁寧にも耳と顔の輪郭を黒く縁どるパンダマウスだ。1980年代にデンマークで見つかり実験動物として系統化されたマウスだが、素性をたどると18世紀、日本の江戸時代の愛玩ネズミにまで行きつくことが分かってきたそう。小さな体に宿るジャポニズムの系譜を追う。

研究リソースを日本から生み出す

理研バイオリソース研究センター長、城石俊彦さん

バイオリソースは生物遺伝資源のこと。実験に使う動植物は、かつては研究者自身が用意したが、経費や労力の効率化から収集や育成を専門に行う機関が設けられた。理研のバイオリソースセンター(BRC)は2001年の設立、19年4月に就任した城石さんが3代目センター長になる。前任地の国立遺伝学研究所以来、ゲノム解析や遺伝解析によるマウス研究に携わってきた。

BRCでマウスとはハツカネズミを指す。9000系統近くが保管されているなかに、ドブネズミなどのラットはいない。老化や免疫など生命現象の理解やヒトの病気の治癒、創薬の研究に欠かせないモデルとなる。過去10年にわたり毎年3000系統前後のマウスを国内外の研究者に提供してきたという。

実験用マウスの系統のほとんどはヨーロッパ産マウスを元に米国で生まれたものだ。日本では1970年代、国立遺伝学研究所の森脇和郎博士(1930-2013)を中心に「自分たちのリソースをつくろう」と、同研究所がある静岡県三島市で捕獲した野生マウスからMSM/Ms(通称・ミシマ)を系統化するなどしている。森脇博士はこの過程で、世界中の野生マウスを採集し、多数の近交系統を生み出した。何世代にもわたって近親交配を繰り返し、がんにかかりにくい形質などを遺伝的に樹立する手法である。

ジャポニズムとメンデル

後にBRC初代センター長となる森脇博士の元で働いたのが城石さんだった。森脇博士は1987年に、デンマークのペットショップでパンダマウスを発見している。

この模様には見覚えがあった。天明七年(1787)に「珍玩鼠育草」という本が出版されている。著者は定延子、現代語訳すれば「変わり種ネズミのカタログ」というべき図録で、掲載された「豆ぶち」というネズミがパンダマウスそのものだった。

調べると、江戸時代の日本では、金魚やアジサイなどの動植物を品種改良する市井の文化が花開き、ハツカネズミでもさかんに行われた。幕末から維新の時期に、浮世絵などを買い求めるジャポニズムが欧米で流行し、これに乗って愛玩ネズミも流出したらしい。さらに20世紀初頭、ヨーロッパでは「メンデルの遺伝法則」の再発見により交配実験ブームが起こり、ここで豆ぶちネズミの白黒模様が格好のモデルとなったことが当時の文献から分かってきた。

近交系統化によって、パンダマウスにはJF1/Msの名がつけられた。JFは Japanese Fancy、すなわち日本の愛玩ネズミから採られている。

パンダマウスは便秘がち

遺伝子レベルで調べると、JF1/Msは現在実験用マウスとして国際的に最もよく用いられるC57BL/6という系統のマウスとDNA配列が0.8%しか違いがないことが分かってきた。従来、系統樹の根元にあった中国由来のマウスより近いのである、さらにC57BL/6をはじめとする実験用マウスには、こぞって7%の部分にJF1/Ms由来のゲノム領域が認められるのである。

つまり、日本産バイオリソースを探して行きついたのは、「150年以上の時を経て、日本からヨーロッパに渡り、欧米からから日本に戻ってくるというはるかな旅だった」と城石さんは述懐する。

ちなみにパンダマウスは便秘になりやすく、白黒まだら模様をつくる遺伝子と関連がありそうなのだという。遺伝子を一つ変えるだけでマウスは白黒から茶色に戻る。これで便秘まで治るか、遺伝子治療の研究中ということだった。

会員募集中

NEWSつくばでは、私たちの理念に賛同し、一緒に活動していただける正会員、活動会員、ボランティア会員、および資金面で活動を支援していただける賛助会員(クレジットカード払い可)を募集しています。私たちと一緒に新しいメディアをつくりませんか。

スポンサー

注目の記事

最新記事

日本の子どもは可哀そう 《ひょうたんの眼》36

【コラム・高橋恵一】青年海外協力隊員として東南アジアに派遣された青年の経験談である。優れた日本農業技術で作物を育てたところ、高温多湿の気候の効果もあって、半年でそれまでの1年分の収穫ができた。現地農民は、大喜びをした。次に、協力隊員は、後半の作付けに取り掛かろうとしたところ、農民は動かない。1年分の収穫ができたのだから、もう働く必要がないというのだった。30年前のことだ。 青年海外協力隊員は、苦笑しながら、現地農民の経済感覚を伝えてくれたが、今なら、ゆとりのできた時間や資金をどう使うかを考えたかも知れない。 日本では、高度成長期から、成果をひたすら企業資金力の強化に回し、労働時間の短縮やセーフティーネットの構築、地球環境の改善・保護に回すことはほとんどなかった。 それから30年。日本の幸福度ランキングは、世界で56位。韓国とピッタリ寄り添って、ロシア、中国の少し上位に位置しているが、OECD(経済協力開発機構)37カ国のうち最下位レベルだ。 我々の生活レベルを考える時、「昔」と比べると、格段に忙しさが変わって来ている。拘束された忙しさ、義務的な忙しさである。 日本の幸福度を改善するためには、就業時間を短縮し、最低賃金を思い切り上げればよい。毎日の労働時間を7時間、週35時間以内にすれば、全く違う世界が見えてくる。当然、フレックスタイムが導入され、満員電車も解消する。生産力を維持するためには、雇用を拡大しなくてはならない。女性の役割が大きくなり、より多様性が拡大する。変化への原動力は、格差社会の解消である。

高齢者施設にワクチン配送 65歳以上4万7000人に接種券郵送も つくば市

高齢者を対象にした新型コロナウイルスワクチンの配送が22日、つくば市で始まった。同日午前、第1便となるファイザー社製のワクチンが、市内の介護老人保健施設に1カ所に届けられた。併せて同日、市内の65歳以上の高齢者約4万7000人にワクチン接種券が郵送された。23日以降、各家庭に届く。 マイナス70度の超低温冷凍庫から取り出したワクチンを必要な数だけ素早く配送用の保冷箱に移す作業員=22日、つくば市役所 配送されたワクチンは、17日に国から届いた2箱(1950回接種分)のうちの一部で、市役所内に設置された超低温冷凍庫でマイナス75度で保管されていた。 4月26日から5月3日の週には5箱(4875回接種分)が国から届く予定で、医療機関のほか、特別養護老人ホーム10カ所とグループホーム18カ所にも届けられる予定だ。 接種開始は5月24日

開園25周年 つくばわんわんランド 「人とペットが共存する拠点に」

日本最大級の犬のテーマパーク「つくばわんわんランド」(つくば市沼田、東郷治久社長)が27日、開園25周年を迎える。1996年4月27日、現在の3分の1ほどの面積でスタートした。ペットは家族の一員であるという価値観が浸透すると共に、犬を見せる施設から犬と触れ合う施設へとコンセプトを変化させてきた。現在、約90種約500匹の犬がいる。 寺崎修司園長は「日本のペットに対する意識は、ペット先進国と比べまだまだ遅れているところがあるので、正しい知識をもって人と動物が共存する社会を目指す拠点になれれば」と話す。 珍しい大型犬、ナポリタンマスティフをなでる寺崎園長 25周年を記念して26~28日の3日間、25歳の人と小学生以下の入園料が100円になる特別イベントが開催されるほか、ゴールデンウイーク(GW)中の29日から5月5日まで、グループ法人のつくば国際ペット専門学校講師による犬のお手入れ教室やしつけ教室などが開催される。 園のシンボル 黄色い木造犬は4代目

別の学校も臨時休校 つくば市教員が新型コロナ

つくば市は21日、市立学校教員が新型コロナウイルスに感染していることが分かり、この教員が勤務する学校を22~23日の2日間、臨時休校にすると発表した。 市教育局学び推進課によると、20日に感染が確認された教員が勤務する学校とは別の学校という。 21日感染が分かった教員の濃厚接触者は現在、保健所が調査している。この教員の症状や、いつまで勤務していたかなどは公表しないとしている。 一方、20日に教員の感染が確認され、21~22日の2日間、臨時休校としていた学校は、23日から通常通り授業を開始する。