【橋立多美】「高齢者は運転免許を返納すべき」の風潮はおかしいと話す人がいる。自家用車に頼らざるを得ない地域の高齢者は、返納したら生活が成り立たなくなると訴える人もいる。切実な声や地域の状況に耳を傾けた。
高齢者をひとくくりにした自主返納の動きに「待った」をかけるのは、つくば市南部に位置する住宅団地あしび野に住む稲川誠一さん(75)。茎崎地区民生委員の傍ら「通学路の安全を守る会」の代表で、市立茎崎第二小学校に通学する児童たちの登下校を見守っている。
「運転能力は年齢差ではなく個人差だと思う。そこに目を向けず、もう年だから返納したほうがいいという動きや、75歳以上の高齢者を対象にした認知機能検査で片づけようとするのは納得がいかない。実際の運転技能で判断してもらいたい」
同会の会員で富士見台在住の中村房好さん(67)は「認知機能検査の効果はどうなのか。認知症になった高齢者が免許を返納したことを忘れて無免許で運転したり、車で徘徊(はいかい)する例もあると聞く」と疑問をぶつけた。
自転車切り替えにもリスク
井上文治さん(70)も富士見台在住の会員。井上さんは「牛久沼に突き出た稲敷台地に広がる富士見台やあしび野には、これまでバスが走っていなかった。市の新規路線バス実証実験で4月から1日8便が牛久駅まで運行しているが、実証実験が終わる3年後は分からない」と不安げ。「この辺りでは体を壊さなければ80歳を過ぎても運転するのは珍しくない。自主返納は公共交通が充実している都市部の場合で、代わりとなる生活の足のない地域の高齢者は車がなかったらどうやって生きていけばいいのか」と話した。
交通事故を心配する息子や娘に「買い物は一緒に行くから」と返納を促されるケースが多くなったと稲川さんは言う。しかし返納後は若い世代だけで出かけて高齢者は取り残される。それを予測するのか、かたくなに免許を手放さない人がいるとも。
稲川さんの気がかりは移動手段を自転車に切り替えた人だ。バランスを崩しやすく、側溝に落ちてけがをした人が少なからずいる。同地区細見の70歳の男性は「家族は本人のために免許返納と言うが、替わりの自転車はフラフラして車の運転より危ない。転倒して下手すりゃ骨折して寝たきりになる」。
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県内の交通事故死者数は2018年 122人で、前年から21人減じた。うち65歳以上の高齢者が65人(前年80人)で、死者全体の過半数を占める。内訳は歩行者が最も多く44%の29人(横断が19人、その他が10人)、前年は36人(横断中27人)だった。次いで四輪車運転18人(前年19人)、自転車11人(同13人)、四輪車同乗4人(同8人)、二輪車運転3人(同3人)の順で推移した(県警「いばらきの交通事故」2017年版・18年版)。
歩いての道路横断や、気軽に乗れる自転車にも事故の危険やリスクは潜んでいる。県警はドライバーに高齢者の自転車利用者を見かけたら、思わぬ動きに対応できる速度で走行するよう呼び掛けている。
つくば中央警察署交通課によれば、市内で65歳以上の高齢者による自転車事故は一昨年10件、昨年は14件、今年は7月末までで6件。死亡事故はゼロで件数は増えていないが、免許返納に合わせて増加する懸念はあるという。
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