日曜日, 11月 23, 2025
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原発事故を超えて つくばの原木シイタケ生産者 全国サミット開催へ奔走

【相澤冬樹】茨城県の原木シイタケ生産量は2016年に401.6トン、福島第一原発事故後の出荷制限・自粛下にありながら静岡、鹿児島、群馬に次ぐ第4位となったことはあまり知られていない。さらに年間150トンを出荷するという生産者がつくば市にいることはもっと知られていない。「おそらく日本一のはず」と胸を張るのは、なかのきのこ園(つくば市中野、飯泉厚彦社長)の創業者、飯泉孝司さん(71)。事業を子息に任せ、自身は全国の生産者らに参集を呼び掛けて、8月につくばで「原木しいたけサミット」を開催すべく東奔西走の日々を送っている。

県内19市町で続く出荷規制

2011年東日本大震災時の原発事故に伴う放射性物質の影響により、県内産原木シイタケは大打撃を受けた。19市町で出荷制限・自粛の規制がかかり、10市町村で一部解除になったものの、現在も19市町すべてで継続中だ。「規制と風評被害に耐えかねて廃業してしまったものも多く、生産者が再出荷に向け線量検査など申請手続きを行わなければ出荷規制だけが残ることになる」(飯泉さん)。事故当時県内に約500人いた原木シイタケ生産者は150人ほどになった。

被ばく線量の基準値を下回ったつくば市は規制の対象から外れたものの、飯泉さんは原木のホダ木約200万円分を廃棄処分にした。このため丸1年、生産できない時期が続いたが、再開には次のハードルが待ち受けていた。原木の高騰である。

きのこ園では原木にコナラとクヌギを用いているが、つくば周辺の生産者5人で共同購入グループを組んで、調達先を福島・阿武隈山地に確保していた。1本の木からホダ木7本が取れる。グループの年間使用量40万本のためには1ヘクタール約7000本として、60ヘクタール分が必要。植林から伐採まで約20年かかるのを見込み、1200ヘクタールもの広さを手当てしていた。福島県内の、その調達先が消えた。

当座は在庫でしのぎつつ、長野県産に切り替えるなどの措置をとった。7センチ径で長さ70センチの原木1本が事故前は200円だったのが、今は倍の400円以上している。東電の震災復興基金からの助成が入るが、これも19年度までで打ち切りとなる。この先原木調達が生産コストを押し上げるのは必至だ。

「今後の活路見出す」

川上に自前の原木調達先を持たず、川下に安定した流通経路を確保していない産地には苦境が待ち受けている。飯泉さんは、生産、販売に関わる課題と情報を共有し、今後の活路を見出すべく、全国の産地に連携を呼びかけた。

所属団体の東日本原木しいたけ協会(古河市)を社団法人化する過程で知り合った大分県の阿部良秀さん(現日本椎茸農業協同組合連合会長)らと協議を重ね、実行委員会形式で初のサミット開催を打ち出した。行政に協力を求める一方、消費者も巻き込んで、森林や山村の豊かな環境を保全するなかで成長戦略を描く道筋を考えた。「全国規模となると原発問題は扱えないし、第1回とも打ち出せない。しかしSDGs(持続可能な開発目標)に懸ける思いは強くある」という。

「原木しいたけサミット」は8月29、30日、つくば市小野崎のホテルグランド東雲をメーン会場に開催。全国から約150人の参加を見込み、パネルディスカッションや6分科会での討議を予定している。2日目の現地視察はなかのきのこ園が会場、付属のレストランでシイタケ料理の試食会を行う計画でいる。

1年を通じ出荷作業の行われる原木シイタケ=同

菌床栽培全盛の中で

スーパーなどに並ぶシイタケには、生(なま)と干しの2種類あるのはご存知だろうが、生産の仕方でも2通りに分けられる。短く切った樹木に菌を植え付けて林地やハウスに並べて栽培する原木栽培と、粉砕した樹木のオガクズなどから作る菌床を用いてハウス栽培する菌床栽培である。人工的なシイタケ栽培が始まったのは大正年間で、そんなに古いものではないが、昔からの手間ひまかけて作るのが原木栽培で、近代化されたオートメーション促成型が菌床栽培といえる。

シイタケ菌を植え付けた原木をホダ木といい、これを寝かせて生育を待つだけで1年以上を要するのに対し、菌床なら3~4カ月で収穫でき、同じ面積のハウスなら4倍以上生産可能という。だから、今日では両者の生産量に圧倒的な差がついた。林野庁統計によれば、16年の生シイタケ生産量は全国で6万9707トン、うち原木栽培は7322トンに過ぎない。天候や気温の影響を受けやすい原木栽培は生産量が上下しがちだが、概ね全体1割前後にとどまっている。

1975年から一貫して原木シイタケ栽培に取り組んでいる飯泉さんによれば、見た目はもとより、食品成分を調べても両者の間に明確な差は認められないそうだ。それでもなぜ原木栽培を続けるかといえば、「食べれば分かる」という味覚へのこだわりにほかならない。大口出荷先の生協からも、飲食店からも原木シイタケ以外の取引はしないと言われている。

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高所作業車から2人が転落 つくば市並木大橋

アームが車線はみだし大型トラックと接触 20日午後0時5分ごろ、つくば市並木4丁目、学園東大通りに架かる並木大橋で、作業員2人が高所作業車のアームの先端に設置されたゴンドラに乗って作業中、アームが隣の車線にはみ出し、走行してきた大型トラックの荷台に接触、ゴンドラに乗っていた20代と30代の男性作業員2人が4~5メートル下に転落した。2人は救急車で病院に運ばれたが、30代男性は重体、20代男性は重傷を負った。2人共、意識はあるという。 つくば市道路整備課によると、工事は同市が発注した橋梁長寿命化補修工事。この日は、東大通りの片側2車線の道路のうち、荒川沖方面に向かう、並木地区の住宅街側の1車線を通行止めにしていた。作業員2人はアームの先端のゴンドラに乗って、橋の底部のコンクリートひび割れの補修作業を実施、ひび割れ箇所に注射器のような注入器具を取り付けて薬剤を注入し、取り付けた注入器具を回収する作業をしていた際、注入器具を回収するためアームを隣の車線の上に動かしたところ、走行してきた大型トラックの荷台にアームが接触した。 転落した作業員2人はいずれも下請け会社の作業員だった。 同課によると、本来、アームを隣の車線の上に動かす際は、隣の車線も一時通行止めにすべきだったが、規制しなかったという。市によると、なぜ車線を規制しないままアームを動かしたかなどの原因は現時点で不明としている。 この事故で、アームが動かなくなり高所作業者の撤収に時間がかかったなどから、荒川沖方面に向かう片側2車線がいずれも、同日午後6時15分まで約6時間にわたり通行止めになった。路線バスと高速バスのバス停3カ所も利用できなくなった。 並木大橋の橋梁補修工事は6月3日に始まり、来年1月30日まで実施される予定。再発防止策として市は同日、元請け業者に対し、工事現場の規制方法の再確認や交通誘導員及び現場作業員に対する安全対策の再教育を指示した。さらに現在、市の工事を受注している全事業者に対し、安全対策に関する指導を徹底するとしている。