火曜日, 9月 26, 2023
ホーム 土浦 【アングル土浦市長選】3 寄付講座で黒字転換の霞ケ浦医療センター 「再編統合」のリスト入り

【アングル土浦市長選】3 寄付講座で黒字転換の霞ケ浦医療センター 「再編統合」のリスト入り

【相澤冬樹】県も市も、当事者の病院も声をそろえ、「寝耳に水だった」と振り返る。厚生労働省が9月26日、診療実績が少ないなどとして、再編統合の検討が必要な全国424の公立・公的病院名を公表した際、リストに霞ケ浦医療センター(土浦市下高津)の名があったため、周囲に動揺と戸惑いが広がった。

院長メッセージを発信

以来1カ月、利用者や住民から問い合わせが寄せられる同センターでは、情報を収集し、県、市との協議を繰り返す中で、ようやく事態の輪郭が飲みこめてきた。今月末に鈴木祥司院長(56)名で「患者」と「院内」向けに、今後とも病院の役割を「しっかり行っていく」旨、メッセージを発する準備が整った。

それによれば、今回の公表は厚労省が強制力を持って病院の再編・統合を進めるものではなく、県が主導する地域医療構想会議で議論し、地域の中での病院の役割を明らかにするのが目的と受け止めている。同構想は2025年の医療需要と病床の必要量を見通し、分担や連携などによって医療提供の体制を実現するための施策をまとめるもの。会議は県内9保健所ごとに設置され、土浦地域医療構想会議(委員長・小原芳道土浦市医師会長)は同市と石岡市、かすみがうら市をエリアとし、行政、医療・福祉関係者など約20人で構成される。

土浦市などによれば、同会議ではこれまで、全国で下位から2番目の医師不足の茨城県にあって、同市へは鹿行地域などから患者が押し寄せ、産婦人科病院のない石岡市からの流入も顕著になっている現状を踏まえ、病院機能の分化と連携が議論されてきた。高次医療について同センターと土浦協同病院に加え、近隣の筑波大学付属病院、東京医大茨城医療センターのそれぞれの持つ機能に合わせた体制の構築を議論してきた。

霞ケ浦医療センターは2004年、それまでの国立病院から独立行政法人に改組となり、会計上「独立採算」となって経営がひっ迫、40人以上いた常勤医が2010年には18人まで減って、経常収支も悪化した。廃院も取りざたされ、地元住民から病院支援の陳情運動が起こり、同市が総理大臣あて意見書を提出する事態にまでなった。

地方自治体からの支援を可能にする地方財政法の改正を受け、同市は12年、同センター内に筑波大学大学院の研究科を置く「寄付講座」を設けた。土浦地域臨床医療センターと呼ばれるもので、医療者の研究と教育の役割も担っている。

同市によれば12年度からの5年間は2億6600万円を寄付、17年度から第2期に入り、2年間で1億5400万円を寄付した。教員(医師)数でいえば、教授3人、講師2人の派遣を受け入れたことになる。19年度からは筑波大学のフラッグシップホスピタル(地域拠点病院)にも指定された。

これらの取り組みの結果、病院収支は改善、18年度は経常収支が黒字となった。同年度の医師数は常勤医39人、非常勤8人で以前の水準に戻した。手術件数は2287件で07年1189件の倍近くになった。

1年で対応策とりまとめ

土浦協同病院が16年、同市おおつ野に病床数800の新病院を建設して移転して以降、同市の桜川以南の住民には同センターが存在感を増している。鈴木院長によれば「霞ケ浦医療センターは土浦の市民病院的な役割を担い、急性期の患者だけを診るのではなく、二次救急から在宅医療・介護までをマネジメントできる医療者のリーダーを育成してきた」という。

海軍病院の名残りをとどめる東郷平八郎の書を前に取材に応じる鈴木祥司院長

地域医療構想会議においても「再編統合」の話にはならない。団塊世代がそろって後期高齢者となる「2025年問題」を越えて、高齢者人口が総人口の3分の1を超えると推計される「2040年問題」に向け、同センターの機能転換についての議論に踏み込んでいた。課題となっている周産期患者の受け入れ拡大などのため、病院の改築も目論んでいた。そんな矢先の厚労省の発表だった。

「よくよく聞いてみると、公表の根拠は2017年6月単月の診療実績によるものだった。病床の絶対数で差のある土浦協同病院との単純比較には納得できない点もあった」と鈴木院長。これまでの取り組みには自信をもっているが、病院の建て替え話は仕切り直しを迫られた格好だ。医療費削減を至上命題とする国からの資金投入が期待できないなか、自治体が再編策に反発しても財政負担を伴う施策を打ち出せるか、同会議を通じ対応策は来年9月までにまとめることになる。

➡【アングル土浦市長選】の既報はこちら

スポンサー

注目の記事

最近のコメント

最新記事

つくば市への無償譲渡は妥当 県議会調査特別委が結論 洞峰公園

県議会の第3回県有施設・県出資団体調査特別委員会(田山東湖委員長)が25日開かれ、前回、審査継続となっていた(8月30日付)県営の都市公園、洞峰公園(つくば市二の宮)を地元のつくば市に無償譲渡する県執行部の方針について審査が行われ、無償譲渡の方針は妥当とする決定が全会一致で出された。 妥当と結論を出した理由については、洞峰公園は①筑波研究学園都市開発に合わせて県が設置管理を行ってきた経緯があるが、公園の本来の位置づけが主として一つの市町村の区域内の利用者を見込んだ総合公園である②無償譲渡は将来の維持管理費の負担を県から市に変えるという性格をもち、経費の前払いとも考えられる③公園移管によるつくば市の財政面の影響についても大きな問題はなく、市からの理解も得られている④すでに市と十分協議の上、調整が進んでおり、市へ影響なども考慮する必要があるーなど8点を挙げた。 その上で田山委員長は、洞峰公園をめぐる一連の経緯について「本来(公園の管理運営方法など)方針を変えるごとに慎重な議論や説明が求められるところ、パークPFI事業のみが先行し、県民や市民、議会への説明が置き去りにされてきた」と指摘し、「二元代表制において議会と知事は車の両輪であることを改めて認識いただき事業を進めていただきたい」などと苦言を呈した。 さらに「今回の案件に関しては方針通りに進めていただきたいが、執行部に対しては現行の仕組みで欠落している部分、例えば譲与に関する条例や取扱基準の見直し、議会への報告の義務付けなど、今後きちんと議会として関与していけるよう早期に具体的な仕組みづくりの検討を進め、随時、委員会への報告に努め、委員会においても検討していきたい」などと指摘した。 公園の更新費40億円、施設は8割の32億円を想定 決定に先立つ審査では、新都市記念館や体育館など公園施設の今後の維持・管理費について江尻加那県議(共産)から質問が出た。つくば市が示した年平均約3500万円の修繕費用について大塚秀二県都市整備課長は「詳しい中身までつくば市から説明を受けた訳ではないが、考え方の基本として、予防的修繕を行うにあたって15~20年のサイクルを考えて(修繕に)かかるお金を年平均に直した場合、3500万円ほどと算出されていると聞いている。施設の更新費はこれからかかってくる。施設の更新費は、耐用年数80年を考えると、20年の外側になってくるので、更新費は入ってないという解釈になる」とした。

「イモ博士」井上浩さんを偲ぶ《邑から日本を見る》144

【コラム・先﨑千尋】日本におけるサツマイモ文化史研究の第一人者であり、イモに関する「生き字引」だった埼玉県川越市の井上浩さんが去る7月に92歳で亡くなった。その死を惜しんで、9月13日に同市の「いも膳」で偲(しの)ぶ会が催され、関係者らが井上さんの思い出を語り合った。 井上さんは東京教育大(現筑波大)で農業経済史を学び、浦和高校や松山高校で社会科の教師を務め、地元の物産史を研究。その範囲は、埼玉県内の麦、養蚕、柿、川越イモ、入間ゴボウ、サトイモなどのほか、織物の川越唐桟の復活や民俗芸能にも及んだ。 井上さんは、1960年代から川越イモの歴史文化の研究を始め、川越市制60周年の時(1982)には「川越いもの歴史展」を、翌年には「第1回川越いも祭」を企画開催した。さらに84年には、市内の熱心な“いも仲間”を集め、「川越いも友の会」を発足させ、サツマイモ復権運動のさきがけとなった。 同時に、『川越いもの歴史』『昭和甘藷百珍』『さつまいもの話』などを次々に世に出した。公民館主催の「さつまいもトータル学」の講師も務めた。この時期にサツマイモ調査団を組織し、鹿児島や中国を訪問し、それぞれの産地を巡り、現地の研究者たちと交流し、情報を集めている。 82年に神山正久さんが開いた「いも膳」のいも懐石料理にもアドバイスをされ、神山さんは井上さんらの意を汲んで自費で民営の「サツマイモ資料館」を敷地内に開設。井上さんが定年退職したあと、16年間館長を務められた。 この資料館にはサツマイモに関する資料や加工品、文献などが集められ、いも煎餅などのいも菓子類が購入でき、ここに来ればサツマイモのことなら何でも分かるというものだった。この種の資料館、博物館は他にはなかったので、全国のサツマイモ産地から関係者が次々に訪れ、情報の交流の場、サツマイモ活動の拠点にもなった。

県内最古の土浦幼稚園 認定こども園として10月開園

県内で最初の公立幼稚園として138年前の1885(明治18)年に創設された市立土浦幼稚園(土浦市文京町)が、幼保連携型の認定こども園に生まれ変わり、「認定こども園土浦幼稚園」(塚本由美子園長)として10月2日に開園する。開園を前に24日、同園で開園式が催され、10月から同園に通う園児らが安藤真理子市長らとテープカットをしたほか、歌を歌ったり、父母らと園内を見学した。幼稚園と保育所の機能をもつ公立の認定こども園は同市で初めて。 土浦幼稚園は、市立東崎保育所(同市東崎町)と統合し認定こども園として再編するため、2022年3月に閉園した。老朽化していた園舎の改修工事が同年10月から実施され、今年8月に完成した。 開園式で土浦幼稚園の園歌を歌う園児たち 同園は敷地面積約2300平方メートル、園舎は鉄筋コンクリート造2階建てで、延べ床面積約1100平方メートル。1階は0歳~2歳児の教室のほか、子育て支援センター、一時預かり室、給食室などが配置され、2階は3~5歳児の教室のほか、ホール、共用空間のキッズスペースが配置される。 各階に段差は無く、エレベーターや多目的トイレを設置しバリアフリーに配慮している。園舎は明るく開放的なつくりで、内装は、木の温かみと園児の健康を考慮し、木材や自然素材を使用している。外観は、変化のあるフレームや色で楽しさや明るさを表現している。園庭は土浦幼稚園と同じ天然芝を敷き詰めている。設計・工事費は計約4億5000万円。

大池由来水草の域外保全の試み《宍塚の里山》105

【コラム・嶺田拓也】2010年に農水省が選定した「ため池百選」に指定された宍塚大池では、かつて豊かな植生が見られました。とくに水草では、抽水植物であるハス、フトイ、カンガレイなど、浮葉植物ではヒシ、ハス、オニバス、ジュンサイなど、沈水植物ではクロモ、イヌタヌキモ、エビモ、シャジクモなど、多くの種類が生育していました。しかし、近年はヒシの葉が浮かぶ程度で、多くの水草が大池から姿を消してしまいました。 その原因としては、水質の変化やアメリカザリガニの影響などが考えられています。全国的にも各地で水草の衰退は著しく、その多くが絶滅危惧種に指定されるほどまで減少してしまいました。大池に見られた水草のうち、オニバス、イヌタヌキモ、シャジクモなどが全国的に絶滅の危機にあるとして、環境省から絶滅危惧指定を受けています。また、ジュンサイやクロモなどは茨城県のレッドデータリストで、県内では数少なくなった絶滅危惧種に扱われています。 私たち「宍塚の自然と歴史の会」では、大池で見られた希少な水草を絶やさないために、大池の底土を採取して、埋土種子として含まれている水草の系統保全を行っています。 大池の堤防から400メートルほど北側に位置する井戸のわきに、水草保全地として大きな水槽を並べて大池の底土を入れ埋土種子からの発芽を待ったところ、これまでオニバスやジュンサイ、クロモ、シャジクモなど多くの種類が再生し、系統が維持されてきました。しかし、この夏の猛暑で、給水用の井戸のポンプが故障してしまったことで、水槽に水がまかなえなくなり,大池由来の希少な水草が全滅してしまう危険性に見舞われました。 環境科学センターなどで見てね そこで、系統保全していた水草のうち、大池産の水草としてシンボル的なオニバスとジュンサイについて、全滅のリスクを避けるため、これまで里山保全にご理解・ご協力いただいている茨城県霞ケ浦環境科学センター(土浦市沖宿)、茨城県自然博物館(坂東市大崎)、奥村組技術研究所(つくば市大砂)の3カ所に域外保全することにしました。

記事データベースで過去の記事を見る