【橋立多美】現在の高齢者は自動車が大衆化し、遊びや買い物にマイカーの恩恵を受けてきた世代。それを絶たれると生活はどうなるか。返納した当事者たちに話を聞いた。
つくば市茎崎地区の森の里は住民の約半数を高齢者が占め、最近は自宅の駐車スペースに車がない家が多くなったという。
森の里の福本稔さん(81)は今年1月15日に運転免許を返納した。80歳になった頃から視野が狭くなったと感じたり、よく知っている道でも迷うようになった。運転に不安を覚えるようになり、5歳年下の妻の「80歳過ぎたし、そろそろ運転は止めたら」の言葉が背中を押した。
琴の講師の妻は指導のために車を運転し、買い物などに不便はない。夫の稔さんに進言したように「今はまだぼんやりだけど、私も80歳で運転免許を返納すると思う」と話す。「森の里は牛久駅とつくばセンター行きのバスはあるし、生活するには困らない」とも。
楽しみが一つ減った
レストランや映画館が併設されたショッピングモールに行けなくなったと話すのは同団地の村上琢磨さん(83)。一時停止違反をきっかけに昨年4月免許を返納して車を手放した。
高齢ドライバーによる悲惨な事故のニュースを見て「自分はいつまで運転できるか」と迷っていた時期に、取り締まりを受けて反則金を払った。いつも交通ルールを守っていただけにショックを受け、気持ちの整理がついたという。
「(自宅近くに)スーパーの移動販売車が来るし市内に住む息子が食材を届けてくれる。妻の通院は路線バスで牛久駅まで行き、駅から病院の巡回バスを利用している」。そして「困ってはいないが」と前置きした上で「運転していた頃はドア・ツー・ドアでショッピングモールに行ったが、今はバスを乗り継ぐしかない。楽しみが1つなくなった」と村上さんは話した。
夫の都合に左右
判断力が鈍りこのまま運転を続けては危険だと、2年前に自主返納した76歳の女性は、夫の運転に依存する生活にストレスを抱えることになった。
外出は2歳上の夫が運転するマイカーを当てにしていたが、あらかじめ約束を取り付けておいても夫の都合で左右される。夫は交友関係が広く不意に訪問客があれば時間が押され、「今日は無理、明日だ」とキャンセルされることも少なくない。
次第に買いだめするようになり、冷凍室は肉と魚のストックで常にパンパン。洋服選びは「まだかい」と催促されてゆっくり楽しむ時間はない。腰痛対策のプール通いも足が遠のいた。
便利さと事故を起こすかもという不安をはかりにかけ、人様を傷つけるほうが重いと判断したから仕方ないと言いつつ、「返さなきゃ良かったと思う時がある」と漏らす。
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